陰謀説・捏造説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 22:06 UTC 版)
「大韓航空機爆破事件」の記事における「陰謀説・捏造説」の解説
事件直後から、北朝鮮当局により「韓国情報機関による謀略」であるとの説がさかんに喧伝された。韓国人労働者の乗った飛行機を爆破して、北朝鮮にいったい何の得があるのかと考える人びとは、謀略説を支持した。 事件は北朝鮮工作員による犯行という韓国政府の発表に対し、左翼系諸団体などによる陰謀ないし捏造であるとする説が唱えられた。一部ではあったが、北朝鮮ないし朝鮮総連による当初の主張を受けて、日本社会党や日韓の一部マスコミなどが「本当に北朝鮮の工作員による犯行だったのか」として、「大統領選挙で与党候補を当選させるために韓国国家安全企画部(現・大韓民国国家情報院)が仕組んだ謀略ではないか」という「自作自演」であるとする陰謀論が主張されたことがある。 日本社会党は長年にわたり北朝鮮の指導政党である朝鮮労働党と友好関係にあったため(その上韓国政府を国家として公認していなかった)、北朝鮮当局の主張をそのまま受けて「北朝鮮は同事件に関与していない」として擁護していた。そのため、同党の井上一成国際局長が北朝鮮当局の事件への関与を認める発言を「問題発言」として撤回させる事態も発生した。一方で北朝鮮と対立関係にあった日本共産党は社会党の一連の北朝鮮擁護の姿勢に対し事件への北朝鮮の関与は明らかであるとして厳しく批判していた。そうしたなか、日本社会党の機関紙「社会新報」の1988年5月24日付けの紙面は「大韓航空機爆破事件は日米韓とバーレーンの関係国による国際的詐欺である」とすることを韓国の金貞烈前首相が認める「良心宣言」をしたとする報道をした。この記事については裏付け取材を全くしていない虚偽報道であったとして、記事の全面取消しと編集長の更迭がなされた。この報道のニュースソースは韓国政府から反国家団体認定を受けている「韓国民主回復統一促進国民会議」(韓民統)日本支部の機関紙「民族時報」1988年5月21日付けの紙面であったが、さらにソースを辿ると朝鮮中央通信が2月に配信した捏造によるプロパガンダニュースであり、朝日新聞が「韓国の前首相がこのような発言をする可能性はありえない」とするなど、日韓の報道機関も無視していた記事であった。この「社会新報」の記事をタイプしたものを、北朝鮮の記者が板門店で「こういう情報もある」と配っていたともいわれる。北朝鮮側は、事件に関与していない事を主張するため、虚偽の情報を発信していた。 なお、ジャーナリストを名乗る野田峯雄が1990年に発表した『破壊工作―大韓航空機爆破事件、葬られたスパイたちの肖像』では、野田は、バーレーンの病院で「担当医師」から「金勝一は瀕死の状態だったが、金賢姫には何の異常もみられなかった」との証言を得たとして、金賢姫は本当に北朝鮮の工作員なのかと疑問を呈した。2003年には、韓国の作家が事件は韓国の国家安全企画部(現・国家情報院)が仕組んだ謀略だとする小説『背後』を発表、韓国でベストセラーとなった。しかし、韓国の国家安全企画部が韓国人乗客を殺害して何のメリットがあるのかは不明であり、これは、大きな事件が起きたときに見られる特徴的な陰謀論だという。2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件が「アメリカ合衆国連邦政府の自作自演である」という主張に酷似しているといわれる。 2005年、韓国政府は捏造説の真偽を調査し「政治的に利用されたのは事実であるが、事件自体は真実である」という調査結果を公表している。2020年には、韓国文化放送が、大韓航空858便と推定される航空機の胴体がミャンマーの海底で発見されたと報道し、遺族らは胴体の引き揚げと真相究明を求め、韓国政府も調査に乗り出すことになった。 なお、北朝鮮国内では、李英和が平壌に留学していた1991年、李が知人から「あの娘はどうなったか。死刑になったか」と金賢姫の安否を聞かれたことがあったという。「死刑判決が下りたが、恩赦で釈放された」と李が答えると、彼は安心して「小さな頃から気立てが良くて、器量良しな娘だった。せっかくうまく任務をやり遂げたのに、捕まってかわいそうに」と語ったという。金賢姫を実際に知る人からすれば、謀略説はありえないということになる。
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