ヒトES細胞の倫理的問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/14 09:09 UTC 版)
「胚性幹細胞」の記事における「ヒトES細胞の倫理的問題」の解説
ES細胞を樹立するには、受精卵ないし受精卵より発生が進んだ胚盤胞までの段階の初期胚が必要となる。ヒトの場合には、受精卵を材料として用いることで、生命の萌芽を滅失してしまうために倫理的な論議を呼んでいる(一般的に、卵子が受精して発生を開始した受精卵以降を生命の萌芽として倫理問題の対象となるとみなしている。神経系が発達した以降の胚を生命の萌芽とみなす考え方もある。)。先進国においては、例えば米国ブッシュ政権が2001年8月に公的研究費による新たなヒトES細胞の樹立を禁止しているように、いずれヒトになりうる受精卵を破壊することに対する倫理的問題から現段階でのヒトES細胞の作製を認めない国がある。一方、パーキンソン病などの神経変性疾患、脊髄損傷、脳梗塞、糖尿病、肝硬変、心筋症など根治の無かった疾患を将来的に治療できる可能性から、その研究を認める国などに対応が分かれている。日本においては体外受精による不妊治療において母体に戻されなかった凍結保存されている胚の内、破棄されることが決定した余剰胚の利用に限って、ヒトES細胞の作成が認められている。米国においても、公的研究費を用いない形での研究がハーバード大学幹細胞研究所などで行われているほか、カリフォルニア州においては、アーノルド・シュワルツェネッガー知事が認める方向を打ち出すなど大きな社会的議論になっている。また、受精卵を用いるES細胞の新たな作製に伴う倫理的問題を回避するために、次の項に述べるような方法も開発されている。 2006年にAdvanced Cell Technology社のRobert Lanzaらのグループは、マウスおよびヒトにおいて、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて、胚の発生能を損なうことなく、ES細胞を樹立することに成功した。この技術開発により受精卵を破壊せずにES細胞の樹立を行うことが可能になった。同年、ニューキャッスル大学のMiodrag Stojkovicらのグループが、発生停止したヒトの胚からES細胞を樹立することに成功した。これにより、不妊治療において廃棄されていた過剰な卵を用いることが可能になった。
※この「ヒトES細胞の倫理的問題」の解説は、「胚性幹細胞」の解説の一部です。
「ヒトES細胞の倫理的問題」を含む「胚性幹細胞」の記事については、「胚性幹細胞」の概要を参照ください。
- ヒトES細胞の倫理的問題のページへのリンク