カメムシ 習性

カメムシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/23 20:38 UTC 版)

習性

カメムシ類は植食性のものが多く、果実などに口を差し込み、植物の細胞の中にある原形質などの液を吸収する[7]。草や木の上に暮らすものが多いが、地中でにつくものや、地表に生息し、落下した種子などから吸汁するものもある。

朽ち木に生息するものでは、菌類を餌にするものもあると見られるが、詳しいことはよく分かっていない。

他の昆虫などを餌にする肉食性のものもある[7]サシガメは様々な昆虫を餌にし、一部には大型動物から吸血するものがある。クチブトカメムシ類は主としてイモムシなどの類の幼虫を標的にする。

クチブトカメムシ類は肉食と同時に植物からも吸汁するが、同様に肉食と草食の雑食の性質を示すものは多い。草食を主に肉食を交えるものとしてスコットカメムシ、ウシカメムシが知られている。またカスミカメムシ科には、純肉食や肉食主体で草食を交えるものから、草食主体で肉食を交えるものまで様々なバリエーションがある。

多くのカメムシは餌の近傍に卵を産み、そのまま放置するが、ツノカメ類など、一部に雌が産卵後も卵を守る行動をするものが知られている。また、一つの卵塊から孵化した幼虫が、ある程度成長するまで集団で生活するものも見られる。他に、ヘリカメムシ類では、多数の雌の集団を一頭の雄が守る、ハーレム英語版を作るものが知られている。そのような種では、雄の後脚が太く発達し、他の雄が近づくと、その脚で蹴るようにして撃退しようとする。

クサギカメムシなどでは、集団で越冬するものが知られている。

人間とのかかわり

影響

植食性の種には、栽培植物につくものがあり、農業上の重要な害虫が多い[2]イネの害虫として知られているのはアオクサカメ、クロカメムシ、ミナミアオカメムシ、コバネヒョウタンナガカメなどがあり、葉や茎から汁を吸うほか、若い籾から汁を吸われると、米粒が茶色になる(斑点米)。

このため、カメムシの生息地では、水田で殺虫剤の使用が行われるほか、生息域を狭めるために、雑草刈払機除草剤による草刈りが行われる[8]ミカンなどの果樹にはクサギカメ、チャバネアオカメやツヤアオカメ、野菜にはナガメやホソヘリカメ、ホオヅキヘリカメなどがつく。晩春から秋のあいだ(5 - 10月ごろ)につくナス科・マメ科・イネ科など多くの野菜の害虫として知られており、茎や葉、実について汁を吸うため、株の生長の勢いが妨げられる[9]

日本の植物防疫法では「果樹カメムシ類」「さとうきびのカンシャコバネナガカメムシ」「大豆の吸実性カメムシ類」「斑点米カメムシ類」が農林水産省によって指定有害動物に指定されている[10]

肉食の種には害虫を食うものもあり、益虫とされるものもある。ハナカメムシ類は、せいぜい2mm程度の小型のカメムシで、アブラムシアザミウマなどを捕食するので、害虫防除に天敵として利用されている。

サシガメ類は肉食なので、益虫として扱われることもあるが、人間が不用意に触ると刺すことがあり、刺されると大変な痛みを伴う。時に痛みはスズメバチ以上になるとも言われている。多くは野外の草の間や地面に生息しているが、一部は室内に侵入する場合があり、その機会に刺される場合がある。吸血性の種は衛生害虫であり、シャーガス病を媒介する。悪臭を放つだけでなく、クサギカメムシのように、分泌物が皮膚炎を引き起こす種もいる[11]

カメムシは悪臭を放つことから、一般には不快害虫とされている[11]

夜間に明かりに向かって飛んでくる習性(走光性)を持つため、人家の明かりに反応し家屋に侵入することがある。また、人家集団越冬を迎える種もおり、悪臭被害の原因となる。1990年頃から、南日本でアオカメ類を中心とする大発生が数度にわたってあり、農業被害とともに、人家に大量に飛び込む事例が報告された。

