不気味なもの
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フロイトが1919年に著した小論「ウンハイムリッヒ」(不気味なもの(ドイツ語版))は、「驚愕をもたらすもの、不安をかき立てるもの、ぞっとするような恐ろしさを与えるもの」として、シュルレアリスムの重要な概念の一つである。フロイトはこの論文で、ドイツ・ロマン派の作家E・T・A・ホフマンの短編小説『砂男』を例に挙げて分析している。ハンス・ベルメールが手足を切断された不気味で魅力的な人形(球体関節人形)を作るきっかけとなったのも、ホフマンのこの作品に基づいてジャック・オッフェンバックが作曲したオペラ『ホフマン物語』に登場する自動人形オランピアに触発されてのことであった。マグリットの最初のシュルレアリスム作品とされるのは1926年制作の《迷える騎手》であるが、1926年から27年にかけて制作された作品《鳥を食べる少女》や《殺意の空》には「気持ちをかき乱すような」鳥のイメージ、特に血を流す鳥や死んだ鳥が多く描かれている。また、《鳥を食べる少女》の副題は「快楽」であり、同郷人の詩人ヌージェは、マグリットはこの作品でフロイトの快楽原則をさらに探求し、「快楽の残虐さ」を描いているという。 アルフレッド・ジャリがソポクレスの『オイディプス王』に着想を得て書いた演劇『ユビュ王』(1896年刊行)は、シュルレアリスムの先駆、不条理演劇の先駆とされる作品であり、ミロの一連の「ユビュ」作品、エルンストの《オイディプス王》(1922年)、《ユビュ皇帝》(1923年)など、人間の心の混沌とした未知の領域、グロテスクで不気味な形象としてシュルレアリストが繰り返し取り上げた題材である。写真家ドラ・マールのフォト・モンタージュ作品《ユビュ王の肖像》(1936年)では、アルマジロの胎児を撮ったネガフィルムを使い、象のような形象により不気味さが強調されている。ヴィクトル・ブローネルの水彩《K氏の奇妙な事例》(1934年)も「ユビュ王」に着想を得た作品で、当時、欧州で台頭しつつあった独裁者の不気味な形象としてブルトンに絶賛された(同じ年に油彩《ヒトラー》も発表している)。同じく1934年制作の油彩《K氏の集中力》ではさらに太った男性の裸体にセルロイド製の小さい人形をたくさん貼り付けて不気味さを強調している。 このほか、ピカソが描いた牛頭人身の怪物「ミノタウロス」、アンドレ・マッソンの同じく「ミノタウロス」や恍惚状態で神託を告げた「ピューティアー」、または迷宮のモチーフ、ミロが1935年から1936年にかけて制作した一連の絵画『変身』などの神話・伝説の形象・モチーフが無意識の表象として取り上げられている。 また、女性の眼球を剃刀で切るシーンで始まるブニュエルとダリの『アンダルシアの犬』(1928年)は、「不気味なもの」を最も強力に表現した映画として、後のヒッチコック監督の作品、特に『鳥』(1963年)などに影響を与えることになる。
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