シンセサイザー特有の演奏方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/26 09:10 UTC 版)
「シンセサイザー奏者」の記事における「シンセサイザー特有の演奏方法」の解説
またシンセサイザーの演奏は人が演奏するだけに留まらず、人と機械の演奏を合わせてなされる演奏方法もあり、シンセサイザー奏者は機械が織り成す発音・演奏を考慮した演奏技能を持つことも要求される。 例えば、先のサウンド・カテゴリーのうち「パッド」と呼ばれるサウンドの中でも音の立ち上がりが遅く設定されているパッド音(例えばゆっくり音量が大きくなる弦楽器の様な音)を選んで演奏する場合には、フィルターの開き具合や音の立ち上がりを聞きながら演奏できなければならない。また曲のテンポが早くて音の立ち上がりがまるで追いつかないと感じる音色は音の立ち上がりが早い別の音色に選び変えるか、音の立ち上がりの早さを調整して設定を変える操作を行える判断と技能が要求される。音の調整はあらかじめ行う場合もあれば、演奏中にパネル上のつまみを操作して調整する場合もある。 現在(2006年)では発売されたシンセサイザーのほとんどは様々な音色をシンセサイザー本体に蓄積できる「サウンド・バンク」と呼ばれる機構を持つ。その音色数は一台のシンセサイザーあたり128音色以上(最大で1000を超えるものもある)にものぼり、シンセサイザー奏者が演奏中に音色を自由自在に変えたい場合にはこのサウンド・バンクの中の音色をシンセサイザーの機種ごとに記憶し、どの機種のどのナンバーにどの音色があるか、ということがおよそわかるまでそのシンセサイザーに慣れておくことを要求される。 さらに自動演奏(シーケンサー)機能が搭載されたシンセサイザーを演奏する場合では、「アルペジオ」と呼ばれる分散和音やリズムの演奏を聞きながら鍵盤を操作しなければならない場合もある。(分散和音の自動演奏に特化した機能は「アルペジエイター」とも呼ばれる) シンセサイザーの鍵盤は当初、発音のための「スイッチ」の代わりとして本体に付属したため、その意義も演奏のためにつけられたものではないところから始まっている。かつてのシンセサイザーは発音のためのボタンがついており効果音を発する音響機器としての性質が強かった(この当時では「シンセサイザー」という呼び名はまだない)。鍵盤の付属が定着したのはロバート・モーグが開発し商品化したモーグ・システム・シンセサイザー以降のことである(モーグの発明したシステム・シンセサイザーは「モジュラー・シンセサイザー」「モジュール・システム・シンセサイザー」とも呼ばれる)。モーグはピアノ式の鍵盤以上に演奏しやすい新しい理想的なスイッチの形を長い間模索していたが、シンセサイザー開発の最後でその発音スイッチをピアノ式の鍵盤に選んだのには、どの音楽家にとっても馴染まれておりどの人にも音楽的な表現に対応するのにもっとも優れているスイッチが(ピアノ式の)鍵盤であったため、とかつてその根拠を語っている。(演奏しやすいピアノ鍵盤以外の鍵盤として現在では「クロマチック鍵盤」と呼ばれる蜂の巣状の鍵盤が考案され実用化されている) シンセサイザーの鍵盤はピアノの様にハンマーで弦を叩くようにはなっていないので、重い鍵盤に慣れているピアニストがシンセサイザーの鍵盤を触ると軽すぎておもちゃの鍵盤の様に感じられたりする。また多くのシンセサイザーは鍵盤のオクターブの幅がピアノの様に広くないのでピアニストたちには弾きづらいと感じる様だ。他方シンセサイザー奏者にとってはこれらの問題は気にならない場合がほとんどだ。 さらに1970年代後半に発売されたシーケンシャル・サーキット社のプロフェット5(Prophet 5)の製造初期には、鍵盤を押すとほんの一瞬発音までの時間にブランクを感じるピアニストもあった(この一瞬のブランクはシーケンシャル・サーキット社が考案した独特の鍵盤部の発音機構から生じていたもの)。それでもシンセサイザー奏者はプロフェット5を使う際には発音タイミングのズレが気になる場合でも鍵盤を押さえるタイミングを少し前にずらすなどしてそれを弾きこなした。これらのエピソードから考えると、シンセサイザーの鍵盤が発音スイッチであることの前提に立つか立たないかということがそうしたシンセサイザーの鍵盤への馴染み具体に結びついているものと思われる。鍵盤をスイッチと思わないピアニストたちにとっては違和感があり、スイッチだと考えるシンセサイザー奏者たちにとってはどんな鍵盤でもひとまず受け入れられたのだろう。(「ひとまず」というのは、鍵盤楽器を音楽に使う以上理想的な発音タイミングはやはりジャスト・タイムで弾きやすい鍵盤であることの方が理想的だからだ。それでも目の前に優れたサウンドを出すシンセサイザーがあれば、シンセサイザー奏者たちは鍵盤の問題を差し置いてもサウンドの方を重視して弾いたのである) この様にシンセサイザーは鍵盤の意義や使い方も他の鍵盤楽器と異なる一面を持っているのに加え、シンセサイザー奏者は演奏に音響的な調整とその技能に密接に関わりを持つため他の楽器奏者と異なる点が多いが、シンセサイザーを「音楽演奏のために音を鳴らすもの=楽器」として見た場合に他の楽器の演奏者とまったく同様に「〜奏者」と呼ぶことが一般的となり今日に至っている。
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