ゼニット 2とは? わかりやすく解説

ゼニット (ロケット)

(ゼニット 2 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/04 00:41 UTC 版)

ゼニット
ゼニット3SLB(2008年2月29日、バイコヌール
基本データ
運用国  ウクライナ / ロシア
開発者 ユージュノエ設計局
使用期間 1985年 - 現役
射場 バイコヌール宇宙基地LC-45
オーシャン・オデッセイ英語版
打ち上げ数 84回(成功71回)
原型 エネルギア
物理的特徴
段数 2~3段
総質量 444.9~462.2 トン
全長 57~59.6 m
直径 3.9 m
軌道投入能力
低軌道 ゼニット 2 - 13,740 kg
太陽同期軌道 ゼニット 2 - 5,000 kg
静止移行軌道 ゼニット 3SL - 5,250 kg
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ゼニットウクライナ語: Зеніт ゼニートロシア語: Зенит ズィニート:「天頂」を意味する)は、ウクライナおよびロシアソ連)の打ち上げロケット、ロケットシリーズである。

概要

ウクライナ・ドニプロペトロウシク所在の国営企業M・K・ヤーンヘリ記念ピウデーンネ設計局」(ロシア語名「M・K・ヤーンゲリ記念ユージュノエ設計局」)で設計され、ユージュマシュ社で生産される[1]エネルギアの補助ブースターに、第2段・第3段を加えた衛星打上げロケットである。

ゼニットはエネルギアが初飛行する前の1985年に登場した。ゼニットの目的は2つあり、ひとつはエネルギアの補助ロケットとして、もうひとつは2段目を加えることにより単体の人工衛星打上げロケットとして運用する事である。また、ゼニットでソユーズ宇宙船を打ち上げる計画もあったが、ソビエト連邦の崩壊に伴い中止された。ゼニットはエネルギアのブースターにRD-120エンジンを持つ2段目を追加したもので、1段目のRD-171エンジンは4つの燃焼室とノズルを持ち、7,887 kNの推力がある。1段目、2段目共に燃料、酸化剤はケロシン液体酸素を使用する。

ゼニットはさまざまな方法で能力増強が可能であり、再着火式の4段目を追加したり、アントノフAn-225輸送機から打ち上げたりすることが可能といわれている。

静止衛星打ち上げ用に3段目(ブロックDM)を追加したゼニット3SLはシーローンチ社の海上プラットフォームで東太平洋の赤道上から通信衛星を打ち上げている。2段式のゼニット2はカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から打ち上げられる。ゼニットの1段目と2段目、また3SLの3段目エンジンはロシアから供給される。増強型のゼニット3SLBは2008年4月からバイコヌール宇宙基地から"ランド・ローンチ"として商業用の衛星の打上げに使用されている。

ゼニット3SLは36回打ち上げられ、うち32回が完全に成功した。1回は部分的成功で、3回は失敗した。最初の失敗は2000年3月12日にヒューズ・エアクラフト社製・ICO グローバル・コミュニケーション所有の通信衛星の打ち上げで起きた。この打ち上げではロケットのソフトウェアの誤りにより2段目の弁が閉じて失敗した。2回目の失敗は2007年1月30日のNSS-8通信衛星の打ち上げで、オーシャン・オデッセイ英語版発射プラットホーム上でエンジンに点火した直後にロケットが爆発した。衛星は発射台上で破壊された。

16回の打上げを対象にした調査の結果、2001年3月18日の時点においてゼニット2は低軌道への単位重量あたりの打上げ費用が最も安く(1kgあたり2,567-3,667ドル)、1回あたりの総打ち上げ費用も3500–5000万ドルで最も低い事が明らかになった[2]

各段の詳細

  第1段 第2段 第3段
エンジン RD-171 RD-120 / RD-8 RD-58M
推力 8180 kN 912 kN / 79,5 kN 84.9 kN
比推力 337 秒 349 秒 352 秒
燃焼時間 150 秒 315 秒 650 秒
推進剤 灯油 (RP-1) / 液体酸素 (LOX)

