デフレ下での成長
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 05:32 UTC 版)
経済学者の野口旭は「デフレは本来その国が持っている潜在成長率や適正な失業率の水準から、その国を遠ざける」と指摘している。 中澤正彦は「デフレは、好況と不況を繰り返しながら成長していくという経済に対し自動調整機能が効かない状態である。その意味ではハイパーインフレと遠戚関係にあるともいえる」と指摘している。 若田部昌澄は「通常はデフレと不況はセットになっている」と指摘している。 経済学者の岡田靖は「デフレは経済を著しくぜい弱なものとすることは、過去10年以上の日本の実験で明らかである」と述べている。 岩田規久男は「実際にインフレはGDPの拡大、デフレはGDPの縮小を伴うことが多い。インフレは好景気と結びつきやすく、デフレは不景気に結びつきやすい。しかし必ずしもインフレと好景気、デフレと不景気が結びつくわけではない」「デフレ下で景気循環がなくなるわけではない」と指摘している。岩田は「長期的には物価が下落すると、人々・企業の購買力は増大し、それに伴って消費などの総需要が拡大することにより実質GDPは拡大していく」と指摘している。岩田は「デフレとデフレ予想とは区別する必要がある。マクロ経済のパフォーマンスに影響を与えるのは、デフレ予想である」と指摘している。 大和総研は「物価の下落率が同じであっても、需要の減少によって生じるによる場合と、生産性向上による供給サイドの要因によって生じる場合と意味合いが異なってくる」と指摘している。 経済学者の池尾和人は「『デフレで経済の調子が悪い』というのは、原因と症状を取り違えた表現である」「因果関係としては、経済の悪化、需要の弱さを反映して、デフレが起こる。デフレが経済を悪化させるフィードバックはあって、経済が好転するきっかけがつかみにくい状況をつくり出してはいるが、副作用的なものと見るべきである。だから、マイルドなデフレのまま景気が回復することも起きる。その実証例が、2003年(の日本)だった」と指摘している。 経済学者の浜田宏一は「本当に価格が伸縮的な経済であれば、実物景気循環論が言うとおり、デフレでも問題はないが、現実は賃金・物価は硬直的であるため、デフレ下では実質賃金が上がってしまう。つまり企業のコストが上がってしまうため、雇用・生産を抑えてしまう」と指摘している。 第二次世界大戦以降、物価・賃金は恒常的に上昇したが、それ以前は上昇・下落を頻繁に繰り返していた。物価・賃金に下方硬直性はなく、デフレは珍しいことではなかった。1873年から1896年までイギリス、ドイツ、フランス、アメリカなどの国はデフレ下で実質経済成長率がプラスであった。19世紀のイギリスには、物価が安定していた「ヴィクトリア均衡」と呼ばれる時期がある。 若田部昌澄は「『ヴィクトリア均衡』の時代は、それほどいい状態ではなかったことも事実である。イギリスは大不況ではなかったがかなり停滞し、資本の海外流出と移民の大量発生が起きている。デフレが起こらなければ技術革新が起きていた時代であったため、本来もっと成長ができたはずである。その証拠は同時期の日本であり、この時期にデフレではなかった日本が経験したのは『企業勃興』と呼ばれるような爆発的好況である」と指摘している。また若田部は「19世紀後半はデフレだからという理由で給料が切り下げられる時代だった。そのおかげで、デフレ下でも経済成長が維持できたというひとつの考え方がある」と指摘している。 ヴィクトリア均衡は、金産出量の増大によって終息している。 高橋洋一は「デフレの大きな弊害は、賃金などに下方硬直性があるため実質賃金が割高になって、失業が発生することである。ただ、第二次世界大戦前には、組合運動も盛んでなかったため、賃金の下方硬直性もあまりなかった。現在(2014年)ほど失業問題が重要視されていなかったこともあり、デフレでも実質経済成長した期間は多い」と指摘している。 経済アナリストの中原圭介は「世界経済を歴史的観点から眺めていくと、インフレで不況のときもあれば、デフレで好況のときもあったということがわかります。実際に、ある貴重な研究論文において、デフレ期の9割で経済は成長しており、不況期の7割はデフレではなくインフレであったという、れっきとした事実が証明されている」と述べている。この論文とはミネアポリス連邦準備銀行のアンドリュー・アトキンソンとパトリック・J・キホーの2人のエコノミストが2004年1月に発表した論文「デフレと不況は実証的に関連するのか?」で、過去100年間以上の世界各国のデータを集め、デフレの時期、インフレの時期、好況の時期、不況の時期の4つの事象に分けてプロットし分析したもので、大恐慌の時期の5年を除くと、デフレの事例全体の89%で経済はプラス成長、インフレの事例全体の96%で経済はプラス成長、また全体で不況の事例のうちインフレであったのが72%、デフレであったのが28%であり、物価上昇率と不況との間には明確な関連性を云々できるほどのつながりはないという結論に拠るものです(大恐慌の時期の5年でも主要16カ国すべてでデフレを経験したものの、そのうち8カ国が「デフレ」と「不況」を同時に経験し、残りの8カ国はデフレだけを経験)。
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