地震
『カンディード』(ヴォルテール)第5~6章 哲学者パングロスと弟子カンディードが、リスボン市中に足を踏み入れた途端、大地震が起こる。3万の住民が圧死し、リスボンの4分の3が破壊された。何が起こっても、パングロスは「すべては最善の状態にある」と言う。しかしパングロスは絞首刑になり、カンディードは笞刑を受ける〔*物語の最後で、パングロスは生きていたことが明かされる〕。
『桑港(サンフランシスコ)』(ヴァン・ダイク) 1906年4月18日の夕刻。サンフランシスコを大地震が襲う。煉瓦造りの建物が、次々と崩れる。ダンスホールの経営者ブラッキーは瓦礫をかきわけて、恋人の歌手メリーを捜す。方々で火の手が上がり、市街は炎に包まれる。ブラッキーは、丘に避難した市民たちの中に、無事なメリーを見出して安堵する。その時、「火事が消えた」「街を再建しよう」との声があがる。人々はリパブリック賛歌を合唱しつつ、市街へ行進する。
『平家物語』巻12「大地震」 元暦2年(1185)3月24日、平家一門は壇の浦に沈んだ。その年7月9日に京を大地震が襲い、無数の人が死んだ。70~80歳、90歳の老人も、「世界の滅亡が今日・明日とは思わなかった」と驚いた。平家の怨霊のたたりではないか、と人々は恐れた。
『文字禍』(中島敦) 紀元前7世紀の某日、ニネヴェの町を大地震が襲い、自家の書庫にいたエリバ老博士は、おびただしい書籍、すなわち数百枚の重い粘土板の下敷きになって、圧死した。これは文字の霊の、博士への復讐であった→〔文字〕5a。
『ヨハネの黙示録』第16章 世界の終末の時、7人の天使が7つの鉢に盛られた神の怒りを地上に注ぎ、大災害が起こる。第7の天使がその鉢の中身を空中に注ぐと、天の神殿の玉座から「事は成就した」との声が聞こえ、人間の歴史始まって以来の大地震が発生する。大きな都が3つに引き裂かれ、諸国の民の方々の町が倒れ、島々は逃げ去り、山々は消え失せる。
*大地震のために家の下敷きになる→〔妻殺し〕5の『疑惑』(芥川龍之介)。
*巨大地震で日本列島が水没する→〔水没〕2bの『日本沈没』(小松左京)。
『三宝絵詞』上-11 薩タ王子が、自分の肉体を飢えた虎に喰わせ、その功徳によって清浄な仏身を得ようと願い、竹林の中を歩いて行く。その時、大地が震動し、太陽が光を失い、天から花が降った。宮殿にいる王子の母后は悪夢を見ていたが、地震に驚いて目覚めた。
『神曲』(ダンテ)「煉獄篇」第20~21歌 ヴェルギリウスと「私(ダンテ)」が煉獄の岩山の第5環道を登っていると、突然、山が激しく揺れ動き、「高き所には栄光、神にあれ」との歌声が聞こえる。1人の死者が「煉獄では、誰かが魂の浄化を自覚した時に地震が起こる」と教える。
『法華経』「序品」第1 霊鷲山上の世尊は、数多くの比丘・菩薩・天子・龍王たちに向け、いよいよ『法華経』の教えを説こうとして、結跏趺坐し三昧境に入った。すると天は、曼陀羅華(まんだらけ)・曼殊沙華(まんじゅしゃけ)などを雨のごとく降らせ、世界は東西南北上下の6種に震動した。
*→〔花〕6の『三宝絵詞』上-1。
『古今著聞集』巻11「画図」第16・通巻386話 花山法皇が書写山の性空上人のもとを訪れた時、絵師を連れて行って、ひそかに上人の姿を描かせた。その時、山が響き地が動いたので、法皇は驚いた。上人は「私の姿を写したので、地震が起こったのです」と言った→〔痣(あざ)〕4。
『多情仏心』(里見弴) 資産家の弁護士藤代信之は、その信条である「まごころ」をもって多くの友人に接し、芸者たちを愛する。彼は胃癌を患い、妻子・愛人・友人たちに見取られて、紀尾井町の自宅で36歳の生涯を終える。それは大正12年(1923)9月1日午前4時15分のことで、大地震が東京を襲う8時間足らず前であった。
『封神演義』第1回 商王朝(=殷)第30代の王・帝乙の第三王子・季子(=後の紂王)が生まれた日、都・朝歌は未明から大地震に襲われた。宮殿は揺れ、中庭は裂けたが、季子の産声と同時に地震はおさまり、地割れも消えた。
『マタイによる福音書』第27章 十字架上のイエスが「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と叫んで息を引き取ると、直後に地震が起こり、岩が裂けた。人々は「まことにこの人は神の子であった」と言った〔*他の福音書には地震の記事はない〕。
★4.地震の原因。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)50 バルドルの死の原因を作ったロキを、神々が岩に縛りつけ、蛇の毒がロキの顔の上にしたたる。ロキの妻が桶で毒を受け、いっぱいになると捨てに行く。その間はロキの顔に毒がかかり、ロキは激しくもがくので、大地が震える。これが地震である。