打ち上げ実績

  総回数 成功 失敗(部分的失敗含む) 成功率(小数点省略)
ゼニット2 36回 28回 8回 78%
ゼニット3SL 36回 32回 4回 89%
ゼニット2M 2回 2回 なし 100%
ゼニット3SLB 6回 5回 1回 83%
ゼニット3F 4回 4回 なし 100%
各型合計 84回 71回 13回 84%

仕様

概要

ゼニット-2 ゼニット-3SL
段数 2段式 3段式
全高 57m 59.6m
総空重量 37,600 kg 40,320 kg
総重量 444,900 kg 462,200 kg
ペイロード 低軌道へ13.74 トン GTOへ6トン
射場 バイコヌール宇宙基地 シーローンチ 海上プラットホーム
1回あたりの打ち上げ費用 ~$4500万ドル ~$9000万ドル

打ち上げ能力

2段式版 (ゼニット-2)

LEOへのペイロード 13,740 kg
PEOへのペイロード 5,000 kg
GEOへのペイロード GEOへは設計されていない

3段式版 (ゼニット-3SL)

LEOへのペイロード 6,100 kg, 3rd 構造上の限界
MEOへのペイロード 3,965 kg (10,000 km, 45°)
GEOへのペイロード 1,840 kg
GTOへのペイロード 5,250 kg (6,000+ kgまで増強)

派生機種

補助ロケット

エネルギア・ブースター

ゼニットの1段目はエネルギアロケットのブースターとして使用された[3]。4基のゼニットが離陸時に推力を生み出すために装備される。エネルギアは計画中止までに2回打ち上げられた。

低軌道打上げロケット

ゼニット2

打ち上げを待つゼニット2

ゼニット2は低軌道打ち上げ用として最初に設計された2段式のゼニットである。1段目にRD-171エンジンを、2段目にRD-120を使用する。エネルギアの開発の遅延のためにエネルギアが打ち上げられる2年前の1985年4月13日に最初の打上げが行われた。

ゼニット 2M / 2SB / 2SLB

ゼニット2Mはゼニット2の制御装置の改良とエンジンの近代化を施した機種である[4]。2007年6月29日に最初のゼニット2Mがロシアの軍用のコスモス衛星を打ち上げた。また2011年11月9日にはフォボス・グルントの打上げでゼニット2SBが用いられた。

なお、シーローンチの子会社のランド・ローンチがゼニット2Mを商業用に打ち上げる場合はゼニット2SLBという名称になるが、現在までゼニット2SLBは1度も打ち上げられていない。

中高軌道打上げロケット

ゼニット3SL

ゼニット3SLはシーローンチ用に開発された3段式ロケットである。2段目まではウクライナのSDO ユージュノエ/PO ユージュマシュによって生産された。3段目のブロック DM-SL上段ロケットはロシアのエネルギアから供給された。また打上げ時に衛星を保護するフェアリングボーイングから供給された[5]

シーローンチで使用されるロケットはカリフォルニア州ロングビーチで組み立てられる。打上げは赤道に位置する海上プラットホームであるオーシャン・オデッセイで行われる。オーシャン・オデッセイは打上げ海域へのロケットの運搬にも使用される。2008年1月15日にゼニット3SLの打ち上げは回数は25回に達した[1]

ゼニット 3M / 3SLB

ゼニット3Mは、ゼニット3SLに使用されているブロック-DM上段ロケットをゼニット2Mに追加した機種である。バイコヌールから打ち上げられる。ランド・ローンチが商業打ち上げに用いる場合はゼニット3SLBと呼ばれる。初打上げは2008年4月28日で、ゼニット3SLBとして打上げられた。

ゼニット 3F / 3SLBF / 2SB/Fregat

ゼニット3Fは、ゼニット2Mにフレガート上段ロケットを加えた3段式の派生機種である。フレガートは既にソユーズロケットでより高い軌道へ衛星を投入するために使用された実績がある。最初の打上げは2011年1月20日(UTC)に行われた。この機体はゼニット2SB/Fregatと呼ばれている。2011年7月18日にも同タイプのロケットの打ち上げが行われた。

