質量およびサイズ分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/14 02:33 UTC 版)
「エッジワース・カイパーベルト」の記事における「質量およびサイズ分布」の解説
広大な範囲に分布しているにも関わらず、カイパーベルトの総質量は比較的小さい。力学的に熱いグループの総質量は地球質量の 1% と推定されている。力学的に冷たいグループはずっと軽く、地球質量のわずか 0.03% に過ぎないと推定されている。力学的に熱いグループはより太陽に近い位置で形成されたずっと大きな天体群の名残であり、巨大惑星の移動の最中に外側に散乱されたものだと考えられている。対照的に、力学的に冷たいグループは現在の位置で形成されたと考えられる。2018年時点での推定値では、惑星の運動に及ぼす影響を基に、カイパーベルトの総質量は(1.97±0.30)×10−2地球質量とされている。 直径が 100 km を超えるカイパーベルト天体が集積するためにはかなりの質量が必要であるため、力学的に冷たいグループの総質量が小さいことは太陽系形成のモデルにいくつかの問題をもたらす。冷たい古典的なカイパーベルトが過去から現在まで常に現在のような低密度の分布であった場合、これらの大きな天体は小さい微惑星の衝突と合体では形成できなかったと考えられる。さらに、現在の軌道の離心率と傾斜角では天体同士の遭遇が「乱暴」(violent) なものとなり、結果として集積するよりも破壊が発生してしまう。海王星の現在の影響は力学的に冷たい集団の大部分を取り除くほど大きくはないと考えられ、また衝突破壊による質量損失の量は、現在発見されている緩く結びついた連星の存在によって上限が決められる。これは、緩く結びついた連星は天体衝突の際に破壊される可能性があるためである。大きな天体は、より小さい微惑星の衝突合体からではなく、ペブルの雲の崩壊によって直接形成される可能性もある。 カイパーベルト天体のサイズ分布は、いくつかの冪乗則に従う。冪乗則は、直径が D よりも大きい天体の個数 (累積個数) である N(D) と D の関係を記述し、これは天体の明るさの傾きとみなされる。天体の累積個数は、天体の直径 D の何乗かに反比例する。 d N d D ∝ D − q . {\displaystyle {\frac {dN}{dD}}\propto D^{-q}.} ここで q は 1 ではないと仮定すると、積分して N ∝ D 1 − q + const. {\displaystyle N\propto D^{1-q}+{\text{const.}}} が得られる。積分定数は、天体の直径が大きい時に冪乗則が適用できない場合にのみゼロでない数になる場合がある。 カイパーベルト天体の見かけの等級の分布の測定に基づいた初期の推定では、q = 4 ± 0.5 という値が得られていた。これは、直径が 200–300 km の範囲にある天体の個数と比べると、100–200 km の範囲にある天体の個数は8倍であることを意味する。 最近の研究では、力学的に熱い古典的カイパーベルト天体と冷たい古典的カイパーベルト天体の間では、サイズ分布の傾きが異なることが明らかになっている。力学的に熱い天体の場合、大きな天体では q = 5.3、小さい天体では q = 2.0 であり、傾きが変化する直径は 110 km である。力学的に冷たい天体の場合、大きな天体では q = 8.2、小さい天体では q = 2.9 であり、傾きが変化する直径は 140 km である。散乱円盤天体、冥王星族、海王星のトロヤ群天体のサイズ分布は力学的に熱いグループと同様の傾きを持つが、特定のサイズ以下で天体の個数が急激に減少するくぼみを持つという特徴がある。この分布のくぼみは、天体群での衝突進化によるものか、あるいは天体群がある特定のサイズ以下の天体を持たない状態で形成され、それよりも小さい天体はその後の衝突破壊によって発生した破片からなるため生じたものであるという仮説が提唱されている。 半径が1km未満の既知で最小のカイパーベルト天体は、ハッブル宇宙望遠鏡などの望遠鏡で直接見るには35等級と暗すぎるため、恒星が掩蔽される様子を観測することによってのみ検出されている。これらの掩蔽の最初の報告はシュリクティングなどによって2009年12月になされ、2007年3月からのアーカイブハッブル測光で半径1km未満の小さなカイパーベルト天体の発見が発表された。推定半径520±60 m、直径1040±120 mで、ハッブルの星追跡システムが0.3秒間星を短時間遮ったとき、天体が検出された。2012年12月に発表されたその後の研究では、シュリクティングなどが、アーカイブハッブル測光のより徹底的な分析を実行し、半径530±70 m、直径1060±140 mと推定される準キロメートルサイズのカイパーベルト天体による別の掩蔽イベントを報告した。 2009年と2012年に検出された掩蔽イベントから、シュリクティングなどが単一の冪乗則と均一な黄道緯度分布を仮定して、カイパーベルト天体のサイズ分布の傾きをq=3.6±0.2またはq=3.8±0.2と決定した。彼らの結果は、直径が90 kmを超えるより大きなカイパーベルト天体の母集団からの推定と比較して、サブキロメートルサイズのカイパーベルト天体の強い欠損を示唆している。 こうした偶然ハッブル宇宙望遠鏡が捉えていた現象の捜索ではなく、カイパーベルト天体による掩蔽を狙ってとらえる観測が京都大学の有松亘らを中心に行われており、2019年には1.3kmサイズのカイパーベルト天体の検出を発表した。彼らの観測で求められたカイパーベルト天体の個数密度は、こうした天体が木星族彗星の供給源になるために十分足りる値であった。
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