関数 (数学) 記法

関数 (数学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 02:41 UTC 版)

記法

函数を書き表すために標準的な方法がいくつかある。

一般的によく知られる記法は、函数名と引数を明示する式を用いて函数を定義する、いわゆる函数記法である。しかし函数記法には、「函数それ自身」と「函数の値」の区別ができないという問題点がある。

函数はイタリック体の文字一つで表すか(例えば f, g, h, ... )、ローマン体の文字を複数用いて表す(例えば 三角関数: sin, 指数関数: exp, 対数: log, 対数積分: Li, li, : tr, Sp など)。後者のローマン体は例えば函数名の省略形で函数を表記する際などに用いられる。 イタリック体でなくローマン体を函数に用いることで、通常イタリック体で表記される変数との混同を避けることができる[17]

函数記法

函数記法で (「fx における値が y である」)と書けば、これは順序対 (x, y) が函数を定義する順序対の集合に属することを意味する(より具体的に函数 f の定義域を X とすれば、函数を定義する順序対の集合とは、集合の内包的記法英語版と書ける)。

しばしば函数の定義は、函数 f が明示された引数 x に対して何をするのかという形で行われる。例えば f を任意の実数 x に対して成り立つ等式 によって定義するものとすれば、これは x自乗して 1 を加えその正弦をとるというより単純な複数の手続きの合成として考えることができる。

誤解のおそれのない場合、例えば複数文字の函数記号を用いる函数について、引数を明示する丸括弧は省略してよい。つまり と書く代わりに と書いてもよい。

函数記法を用いたのはレオンハルト・オイラーが最初(1734年)とされる[18]

矢印記法

函数 f の定義域 X と終域 Y を明示する目的では、矢印記法 (「fX から Y への函数」「fX の元を Y の元に写す」)が用いられる。これに重ねて、元の間の関係を示すため「fxf (x) に写す」ことを意味する xf (x) をしばしば書き加える。

例えば、積の定義された集合 X 上で各元を平方する函数 sqr を紛れなく定義するには

のように書けばよい。元の対応は xx2 と書いても良い。

しばしば函数記号や定義域および終域については省略される。そのような記法は、函数の任意の引数における値だけが等式で与えられている状況がよくあるので、その際に特別な函数記号を用意しなくてよいため有用である。例えば、二変数の函数 が与えられていて、第二引数を値 t0 に固定して得られる偏函数英語版 に言及したいとき、この函数に新たに名前を付けなくても、 という元の対応を表す矢印記法を用いれば扱うことができる。

添字記法

添字記法も函数記法と並んでよく用いられる記法で、函数記法の f (x) は添字記法では fxのように書かれる。

  • 定義域が自然数の場合(つまり、数列の場合)には添字記法を使うのが典型的で、各値 fn は数列の n 番目の項と呼ばれる。
  • 複数の引数を持つ函数において、それら引数が「真の変数」と媒介変数(パラメータ)に分けられるとき、真の変数ではないことを区別するために助変数を添字にすることがしばしば行われる(実際にはパラメータというものは、一つの問題を考察している間は何らかの値に固定されているものと見なされるような変数を言うのである)。例えば、先の例でもみた二変数函数の偏函数 xf(x, t) を添字記法で と書けば、定義式 によって一変数函数の族 が定義される。

点記法

矢印記法 xf(x) において、記号 x は特定の値を表さず、単なるプレースホルダとして、左辺の x を任意の値に置き換えた際に右辺の x も同じ値で置き換える必要があることを示すために、用いられている。したがって、x の代わりにどんな記号を使ってもよく、数式中の特定の値を表す文字との混同を避けるため、中黒 "" がよく用いられる。中黒を使用することで、例えば函数自身 f (⋅) と任意の点 x における函数の値 f (x) とを区別することができる。

その他の例として、xax2 を表すのに と書く場合や、上の限界が変数である定積分 と書く場合などが挙げられる。

特殊化された記法

数学の特定の分野では、その他の特別な記法が使われたりもする。例えば線型代数学関数解析学では線型写像ベクトル[要曖昧さ回避]に作用させるときに、それらの間に成り立つ双対性を明らかにするために内積の記法が用いられる(量子力学でも同様のブラ-ケット記法が用いられる)。数理論理学計算理論ではラムダ計算の記法が、函数の抽象化適用英語版などの基本概念を明示的に表すために用いられる。圏論ホモロジー代数学では、上で見た函数の矢印記法を延長あるいは一般化するように、函数からなる図式およびそれらの合成が可換図式を満たすという意味でどのような可換性を持つかという形で記述される。