ランド・ローンチが商業打ち上げに用いる場合はゼニット3SLBFという名称になるが、現在までゼニット3SLBFは1度も打ち上げられていない。

脚注

  1. ^ a b Sea Launch: the Twenty-Fifth Launch of Zenit-3SL”. Yuzhnoye (2008年1月21日). 2008年2月3日閲覧。
  2. ^ Watts, Barry D. "The Military Use of Space: A Diagnostic Assessment". Center for Strategic and Budgetary Assessments, Appendix 4; quoted in Sietzen, Jr., Frank (2001年3月18日). “Spacelift Washington: International Space Transportation Association Faltering; The myth of $10,000 per pound”. spaceref.com. Aerospace FYI. 2008年8月19日閲覧。
  3. ^ Bart Hendrickx and Bert Vis (2007年). “Energiya-Buran: The Soviet Space Shuttle”. Springer Praxis Books. 2009年5月17日閲覧。
  4. ^ Ukrainian Zenit rocket makes its return to flight”. Spaceflight Now. 2007年7月1日閲覧。
  5. ^ Sea Launch Receives Zenit-3SL Hardware for Next Launches”. Sea Launch. 2007年9月6日閲覧。

外部リンク


ゼニット2

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/23 21:01 UTC 版)

ゼニット2
Site 45/1でのゼニット2
基本データ
運用国 ソビエト連邦 /  ウクライナ
開発者 ユージュノエ設計局
使用期間 1985年4月13日~2004年6月10日(最後の打ち上げ)
射場 バイコヌール宇宙基地 45番射点
打ち上げ数 36回(成功28回)
原型 エネルギア(補助ブースター)
発展型 ゼニット2M
ゼニット3SL
ゼニットシリーズ
物理的特徴
段数 2段
総質量 460トン
全長 57m
直径 3.9 m
軌道投入能力
低軌道 13,740 kg
太陽同期軌道 5,000 kg
テンプレートを表示

ゼニット2(Zenit-2)はウクライナ及び旧ソ連使い捨て型ロケット

概要

1985年に初めて打ち上げられた。現在まで36回打上げられ、そのうち一部失敗を含む8回の打ち上げに失敗している。 ゼニットロケットシリーズの一つ、中でも初期型であり、設計はユージュノエ設計局が行った。改良型のゼニット2Sはシーローンチ社のゼニット3SLの最初の2段に使用されている[1]

ゼニット2の打上げはバイコヌール宇宙基地45/1射場から行われた。第2発射台である45/2射場も建設されたが、2回目の打ち上げ時にロケットが墜落、爆発に巻き込まれて破壊された[2]。第3発射台であるプレセツク宇宙基地サイト35は完成せず、ソビエト連邦の崩壊後に断念された[2]

性能

一段目

エンジン:RD-171

推力:8,180KN

比推力:337s

燃焼時間:150秒

推進剤:RP-1 / LOX

ニ段目

エンジン:RD-120 / RD-8

推力:912KN / 79.5KN

比推力:349s

燃焼時間:315秒

推進剤:RP-1 / LOX

エピローグ

1990年代には商業衛星の打上げにも参入したが、グローバルスターグループの衛星の打ち上げ1回のみで、この打上げもコンピューターエラーによって2段目の切り離しが早く行われたことが原因で失敗に終わっている。

ゼニット2は2004年6月10日の最後の打ち上げで引退。後継としてゼニット2Mロケットが開発されたが、2回の打ち上げで事実上の引退。

ゼニット2で打ち上げられた主な衛星はツェーリナ2など。

参考文献

  1. ^ The Rocket - Zenit-3SL”. Sea Launch. 2009年4月14日閲覧。
  2. ^ a b Wade, Mark. “Zenit”. Encyclopedia Astronautica. 2009年4月14日閲覧。

外部リンク


ゼニット2

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/09/19 14:36 UTC 版)

ゼニット (ロケット)」の記事における「ゼニット2」の解説

詳細は「ゼニット2」を参照 ゼニット2は低軌道打ち上げ用として最初に設計され2段式のゼニットである。1段目にRD-171エンジンを、2段目にRD-120使用するエネルギア開発遅延のためにエネルギア打ち上げられる2年前の1985年4月13日最初打上げが行われた。

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