なお、青森県下北半島では「秋にカメムシが大量発生すると、冬は大雪になる」と言い伝えられている。

方言

臭いを発するなじみ深い虫なので、各地で色々な方言で呼ばれてきた。例として、

  • 「ヘコキムシ」「ヘッピリムシ」(多くの地方)
  • 「クセンコ」「クセンコムシ」(青森県)
  • 「アネコムシ」「ヘメコムシ」「ヒメコムシ」「ドンベムシ」(秋田県南部山間部など)
  • 「ヘクサムシ」「ヘクソムシ」「クサムシ」(山形県福島県
  • 「ジャコ」(宮城県
  • 「ヘタガニ」「ヘチガネ」「ジョロピン」(新潟県の一部)
  • 「ワクサ」「ワックサ」(群馬県埼玉県
  • 「ヘクサクン」「トモコチャン」(長野県南部)
  • 「ヘクサンボ」(福井県嶺北石川県の一部、富山県の一部、山形県の一部)
  • 「オガムシ」(福井県嶺南の一部、奈良県の一部、徳島県の一部、愛媛県の一部)
  • 「ガメ」「ノブコムシ」(岐阜県の一部)
  • 「ヘクサムシ」(岐阜県飛騨地方
  • 「マナゴ」(和歌山県
  • 「ジョンソン」「ジョロムシ」「オヒメサマ」(兵庫県日本海側の一部)
  • 「ヒメムシ」「ヨメサンムシ」(京都府丹後地方
  • 「ガイザ」「ガイダ」「カイダ(ムシ)」(兵庫県〜岡山県の山間部)
  • 「ホウムシ」(島根県西部・山口県中部)
  • 「ハットウジ」「ハトウジ」(岡山県〜広島県の山間部)
  • 「ホウジ」(山口県)
  • 「ジャクジ」「ジャクゼン」「ブイブイ」(愛媛県)
  • 「フウ」(九州地方

などがある。

特に九州で今日用いられている「フウ」あるいは「フウムシ」は、カメムシを指す古語の一つの系譜を引いているとも言われており、ホオズキの語源ともされている。

利用

コウチュウ目のような整った形をもつカメムシ類は、一部の昆虫採集家から愛好されている。東南アジア産のジンメンカメムシはペンダントなどに加工され、土産物として売られている。

南アフリカ共和国ジンバブエラオスメキシコなどでは、ある種のカメムシが食用にされている[12]。アフリカでは、まず熱湯をかけたり内臓を除去したりして臭いをなくしておき、よく茹でてから天日で干物にする。ラオスでは採集したカメムシをそのまま、あるいは加熱して調理に使う。油っこい味と特有のにおいがある。種によっては食後に口中に清涼感が広がる。

外来種としてのカメムシ

ニュージーランドでは、日本などから外来種のカメムシが流入していることが確認されており、農業への影響が懸念されている。2018年2月、ニュージーランドの港に寄航しようとした日本発のRORO船から、大量のクサギカメムシが発見されたため、当局から3隻が入港拒否される事例が発生した[13]

分類と代表種

Jewel Bugs Chrysocoris stolli
オオキンカメムシ
Eucorysses grandis
(キンカメムシ科)
エサキモンキツノカメムシ
Sastragala esakii
(ツノカメムシ科)
クサギカメムシ Halyomorpha halys,
チャバネアオカメムシ Plautia stali,
アオクサカメムシ Nezara antennata
(いずれもカメムシ科)
ミナミアオカメムシの幼虫
Nezara viridula
(カメムシ科)
ツノアオカメムシ
Pentatoma japonica
(カメムシ科)

