二つの磁界共振方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 23:53 UTC 版)
「ワイヤレス電力伝送」の記事における「二つの磁界共振方式」の解説
磁界共振方式については1993年より日本で実用化が始まったオークランド大学の方式 と、2006年11月にマサチューセッツ工科大学 (MIT) が大ギャップ電力伝送の実用化の可能性を発表した 方式がある。これらの方式の大きな違いは共振器を一次側と二次側とに配置するか二次側だけに配置するかにある。どちらの方式が有利かは結合係数の大小によって分かれ、概ね結合係数が0.05よりも大きければ前者が、0.1よりも小さければ後者が有利となる。 MITが発表したものは二組のコイルとコンデンサによる共振器同士が共鳴(共振)して結合されるという理論によることから、「電磁界共鳴方式」「共振結合方式」とも呼ばれる。開発者であるマリン・ソーリャチッチ(Marin Soljačić)はこの技術を無線 (wireless) と電気 (electricity) を合わせた造語である「WiTricity」と名付けて 同名の法人を設立した。WiTricityではこの技術についてHighly Resonant Wireless Power Transferであると説明している。この結合は電磁界結合や電磁界共鳴と呼ばれることがあるが、正確には電界と磁界は別物であり、電界のみを使って電界結合をすることと磁界のみを使って磁界結合をすることとは別々の考えである。当初は電界と磁界の双方を使用することをもって電磁界結合と称すると解釈して解析が進められたが電解と磁界とが共存する場合は互いに悪影響を及ぼすこともわかってきたためにこの呼称は不適切であるとして、現在は磁界共振(英: magnetic resonance、MR)という呼称が適切であるとされている。 WiTricityの理論説明や概念によれば、磁界共振の原理は遠く離れた音叉が同じ共振周波数によって共鳴する性質を利用したものとされており、コイルとコンデンサで共振する二つの共振器の間における非放射型のエネルギー転送は共鳴場エバネッセント・テールの結合 というものが介在し、この共鳴場の結合によって非放射の電磁的共鳴エネルギートンネル(non-radiative electromagnetic energy resonant tunneling)が生じ、この非放射の電磁的共鳴エネルギートンネルを通じて電力をやりとりすると、結合係数kが0.1あるいはそれ以下という相当な疎結合の状態であっても高効率で送電できるため、電磁誘導よりも長い距離を伝送できると説明される。この点に関してMITの研究者らは無線で電力を転送する新しい方法を発見したと考えている。さらにMITの研究者らはワイヤレス電力伝送の説明に微視的な量子力学的電磁場放射の電磁エネルギー共鳴トンネル効果(microscopic field of quantum mechanics radiated electromagnetic energy resonant tunneling effect)に例えて説明しようとした がこれは批判された。MITのマリン・ソーリャチッチは当初この共鳴場エバネッセント・テールの結合を伝送路と仮定していたために理論最大効率は50%であると考えていた。そしてこの理論のもとに2m先の電球を25%の効率で点灯し電力伝送に成功したと発表した。ところがその後、この理論の誤りに気づいて理論が修正され、理論最大効率がkQ積に依存するという新たな理論のもとでギャップ1mで約90%、2mで約45%程度の効率を実現した。これは、コイルとコンデンサによって構成される共振回路のQ値を高める(highly resonant)ことにより実現される。Q値は高ければ高いほどよいとされるが、Q値を高め過ぎると高い周波数精度が必要になり、伝送系の設計が困難になる。伝送系の理論効率はkとQとの積kQ積に依存すると言われている。MITの磁界共振方式では二組の共振コイルとは別に電力供給用のコイルと電力取り出し用のコイルをそれぞれの共振器に近づけて配置することが一般的である。MITの方式は送受信デバイスの位置ずれに敏感であるが、効率を犠牲にすることにより送受信デバイスの位置ずれの許容度を高めたり、複数のデバイスに同時に電力を供給することは可能である。高効率を求めると複数のデバイスに対しての送電が困難になるが、高効率かつ大ギャップでの無線電力伝送が実現できることが評価され、IEEEにより「世界を変える7つの技術」に選定され、またその完成後の市場規模は青色発光ダイオードを大きく超えると言われている。 また、電力とデータを同時に伝送できる技術として、サーフェイスLANがある。これは、電磁波の波長以下の領域に現れるエバネセント場を利用した非放射の電力伝送である。 ディズニー・リサーチは環状ソレノイド内の磁束密度がほぼ一定になるという原理を用いて、部屋中のどこへ置いても充電ができるという準静空洞共鳴方式(QSCR:Quasi-static Cavity Resonance)を公表している。これも非放射の磁界共振に分類される技術である。
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