銅系緑色顔料
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/01 06:31 UTC 版)
岩緑青 Mountain Green 岩緑青・マウンテン グリーンはマラカイト (Malachite)、つまり天然の塩基性炭酸銅で、組成式は Cu2(CO3)(OH)2 で、世界中に産する孔雀石の粉末である。最も古くから知られた鮮明な緑色顔料であると考えられている。今日では使用頻度は高くないが、日本画ではいまだ重要な位置にある。岩緑青の古名は青丹(物理的に青色と丹色の物質を混合すると緑青色になるが、そういう意味ではない)。 ベルデグリ Verdigris ベルデグリは二塩基性酢酸銅である。酢酸臭を伴う緑青色の粉末である。中心製造地は、かつてフランス南部のモンペリエ周辺にあった。銅系顔料の内では反応性が高く、水に一部溶解し、酸には溶解する。加熱すると分解してCuO酸化銅が残る。硫黄を含む顔料と反応すると黒変する。アントワーヌ・ヴァトーは硫黄系顔料であるウルトラマリンと混合して用いたようであるが、色合いを鮮明なまま残しているというように、この理屈に反する事例も知られている。D.V.トンプソン[要曖昧さ回避]はイタリア初期風景画において愛用された顔料であるが黒変した事例が数多いとしている。ファンエイクグリーン (Van Eyck Green) と強い関係がある。場合によっては炭酸銅、銅、黄銅、青銅から出来る青若しくは緑の錆を指す。Colour Index Generic Name, Pigment Green 20。 ファンエイクグリーン Van Eyck Green 13世紀から14世紀末にかけて、装飾写本にしばしば見受けられる特徴的な緑がある。それは、油を含んでいるような外観を呈し、顕微鏡で観察しても銅塩の結晶は見えないが、銅を含んでいる。断面や脆弱性から、バインダーが樹脂質であると判断される。希塩酸には溶解する。これを研究したA.P.ローリーはこれをファン エイク グリーンと呼んだ。ファン エイクの作品の多くで使用されている。テオドール・ド・マイエルヌの文献がこれを記述した最古のものとして知られる。銅塩と純粋なバルサムとで絵具を作ると青緑色になるので、これより黄味の、暖かみのある緑は、ケルシトロンレーキ、サフラン、ガンボージ(英語版)などを添加することによって顕色したとの説をローリーは提出している。この色は、樹脂系バインダーの保護力が高いために保存状態の良いものが多い。 シェーレ緑 Sheele's Green シェーレ緑は酸性亜ヒ酸銅で、組成式は CuHAsO3 で、1778年、カール・ヴィルヘルム・シェーレが初めて合成した、合成緑色顔料の嚆矢である。品質はそれ程高くなかったので、これに続くエメラルド緑に直ちに取って代わられる。硫黄や硫化物、鉛に触れると黒変し、酸では分解する。黄緑色を呈するがすぐさま褪色現象が現れる。毒性は極めて高い。18世紀から19世紀初頭には絵画にも使用されたとされている。Colour Index Generic Name, Pigment Green 22。 エメラルド緑 Emerald Green エメラルド緑はアセト亜ヒ酸銅で、組成式は Cu(C2H3O2)3⋅Cu(AsO2)2 で、1814年にドイツのシュヴァインフルトで初めて合成された。かなり鮮明な緑色無機顔料で、亜鉛緑ともコバルトクロム緑とも全く異なる。硫黄を含む空気や物質で黒変する。酸や温アルカリで分解される。毒性が高いことから、パリグリーンと呼ばれ殺虫剤に使用された。油性の媒材 (Binder) で用いた場合の耐久性は高い。絵画における使用例は少なく、ド ヴェルトの報告では1例のみである。中国の古銅器の緑青のイミテーションとしての使用がある。Colour Index Generic Name, Pigment Green 21。
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