代表的な科と、若干の種について記す。

ツチカメムシ科
草や樹木の根元の地表、地中に生息。植食性(種子食者が多い)。一部に子育て行動(卵・幼虫保護と給餌)。
マルカメムシ科
マメ科タデ科などの草本の茎から吸汁。胴体を小楯板が覆う。全体は横長の球に近い形。
キンカメムシ科
木本イネ科草本の種子食者。美しい金属光沢を持つものが多い。アカギカメムシなど一部の種が卵を保護。
アカスジキンカメムシ、ニシキキンカメムシ - 日本一美しいカメムシとも呼ばれることがある。
カメムシ科
アオクサカメムシミナミアオカメムシ、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ - いわゆるアオカメムシ類で緑色のカメムシ。農業害虫。
クサギカメムシ - 日本(本州以北)で最も多くみられる種の1つ。成虫で越冬する。
クチブトカメムシ - 口を前に突き出すようにして、イモムシに突き刺して食べる。
ナガメ - 黒い体に赤い網目の筋。アブラナ科の花に春に出る。
ウシカメムシ - 両肩の突起をウシの角に見立てた。常緑広葉樹の森を好み人里で見かける機会は少ない。
エビイロカメムシ - 平らで黄褐色のやや大型のカメムシ。ススキに見られる。
ツノカメムシ科
前胸の両側が角状に出る。一部の種で雌が卵を保護。
エサキモンキツノカメムシ - 褐色のツノカメムシ。小楯板に黄色いハート形の斑紋がある。
セアカツノカメムシ - 雄の腹端にある一対の赤い突起は、交尾の際雌の腹端をしっかり挟むのに用いられる。針葉樹から広葉樹まで様々な植物の果実の汁を吸う。
クヌギカメムシ科
集団越冬に人家にはいることがある。卵塊がゼラチン質の栄養物質で覆われ、若齢幼虫がこれを摂取する。
ヘリカメムシ科
腹部の左右端が翅からはみ出す。大型種が多い。臭いも強烈。
ホオズキカメムシ - ナス科などにつく。幼虫は集団で生活。成虫はハーレムを雄が独占。
マツヘリカメムシ - マツの害虫。
キバラヘリカメムシ - マユミニシキギなどの実に集まり、裏側の黄白色との対照が目立つ。成虫で越冬する。
オオクモヘリカメムシ - 後述のクモヘリカメムシに似るが、大型。
ホソヘリカメムシ科
ホソヘリカメムシ - 大豆など豆類の害虫。幼虫がアリに似ている。
クモヘリカメムシ - の害虫。
ナガカメムシ科
種類数多し。体は細長い。植食性のもの、昆虫食のものが混在。
イトカメムシ科
糸屑のような体。雑草につく。
ヒラタカメムシ科
偏平で、枯れ木の樹皮の隙間などに。朽木の内部の菌類菌糸を摂食。口針が非常に長い。
サシガメ科
昆虫食、ごく一部にヤスデ食や脊椎動物吸血性。
ハナカメムシ科
ごく小型、昆虫食。
カスミカメムシ科
種類数多し。草食、肉食、菌食など非常に多様な生態。単眼がないのが特徴。2000年くらいまではメクラカメムシという名称を使用していたが、単に単眼を欠くだけで複眼はあり盲目ではないこと、名称が差別的ととられる恐れがあることなどを鑑み変更になった。モチツツジカスミカメエドクロツヤチビカスミカメなど。

  1. ^ 小項目事典,朝日新聞掲載「キーワード」,百科事典マイペディア,日本大百科全書(ニッポニカ), ブリタニカ国際大百科事典. “カメムシとは”. コトバンク. 2019年8月30日閲覧。
  2. ^ a b カメムシを半世紀以上研究する藤崎憲治京都大学名誉教授による数値で、うち100種以上が農業害虫である。出典:「カメムシ注意報 農作物に被害/大量発生、35都道府県に発令 温暖化で越冬可能に」『日本経済新聞』夕刊2022年9月22日社会面掲載の共同通信記事(同日閲覧)。
  3. ^ 臭い出ないカメムシ捕獲グッズは大ヒットの予感”. 産経ニュース (2021年11月20日). 2021年11月20日閲覧。
  4. ^ a b c d 安富和男 (1995). へんな虫はすごい虫. 講談社ブルーバックス. p. 122. ISBN 4-06-257073-4 
  5. ^ ☆昆虫~小さな化学者たち~(2)”. 有機化学美術館. 2019年3月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月28日閲覧。
  6. ^ フジテレビ トリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 9』講談社、2004年。 
  7. ^ a b c TBSラジオ編『もっと!科学の宝箱 もっと!人に話したくなる25の「すごい」豆知識』講談社、2014年
  8. ^ 草刈りは、やりすぎに注意 草刈り高が問題雑草の発生に及ぼす影響”. 静岡県農林技術研究所. 2019年6月27日閲覧。
  9. ^ 金子美登『有機・無農薬でできる野菜づくり大事典』成美堂出版、2012年4月1日、243頁。ISBN 978-4-415-30998-9 
  10. ^ 農林水産省・指定有害動植物(2018年8月23日閲覧)
  11. ^ a b 夏秋優『Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎』学研プラス、2013年、15頁。 
  12. ^ 野中健一『虫食む人々の暮らし』日本放送出版協会NHKブックス、2007年 ISBN 978-4140910917
  13. ^ 船内からカメムシ、日本の輸送船を入港拒否”. CNN (2018年2月22日). 2018年2月25日閲覧。


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