巨人グミヤー(中国・プーラン族の神話) 巨人グミヤーが天地を創造したが、地面の下側は空洞で不安定だった。グミヤーは大海亀を捕らえ、地面の下を支える。海亀は逃げようとするので、金鶏が見張る。しかし金鶏が疲れて目を閉じると、海亀は動き出し、地上は大地震になるのだ。
『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」 大地の底深くにヴィルーパークシャという巨象がいて、頭に大地を載せている。この象が大地の重さに耐えかねて頭を振る時、地震が起きる。
★5.地震の恐怖。
『病蓐の幻想』(谷崎潤一郎) 「彼」は歯痛に苦しみ、夢うつつで病臥している。妻が「9月なのに妙に暑いのは、地震でも来るのじゃないか」と女中に言う。「彼」は大地震による死の可能性を思い、恐れる。老婆が枕元で「安政の大地震の日も、こんな天気だった」と言う。やがて地鳴りが始まるが、それは夢だった。「彼」は地震の際の避難経路をあれこれ考える。その時、ついに大地震が襲って来る。しかしそれも夢だった。
『今鏡』「昔語」第9「賢き道々」 陰陽師有行と医師雅忠が酒を飲んでいた時、有行が「すぐお飲みなさい。まもなく大きな地震がありますから、こぼれてしまいますよ」と言う。雅忠は「まさかそんなことはあるまい」と思ってゆっくり飲んでいると、たちまち地震が来て、杯いっぱいの酒をこぼしてしまった(*『古今著聞集』巻7「術道」第9・通巻296話の類話では、地震を予知したのは陰陽師吉平)。
『続古事談』巻1-8 冷泉院が「池の中嶋に幄(あく。仮屋)を建てよ」と人々に命じ、午時(=正午頃)にそこへお入りになった。すると未時(=午後2時頃)に大地震があり、逃げ遅れた人は建物の下敷きになった。冷泉院は「昨夜の夢に九条大臣(=藤原師輔。冷泉院の母方の祖父)が現れて、地震のこと・中嶋へ避難すべきことを告げた」と仰せられた。
『ギリシア哲学者列伝』(ラエルティオス)第1巻第11章「ペレキュデス」 ペレキュデスは古代ギリシアの人である。彼は井戸から汲み上げられた水を飲んでいて、「3日目に地震が起こるだろう」と予言した。そして実際、そのとおりになった。
★7.地震を防ぐ重石(おもし)。
要石(かなめいし)の伝説 鹿島神宮に要石がある。鹿島の神が天から降臨した時に、この石に座し給うた。周囲60センチほどの小さな石だが、その根は地中深くへ入り込み、極まるところを知らない。要石が地中の大ナマズを押さえているので、この地方には大きな地震がない(茨城県鹿島郡鹿島町宮中)〔*鹿島明神が、釘で地中の大魚を貫いた。その釘が要石だ、との伝説もある→〔ウロボロス〕1の『新編常陸国誌』〕。
『南島の神話』(後藤明)第4章「日本神話と南島世界」 とても長い魚「ナエ」が口から尾を離すと、地震が起こる(*→〔ウロボロス〕1)。ナエの頭部は京都の下にあって、その中心に経塚がある。ふだんは、重い経塚がナエを押さえており、ナエはいったん尾を離しても、経塚の重みによって、すぐまた尾をくわえる。だから地震の時には、人々は「きょうづか、きょうづか」と唱えるのだ(種子島の伝承)。
★8a.「地震だ」と思ったら、動物の背中に上陸していたのだった。
赤えい(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 体長3里(=約12キロメートル)の巨大な赤えいがおり、時折、海面に浮かび上がってくる。船人たちが陸地だと思って上陸したところ、地面がぐらぐら揺れ出した。「地震だ!」と、あわてて逃げようとしたが、赤えいは海の下へ沈み、船人たちは渦に呑み込まれてしまった。
『千一夜物語』「船乗りシンドバードの冒険・第1の航海」マルドリュス版第292夜 シンドバード一行が大洋の中に島を見つけ、船の錨を下ろして上陸する。火をおこして食事の用意をしていると、突然大地震が起こる。島と見えたのは大鯨であり、その背中で火をおこしたので、大鯨は眠りから覚め、動き出したのだった。
蛙(高木敏雄『日本伝説集』第11) 比叡山に登った男が、景色に見惚れて岩の上に寝転び、煙草を吹かしていると、大地震が起こった。岩と思ったのは大きな蛙で、煙草の火で背を焼かれて、動き出したのだ。男は病気になって、2~3日後に死んだ。昔から「比叡山の主は大蛙だ」と言われているから、その蛙に遇ったのだろう。
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