難航した組閣
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 14:48 UTC 版)
「三木内閣」も参照 正式に自民党総裁となった三木は、まず党役員を選出した。まず決定したのは中曽根の幹事長就任であった。中曽根は新総裁の下での幹事長就任を狙っており、早い段階で後継総裁候補から降りていた。5者会談で交わされた総裁派閥から幹事長を出さない約束もあり、中曽根幹事長がまず固まった。続いて三木は椎名副総裁の留任を要請した。これは椎名裁定で三木が指名された経過からしても続投は自然な成り行きであり、あっさりと決定した。難航したのが総務会長と政調会長であった。三木は田中派の西村英一を総務会長にしたいと考えたが、西村本人から固辞された。そこで福田派から推薦された松野頼三を総務会長、大平派から推薦された宮沢喜一を政調会長とすることで決まりかけた。しかし椎名が灘尾弘吉を党三役とすることを提案したため、灘尾が総務会長、松野が政調会長となり、宮沢は外相となった。 組閣ではまず福田の副総理兼経済企画庁長官が決定した。これは椎名裁定直後、三木は福田に対して「君との共同内閣のつもりであり、経済問題については一任したい」と語っていて、福田も三木の意向を受けていたことからすんなりと決まった。党内基盤が弱い三木にとって福田の協力は不可欠であり、まず福田の協力取り付けを図ったのである。農林大臣には安倍晋太郎を起用し、安倍の父安倍寛と三木は同志でこの起用は友情からとささやかれた。 三木は中曽根派の河野洋平を環境庁長官に、大蔵官僚出身の鳩山威一郎の入閣を希望していた。また宇都宮徳馬の入閣も検討していた。しかし河野の入閣には反対が強いため見送られ、参議院議員の鳩山の入閣は、参議院からの入閣予定者は参議院議員会長が推薦するという慣例に反し、やはり強い反発を受けたために見送られた。そして北朝鮮の金日成政権に近く韓国の朴正煕政権に対する批判を続けていた宇都宮徳馬の入閣は、親韓国派の椎名の強い反対で頓挫した。また椎名は椎名派の閣僚候補として三木が希望した元衆議院副議長の長谷川四郎ではなく松沢雄蔵の起用を求め、松沢は行政管理庁長官として入閣した。このように三木の組閣構想は多くの修正を余儀なくされた。 三木派からの閣僚でも三木の人事構想は変更を余儀なくされた。三木は三木派からの閣僚として、当初官房長官に海部俊樹、労働大臣に石田博英を入閣させる予定であった。また官房副長官には西岡武夫の起用を予定していた。しかし三木派古参議員である井出一太郎と河本敏夫が三木に入閣を直訴したため、結局井出が官房長官、河本が通産相、海部が官房副長官となり、西岡は組閣構想からはじき出されることになった。なお入閣予定が流れた河野洋平と西岡武夫は、2年後に新自由クラブを結成して自民党から離党し、初入閣するまで河野は11年、西岡は14年待つことになる。 三木は当初描いていた人事構想が後退を余儀なくされる中で、組閣で独自色を出すために民間人からの閣僚登用を検討した。三木は都留重人を文部大臣とすることを検討したが、都留が固辞したためやはり三木のブレーンの一人であった民間人の永井道雄が文部大臣となった。また入閣が決まった人物同士でもポストの入れ替えが起きた。当初の予定では坂田道太法務大臣、稲葉修防衛庁長官であったものが、稲葉の防衛庁長官就任に難色を示す声が上がったため、坂田と稲葉のポストが入れ替えとなった。これは後のロッキード事件の際、稲葉法相が事件糾明に積極的に動いたことを考えると大きな意味を持つ人事となった。 結局1974年(昭和49年)12月9日に発足した三木内閣は、中間派を含む派閥均衡、当選回数重視、参議院からの複数閣僚採用という、これまでの自民党内閣と基本的に変わらない人事となった。なお石井派、椎名派、水田派、船田派といった規模の小さな中間派も閣僚ポストを得て、当時の自民党全ての派閥から閣僚を取ることになったが、これは椎名副総裁による裁定で政権の座に就くことになった三木にとって、中間派を含めた各派の協力を仰がねばならず、また田中金脈問題で自民党に対する国民からの信任が大きく揺らぐ中で、挙党一致して総裁である三木を支える体制を作る必要があったためである。また岸内閣で藤山愛一郎が外相となって以来、永井道雄が文相となって17年ぶりに民間人が閣僚となったことも特徴の一つであった。 小派閥を率いながら自らの存在感を高めていくという三木の政治手法は、椎名裁定を自らの指名へと導き、政権獲得には繋がったものの、政権基盤の弱さは組閣の難航にも現れており、今後三木が政権運営に苦心していくことを示していた。
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