ヒトVδ2+ T細胞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 02:33 UTC 版)
Vγ9/Vδ2 T細胞はヒトと霊長類が独自に持つ、末梢血中でマイナーかつ非定型的な白血球の代表である(末梢血中白血球の0.5~5%)。それでもなお、この細胞は感染早期に侵入してきた病原体を認識するために必要不可欠な役割を持ち、様々な急性感染において、病原体が体内に侵入した際に劇的に増殖する。結核、サルモネラ症、エーリキア症、ブルセラ症、野兎病、リステリア症、トキソプラズマ症、マラリアなどでは感染後数日以内に他のリンパ球数を超えるほどに増加しうる。注目すべきことに、全てのVγ9/Vδ2 T細胞は共通の微生物由来化合物である(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸 (HMB-PP) を認識する。このHMB-PPは非メバロン酸経路のイソペンテニル二リン酸 (IPP) 生合成における中間代謝産物であり、結核菌 (Mycobacterium tuberculosis) やマラリア原虫などを含むほとんどの病原体には必須の化合物であるが、病原体の宿主であるヒトの体内には存在していない。一方で非メバロン酸経路を欠き、古典的メバロン酸経路によりIPPの生合成を行うためにHMB-PPを産生しないブドウ球菌、連鎖球菌、ボレリアなどの病原体はVγ9/Vδ2 T細胞を特異的に活性化しない。 IPPそれ自体は構造的にHMB-PPに類似しており、ヒトの細胞も含め普遍的に発現しているが、in vitroでの活性化の効力はHMB-PPの一万分の一である。ただし、ストレスや形質転換における生理的なシグナルをIPPが表しているかどうかはまだはっきりとわかっていない。ゾレドロン酸(ゾメタ)やパミドロン酸(アレディア)などのIPPと同等の生物活性を持つ化学合成アミノビスホスホネートは骨粗鬆症や骨転移腫瘍などの治療に広く用いられているが、付随的に Vγ9/Vδ2 T細胞受容体のアゴニストとして働く。しかしながらいくつかの証拠により、このようなビスホスホネートの「抗原」は直接的には認識されず、メバロン酸経路に働くことでIPPを蓄積させ、これが間接的にVγ9/Vδ2 T細胞の活性化に働くことがわかっている。最終的にはある種のアルキル化アミンがin vitroでVγ9/Vδ2 T細胞の活性化を起こすとされるが、1mMの濃度が必要であり、これはHBM-PPの100万から1億分の1程度の強さである。このため、このような分子の生理的作用には疑問が残されている。 上記のような非ペプチド抗原が直接Vγ9/Vδ2 T細胞受容体と結合するのか、それともいずれかの抗原提示分子を介して結合するのかははっきりとわかっていない。いくつかの証明により、種特異的に細胞間の接触が必要であることは示されている。しかし、γδT細胞の活性化には一般的な抗原提示分子である主要組織適合抗原もNKT細胞の活性化に関わるCD1も必要ではない。このことは未知の抗原提示分子が存在している可能性を示唆する。Vγ9/Vδ2 TCRによる非ペプチド抗原の直接的な認識は、Vγ9/Vδ2 TCRを形質転換により導入すると、非反応性だった細胞が反応性を持つようになり、さらにVγ9/Vδ2 TCRの抗体でブロックすると認識できなくなることから裏付けされる。このように機能的なVγ9/Vδ2 TCRの存在は非ペプチド抗原に対する反応を強制する。それでもなお一般的なエピトープ提示/認識モデルでは構造的に極めて近いHMB-PPとIPPの反応性の違いを説明できない。 また、Vγ9/Vδ2 T細胞は抗原提示細胞 (Antigen-Presenting Cells, APC) のように振る舞うことがある。ヒトのVγ9/Vδ2 T細胞は特異的な炎症性の遊走プログラムによって特徴付けられる。これはCXCR3、CCR1、CCR2、CCR5などの複数のケモカインレセプターを含む。このことはHMB-PPやIPPによる活性化が、特にリンパ節のT細胞領域などのリンパ組織への遊走を誘導することを意味する。このため、HBM-PPなどのリン酸化抗原によるγδT細胞の刺激は、γδT細胞にMHC-I、MHC-II分子、共刺激分子 (CD80, CD86) 、接着受容体 (CD11a, CD18, CD54) などの抗原提示細胞関連マーカーを発現させる。これ故、活性化γδT細胞はあたかも抗原提示細胞かのように振る舞い (γδ T-APC) 、αβT細胞に抗原提示を行い、ナイーブなCD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞をエフェクター細胞へと導く。γδ T-APCにより誘導される分化においてはヘルパーT細胞の反応が導かれ、ほとんどの場合で炎症誘発性であるTh1細胞の反応とそれに続くIFN-γやTNF-αの産生が起きる。しかしγδ T-APCがあまりいないと、ナイーブαβT細胞はTh1細胞(IL-4を産生)やTh0(IL-4に加えてIFN-γ)へと分化する。また、ヒトのVγ9Vδ2 T細胞は優れた交差提示能を示し、外来性抗原を消化してCD8陽性である細胞傷害性T細胞にMHC-Iによる抗原提示を行う。このようにして活性化細胞傷害性T細胞は効果的に感染細胞や腫瘍細胞を排除することができる。この事実は癌や感染症の免疫療法に応用出来るかもしれない。
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