中段母音
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通常、頭子音に母音の音価が移行することで音韻化(transphonologize、定訳不明、英語版)されたので、頭子音が無い場合(特に第二音節の頭子音が無声子音である場合)には、常に *i : *e、*u : *o の対立が忠実に保存されていない。 例: *{i, e}ki「息」 *{i, e}si「石」 *{u, o}si「牛」 *{u, o}ta「歌」 同様に、日琉祖語の非語頭の子音(*…pu, *…po, *…wo)の消失の結果、この環境下で *u, *o は合流している。 例: *ta{u, o}re-「倒れる」 *a{u, o}gi「扇」 *sa{u, o}「竿」 更に、*ju, *jo の弁別の証拠は少ない。
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中段母音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 04:07 UTC 版)
上代日本語のi2、e1、e2、o1は、a、i1、u、o2に比べて出現頻度が非常に少なく、多くが語の途中または末尾において現れることから、これらが二次的なものなのではないかという発想があった。 また、以下のような内的再構から、下の音法則が記述された。 sake₁ri「咲けり」< *saki-ari「咲き-あり」 nage₂k-「嘆く」< *naNka-ik-「長-生く(長く息を吐く)」 kazo₁pe₂-「数える」< *kaNsu-apai-「数-合える」 tudo₁p-「集う」< *tuNtu-ap-「粒-合う」 sito₁ri ~ situri「倭文」< *situ-əri「しつ-織り」 utusemi₁ ~ utuso₂mi₁「現身」< *utusi-əmi「現し-臣」 pe₁ki₁「日置」< *pi-əki「日-置き」 先上代日本語上代日本語*ua > o₁ *uə *ia > e₁ *iə この種の内的再構から、先上代日本語に*i (> i₁)、*u、*ə(> o₂)、*aの四母音が再構され、これを敷衍してこれ以外の上代日本語の母音(i₂, e₁/₂, o₁)も日琉祖語の母音連続に由来するとする説がかつてミラー、大野晋ら、ホイットマン 、マーティン、スタロスティンなど多くの研究者によって提唱され、一般的であった。なお、*ə は歴史的には各研究者によって表記法が異なっていて、現在でも *ə に ⟨o⟩ が用いる研究者がいるらしいため、対照表を置く。 *ə の表記法論文書記素一般的な表記 ⟨ə⟩ Whitman (1985)など ⟨o⟩ 大野晋など ⟨ö⟩ Martin (1987)など ⟨o̱⟩ しかし、「水」「蒜」「肘」などの一部の単語で、上代日本語の i₁ に琉球祖語 *e が対応している例があり、それらに対し日琉祖語 *e(*meNtu「水」、*peru「蒜」、*peNti「肘」)が再建できる。また「海」「薬」「過ごす」などの語において、上代日本語uに琉球祖語*oが対応している例があり、それらに日琉祖語 *o(*omi「海」、*kusori「薬」、*suNkos-「過ごす」)が再建できるといったことが指摘されるようになった。上代日本語に起きた *e > i₁、 *o > u の音韻変化を「中高母音の上昇」(英: Mid vowel raising; MVR)と言う。これらは最初に服部四郎によって、続いてマナー・ソープ、レオン・セラフィムなどによって1970年代後半以降に再構された。四母音説の主唱者たちはこの琉球祖語の中段母音は一定の条件や散発的な低舌化によって説明できると考え(あるいは信じ)た。例えば、ホイットマンはその1985年の博士論文で、表のような同化を想定することによって琉球祖語の *e が二次的なものであるとみなせると考えた。 日琉祖語 *ə > 琉球祖語 *e, 上代中央語 *i₁ /_C[+有声]V[+高母音] しかし、これは20世紀の終わり前後にレオン・セラフィムやマーク・ミヤケによって具体的な例外が多数指摘された。※琉球祖語のあとにある学者の名前はその琉球祖語形の再構者を意味している;必ずしもこれらの形が最新のものであるとは限らない。 *təri > 琉球祖語(ソープ)*tori, 上代中央語 to₂ri「鳥」(予測されるのは ✗tiri) *nəri > 琉球祖語(ソープ)*nori, 上代中央語 no₂ri「海苔」(予測されるのは ✗niri) *ʔeno > 琉球祖語(セラフィム)*ʔeno, 上代中央語 inu「犬」(予測できない) *pero > 琉球祖語(セラフィム)*pero, 上代中央語 pi₁ru「蒜」(予測できない) *sesi > 琉球祖語(セラフィム)*sesi, 上代中央語 sisi「肉」(予測できない) *seta > 琉球祖語(セラフィム)*seta, 上代中央語 sita「舌」(予測できない) うえにあげたようなさまざまな経緯から、日琉祖語には *e, *o という二つの原初的な中段母音を再構しなければならないことが2000年代前後から徐々に合意されていった。この *e と *o は、上代東国諸語にも痕跡が残されている。また、たとえば稲荷山古墳出土鉄剣の⟨獲加多支鹵⟩に対応する上代中央語「ワカ-タケ₁ル」の「ケ₁」が、上代中央語ではキ₁相当の万葉仮名である⟨支⟩で書かれていることなども、これによって説明することができる。つまり、先上代日本語(英: pre-Old Japanese)では「ケ₁」と読まれる仮名であったものが、MVRによって「キ₁」と読まれるようになった、と考えられる。 日琉祖語の単母音の対応日琉祖語琉球祖語上代日本語上代中部(信濃国)語真上代東国語上代遠江-駿河語*i *i i1 i i i *e *e i1 (e1) i e ~ i i *u *u u u u u *o *o u (o1) o ~ u(m後) o ~ u u *ə o2, o1(w, p, mの後。古くはwの後のみ) ə ~ u/m_ ə ~ o ~ e ə,o/{m|p}_,駿河ではe/C[-labial][-velar]_も。 *a *a a a ~ ə a ~ ə a これまでに説明した琉球諸語などとの音韻対応から、上代日本語の o₁/e₁ の一部は祖語からのものであると考えることができるが、これらがMVRを起こしていないことに対する説明が必要になった。そこで服部四郎とそれに続いた早田輝洋の二人は、上代日本語でMVRをしなかった両母音に日琉祖語の *oo/*ee という二つの長母音を再構することでこれを説明しようとした。なお、通言語的には長母音の方が高舌化する傾向があることが知られていることなどから、服部四郎と早田輝洋の説は現在ではあまり受け入れられていない。 代わって提案されたのが、韻律的に顕著な場合にのみ高舌化が起きた、より具体的に言えば、概ね *o/*e は語末にある場合には高舌化を起こさなかった、というものであった。上代日本語 o₁/e₁ の多くは二音節以上の単語の最終音節か、一音節の単語の中で見つかることが明らかになっていることや、上代日本語の mo₁ko₁/muko₁「婿」という二重語がこれを典型的に支持する。一方で上代日本語で語末以外に見つかる o₁/e₁ は、この音法則で説明できないことは指摘されている。
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