注釈

  1. ^ 但し、1958年の中学校学習指導要領では用語として「一次関数(一次函(かん)数)」と併記しており、「関数」のみになるのは1969年の中学校学習指導要領である。
  2. ^ 数学の多くの文脈では函数 (function) と写像 (map) は同じ意味で用いられる。[15]
  3. ^ 例えば Serge Lang[16] などは "function" を終域が数の集合 (すなわち実数R複素数C などのの部分集合) となる写像を指す場合に限り、より一般の場合には "mapping" を用いている
  4. ^ ここでいう「初等的」は必ずしも日常会話的な意味で初等的とは限らない。初等的な数学において遭遇するほとんどの函数は初等函数だが、例えば高次多項式の根を含むなどして日常的な意味で初等的ではないような初等函数も存在する。
  5. ^ 例えば単位円の方程式 は実数全体の成す集合上の二項関係を定める。–1 < x < 1 ならば y として二つの値が可能で、一方は正他方は負である。x = ± 1 のときは二つの値はともに 0 になる。それ以外では y は値を持たない。このことから、この方程式は [–1, 1] を定義域とするふたつの陰函数を定義し、それらの値域はそれぞれ [0, +∞) および (–∞, 0] である。この例では方程式は y について解くことができて と陽に書けるが、より複雑な例ではこのようなことが不可能なものも出てくる。例えば方程式 y超冪根 と呼ばれる x の陰函数としてさだめる(定義域・値域ともに R)。超冪根は四則演算と冪根をとる操作によって表すことができない。
  6. ^ 但し、1958年の中学校学習指導要領では用語として「一次関数(一次函(かん)数)」と併記しており、「関数」のみになるのは1969年の中学校学習指導要領である。

出典

  1. ^ 馮, 立升「代微積拾級』の日本への伝播と影響について」『数学史研究』第162号、日本数学史学会、1999年9月、15–28、doi:10.11501/3202759ISSN 0386-95552022年11月2日閲覧 
  2. ^ a b 公田藏「近代日本における, 函数の概念とそれに関連したことがらの受容と普及 (数学史の研究)」『数理解析研究所講究録』第1787巻、京都大学数理解析研究所、2012年4月、265-279頁、CRID 1050282810743929856hdl:2433/172764ISSN 1880-2818 
  3. ^ a b 片野, 善一郎『数学用語の由来』明治図書出版、1988年。ISBN 4-18-543002-7 
  4. ^ a b c d 片野, 善一郎『数学用語と記号ものがたり』裳華房、2003年。ISBN 4-7853-1533-4 
  5. ^ 譯語會記事」『東京數學會社雑誌』第62号、數學會社假事務所、9頁、doi:10.11429/sugakukaisya1877.1884.62_8 
  6. ^ 譯語會記事」『東京數學會社雑誌』第64号、數學會社假事務所、14頁、doi:10.11429/sugakukaisya1877.1884.64_14 
  7. ^ 菊池大麓「雜録」『東京數學會社雑誌』第61号、數學會社假事務所、1頁、doi:10.11429/sugakukaisya1877.1883.61_1 菊池大麓「雜録」『東京數學會社雑誌』第63号、數學會社假事務所、1頁、doi:10.11429/sugakukaisya1877.1884.63_1 
  8. ^ a b この経緯については、島田茂 (1981)「学校数学での用語と記号」福原満州雄他『数学と日本語』共立出版 ISBN 4-320-01315-8 pp.135-169 に詳しい。
  9. ^ a b 一松信 (1999)「当用漢字による書き替え」数学セミナー編集部編『数学の言葉づかい100』日本評論社 ISBN 4-535-60613-7 p.5
  10. ^ a b c 小松勇作「関数」『数学100の慣用語』数学セミナー1985 年9月増刊、数学セミナー編集部編『数学の言葉づかい100』日本評論社 ISBN 4-535-60613-7 p. 58 に再録
  11. ^ 志賀浩二『数学が生まれる物語/第4週 座標とグラフ』岩波書店、70頁(1992年)
  12. ^ (美国) 羅密士撰『代微積拾級』 巻十、(英国) 偉烈亜力口訳、(清) 李善蘭筆述、咸豊9年、1丁裏頁。 東北大学附属図書館林文庫蔵。東北大学和算資料データベースで『代微積拾級』を検索することにより、画像ファイルを見ることができる。
  13. ^ a b 飯島徹穂編著、『数の単語帖』、共立出版、2003年、「関数」より。ISBN 978-4-320-01728-3
  14. ^ 遠山啓、『[1]』、岩波書店、〈岩波現代文庫〉、2011年。ISBN 978-4-00-603215-9
  15. ^ 松坂 1968, p. 28—「A, B が一般の集合である場合にも、A から B への写像を、A から B への関数(中略)ということがある。」
  16. ^ Lang, Serge (1971), Linear Algebra (2nd ed.), Addison-Wesley, p. 83 
  17. ^ Letourneau, Mary; Sharp, Jennifer Wright (2017-10), AMS Style Guide, American Mathematical Society , p. 98, §13.3. Standard abbreviated forms of mathematical expressions and functions.
  18. ^ Ron Larson, Bruce H. Edwards (2010), Calculus of a Single Variable, Cengage Learning, p. 19, ISBN 978-0-538-73552-0 
  19. ^ 日本数学会編、『岩波数学辞典 第4版』、岩波書店、2007年、項目「特殊関数」より。ISBN 978-4-00-080309-0 C3541





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