ブラッディノーズ・リッジ(鼻血の尾根)の戦い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/16 05:31 UTC 版)
「ペリリューの戦い」の記事における「ブラッディノーズ・リッジ(鼻血の尾根)の戦い」の解説
海岸地区や飛行場周辺の攻防では、アメリカ軍に多大な損害を与えたものの、日本軍陣地と部隊もほぼ壊滅したため、中川大佐はかねてよりの師団作戦命令の通り、ペリリュー島の山岳地帯に500個以上は存在すると思われる洞窟を駆使した持久戦術に移行した。「外に出て攻撃を仕掛けると、戦車と航空機と艦砲射撃が待ち構えている。その手には乗らず、敵が近づいて来たら狙撃せよ。容易く死なずに永く生きながらえて一人でも多くの敵を殺せ」と厳命した。 アメリカ軍は太平洋の他の島で繰り返された、日本軍の盲目的なバンザイ突撃を圧倒的な火力で撃滅するという展開を望んでいたが、その傾向は全く見えず、後にペリリュー守備隊を称して「これまで出会った中では、最も優秀と思える兵士で、率いる将校も、敵の圧倒的な火力の前に無駄死にする無意味さを理解し、アメリカ軍の術中にはまらない決意に満ちていた。」と評価している。 2日目までに1,000名の死傷者を出した第1海兵連隊は「ブラッディノーズ・リッジ」の攻略を命じられた。高地を進むアメリカ軍に対し日本軍は洞窟陣地を駆使して激しく抵抗した。洞窟陣地は内部で連絡されており、相互に支援できるような位置に構築されていたため、アメリカ軍が隠れる場所が全くなかった。ある洞窟陣地から火砲や機銃で攻撃を受けたアメリカ軍が反撃しようとすると、火砲や機銃は洞窟内に引っ込み、今度は違う洞窟から攻撃を浴びるといった状況であった。連隊長のブラー大佐は各大隊を野戦電話で叱咤激励していたが、もっとも苦戦していた第3大隊のラッセル・ホンソウィッツ中佐から、200名の死傷者を出したのに戦果が捗々しくないとの報告を聞くと激昂して「なんてざまだ、これを本土の奴らが聞いたらなんて言うと思う?200名の優秀な海兵隊員を失って、殺したジャップがたった50名だ。500名の間違いじゃないのか?」と怒鳴った。第3大隊には本来戦闘には参加しない連隊の司令部要員200名を補充したが、この時点で連隊の死傷者は1,236名にも達し連隊内での人員のやりくりではとても間に合わなくなったため、第1海兵連隊は師団参謀に補充を要請した。しかし師団の予備兵力は既に使い果たしており、ブラー大佐は「上陸支援要員でもいいから増援によこせ、明日の夜までには一人前の戦闘歩兵にしてみせる」と補充を強く迫ったが、結局補充要請は却下され第1海兵連隊は現行戦力で作戦の続行を命じられた。 洞窟陣地攻撃に威力を発揮したのはM4戦車であった。戦車は洞窟を発見すると片っ端から砲撃を加え、1両当り1日で30か所の日本軍陣地を破壊していた。しかしM4戦車の損害も大きく第1海兵師団の30両のM4戦車の内、高地戦に至るまでに10両が破壊されていた。残りのM4戦車はその破壊されたM4戦車から砲弾を回収して戦わなければならないほど弾薬の消費も激しかった。また、日本軍はハッチから身を乗り出す戦車長に射撃を集中し、第1戦車大隊の戦車将校31名の内23名が死傷し、無事だったのはたった8名と戦車に搭乗しておきながら高い死傷率となっている。 第1海兵連隊は島南部の攻略を終えた第7海兵連隊の支援も受けて、引き続きブラッディノーズ・リッジを強攻した。ブラー大佐は筋金入りの海兵隊員で、緻密な作戦よりは攻撃の気運を重視する作戦指揮であったが、ペリリュー島でこの作戦指揮はあまりに代償が大きかった。既に第1海兵連隊は兵員の半数を失っていたが、ブラー大佐は進撃を緩めることを許さず、「死傷者が多すぎます。我々は昼も夜もなく戦い続けてるんです。」と指揮下の大隊長が窮状を訴えるも取り合わず逆に「うるさい、お前自ら兵隊を率いてあの丘を落とせ」と命令する烈しさだった。日米の兵士は斜面に構築された日本軍の陣地を巡って激しい白兵戦を演じており、日本軍は手榴弾投擲や銃剣で攻撃してきたのに対し、海兵隊員は日本兵を陣地から素手で引きずり出すと崖の下に投げて落とすといった風な激しい近接戦闘が至る所で繰り広げられた。第1海兵連隊は多大な損害にもめげずに攻撃を続行し、中川大佐がウムロブロゴル山中核を中心に構築した、これまで海兵隊が戦った中でもっとも手強かったと海兵隊戦史で評価された通称「ファイブ・シスターズ」陣地に到達した。既に死傷者が1,500名以上にも達し戦力が大幅にダウンしていた第1海兵連隊はこの陣地の攻略で致命的な損害を受けることとなった。
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