「火事」と言えば接続される火災報知用電話の誕生
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「119番」の記事における「「火事」と言えば接続される火災報知用電話の誕生」の解説
1916年(大正5年)2月より、電話を用いた市民からの迅速なる出火報知およびその際の電話料金の無料化について消防と逓信の関係者で協議された。火災の発見は望楼(火の見櫓)からの監視が中心だったが、市民からの素早い電話報知こそが最も効果的だからである。 まず火災報知だけは特例として電話番号を告げなくても、消防署へ接続する方向で話し合われた。しかし大きな問題があった。各電話局の加入区域と、各消防署の管轄区域がまったく合致しなかった。そのうえ下谷区仲御徒町三丁目にある下谷電話局の加入区域内には第四消防署(本郷区)と第五消防署(浅草区)の2つがあった。報知者が電話機の受話器を上げると自分が住む地元電話局の交換台につながる。ここで交換手が報知者から出火場所の住所を聞きとり、どこの消防署へ接続するかを判断するなどは担当業務の範囲を超えている。そもそも一刻を争う緊急下において、市内各所に点在するどの消防署へ回線接続するべきかの重要判断とその責任を電話局の一交換手が負うべきものではない。 これまで(手元に加入者名簿 がなく、)消防署の電話番号が分からない場合は、500番(案内台)で自分が所轄だろうと思う消防署の番号を教えてもらい電話するしかなく、善意の電話なのに、報知者に大きな負担を強いていた。 そこで各電話局ごとに接続する消防署を(出火場所によらず)一意に定め、輻輳しないように火災報知用の専用線を架線した。そして専用線からの入電を受けた消防署が必要に応じて警察電話で他署へ連絡することになった。 また問い合せばかりが集中した過去の失敗を踏まえ、新設する制度では「警鐘前」の"通報"のみに限定し、また交換手に『消防』と告げるのではなく、『火事』 だと申し出ることにした。 1917年(大正6年)4月1日、こうして東京市内でスタートした「火災報知用電話」を、電話による火災報知システムの嚆矢とする。同年10月1日に大阪中央電話局電話加入区域内 で、また同年12月1日には横浜市内 でも実施された。 大正6年 逓信省告示第305号(3月30日) 来る四月一日より東京市内における出火に際し、その警鐘前においてこれを警視庁消防部または消防署に通報するため市内通話を為さんとする者は、左記によりその請求を為すことを得。加入者は所属交換取扱局を呼出し、単に「火事」と告げること 自働電話 による者は前項の例に準じ、かつ交換取扱局の指示により料金を投入すること 郵便局そのほかの公衆電話 による者は火災報知の旨を申し出ること(通話券(対話者電話番号の記入を擁せず)及び郵便切手は便宜通話後に差出すも支障なし) 前項の請求ありたるときは、交換取扱局において便宜と認める消防官署に接続通話せしむ 本告示による火災報告の通話は取扱上支障なき限り最優先により接続する 大正6年 逓信省告示第758号(9月15日)来る十月一日より大阪中央電話局電話加入区域内における出火に際し、その警鐘前においてこれを大阪府警察部消防課または消防署に通報するため市内通話を為さんとする者は、左記によりその請求を為すことを得。 (以下同文につき省略) 大正6年 逓信省告示第1019号(11月15日)来る十二月一日より横浜市内における出火に際し、その警鐘前においてこれを神奈川県警察部または警察署に通報するため市内通話を為さんとする者は、左記によりその請求を為すことを得。 (以下同文につき省略) 所轄消防署がどこかさえ知らなかったり、あるいは所轄消防署の電話番号を覚えていたはずでも、緊迫した状況下で思い出せなくなるなど、加入電話番号への火災報知に課題は多かった。そのため、交換手に単に『火事』と告げるだけで、消防官署へ接続してくれるこのサービスは画期的なものとなったが、火災場所の問い合わせ電話で電話交換業務に支障をきたした過去の経験から、逓信省は無料化に同意しなかった。 火災報知用電話の導入2年目の実績は下表の通りである。従来の望楼(火の見櫓)からの火災発見に比べて、火災報知用電話は火災の早期発見および初期消火活動に著しい効果を発揮するようになった。 (大正7年1月より11月)火災発見種別火災件数消失戸数即時消留損害価格全焼半焼火災報知用電話 192 23 81 157 85,419 消防望楼 75 333 193 26 868,048
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