出エジプトとは? わかりやすく解説

出エジプト記

(出エジプト から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/01 09:55 UTC 版)

出エジプト記』(出埃及記[1]、しゅつエジプトき、ヘブライ語: שמות英語: Exodus)は、旧約聖書の2番目の書であり[2]、『創世記』の後を受け、モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語を中心に描かれている。モーセ五書(トーラー)のひとつ[3]であり、ユダヤ教では本文冒頭より2番目の単語から『シェモース』(Shemot)と呼ぶ[注釈 1]。全40章から成る。

構成

エジプト脱出とシナイ山での契約が二つの大きなテーマとなっている。キリスト教において旧約聖書という時、「旧約」すなわち古い契約というのはこのシナイにおける神と民との契約のことをさしている。

  • エジプト脱出
    • ヤコブ後のエジプトにおけるユダヤ人の状況(1章)
    • モーセの物語(2章 - 4章)
"エジプト第七の災い"、ジョン・マーティン、1824年
"エジプト最後の災い" エラストゥス・ソールズベリー・フィールド
  • 神と民の契約
    • 十戒の授与(20章)[注釈 2]
    • 契約の書(20章 - 23章)
    • 契約の締結(24章)
    • 幕屋建設指示とその規定(25章 - 28章)[注釈 3]
    • 儀式と安息日の規定(29章 - 31章)
    • 金の子牛(32章 - 33章)
    • 戒めの再授与(34章)[注釈 4]
    • 安息日と幕屋の規定(35章 - 39章)
    • 幕屋の建設(40章)

成立

『出エジプト記』はエジプト脱出の物語に後から契約の内容と細かい規定が組み合わされて完成したと考えられている。長年J資料、E資料、P資料及び申命記からの影響から出エジプト記が成立したと考えられてきたが、近年になり様々な説が出されるようになり、学問的同意は得られていない。フレットハイムは基本的な出エジプト記のストーリーは王国時代以前に成立し、J資料やE資料などが付け加えられて様々な時代の伝承が組み合わされて出エジプト記が成立したとする。[4]

内容 

エヒイェ・アシェル・エヒイェ

モーセは飼っていた羊の群れを追ってホレブ山にたどり着いた。そこで燃え尽きない柴を目に留め、不思議に思っていると、神からの呼びかけがあったという(モーセの召命)。イスラエルの民をエジプトから導き出すよう神から命ぜられたモーセは、自分自身を誰から遣わされた者としてイスラエルの民に紹介すればよいか、と神に問う。すると、

神はモーセに語りかけて言われた、「わたしは私は有るという者である(エヒイェ・アシェル・エヒイェ)」[注釈 5]。さらに言われた、「イスラエルの子らにこう告げよ、『私は有る(エヒイェ)[注釈 6]がわたしをあなたがたのもとに遣わした』、と」。 — 出エジプト記3章14節[5]

この「エヒイェ」のギリシャ語訳「エゴー・エイミ」[注釈 7]は、新約聖書ヨハネによる福音書などでイエスによって用いられることになる[6]

魔女

22章18節にある「呪術を使う女はこれを生かしておいてはならない」という部分が『欽定訳聖書』では「魔女」(witch) と訳され[7]、この『聖書』が広く読まれたことで、魔女狩りの『聖書』における根拠とみなされることになった。

脚注

注釈

  1. ^ 冒頭の語を題名とするやり方をインキピットと呼ぶ。
  2. ^ 十戒そのものは20:2-17
  3. ^ 「幕屋」とは神が必要に応じて降りてくるテントのことで、後のエルサレム神殿の原型とも言える。
  4. ^ 「モーセの角」の誤訳の原因となった箇所は34:29-30
  5. ^ ’ehyeh ’ăšer ’ehyeh (I AM that I AM) ギリシャ語七十人訳聖書:ἐγώ εἰμι ὁ Ὤν
  6. ^ ’ehyeh (I AM) ギリシャ語七十人訳聖書:ὁ Ὤν
  7. ^ ἐγώ εἰμι (I AM)

出典

  1. ^ 出埃及記 : 旧約聖書.国立国会図書館
  2. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「出エジプト記」の解説”. コトバンク. 2022年1月30日閲覧。
  3. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「出エジプト記」の解説”. コトバンク. 2022年1月30日閲覧。
  4. ^ T.E.フレットハイム 著、小友聡 訳『出エジプト記』日本基督教団出版局〈現代聖書注解〉、1995年、27頁。 
  5. ^ Exod. 3:14.
  6. ^ ヨハネによる福音書8章58節「アーメン、アーメン(まことにまことに)、私はあなたがたに言う、アブラハムが生まれる前から「私はある」。」
  7. ^ 『欽定訳聖書』22章18節(Wikisource)

関連項目

外部リンク

ナイル川とシナイ半島

出エジプト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/03 22:11 UTC 版)

古代イスラエル」の記事における「出エジプト」の解説

旧約聖書中でも大事件として扱われるのが、モーセエジプト脱走である。それによればヤコブの子ヨセフ時代イスラエル人エジプト移住しエジプト王の厚遇得て栄えたが、王朝が代わって迫害始まりイスラエル人たちはモーセ率いられエジプト脱走し40年荒野放浪して約束の地であるカナン辿りついたというものである。この放浪中のシナイ山イスラエル人たちは神と契約結んで十戒授かるなど、ユダヤ教中でも極めて重要なエピソードであり、仮庵の祭りなどの形で現代ユダヤ教にも継承されている伝承である。 旧来の解釈によればイスラエル人たちを厚遇した王朝紀元前1730年頃から紀元前1580年ヒクソスであり、ユダヤ人迫害したのはイアフメス1世建国した第18王朝モーセエジプト脱走諸説あるものの、前13世紀第19王朝ラムセス2世在位前1279-1213)の時代である。しかし、文書資料豊富なエジプト側には一切記録が無いことから、旧約聖書あるよう壮年男子だけで60万人という大規模な脱走事件起きた(出エジプト12:37民数記1:46)ことは想定し難く、ごく少数者脱走事件であったのだろうと推定されている。(この数字自体ゲマトリア人数そのものではなくイスラエルの子ら(このヘブライ語数字変換すると「六十万三千」になる)」といった言葉意味するではないかという説もある)。前述イスラエル部族連合中にカリスマ的指導者に率いられエジプトから脱出してきた」という伝承をもつ部族があって、その伝承が部族連合全体広がって共有されていったのだろう。さらにエジプト脱出伝承に、シナイ山における神の顕現に関する伝承結び付けられて、シナイ山での契約物語成立したものと考えられている。

※この「出エジプト」の解説は、「古代イスラエル」の解説の一部です。
「出エジプト」を含む「古代イスラエル」の記事については、「古代イスラエル」の概要を参照ください。

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