被告人・死刑囚HMの国賠訴訟
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「大阪・愛知・岐阜連続リンチ殺人事件」の記事における「被告人・死刑囚HMの国賠訴訟」の解説
被告人HMは控訴中の2003年、閲読後の雑誌3冊(ディズニーの雑誌)を収監先・名古屋拘置所から親族へ贈ろうとしたが拘置所側がこれを認められなかったため、拘置所側の行為を不服として弁護士会に人権救済の申し立てを行った。その際、HMはその雑誌を証拠物として提出しようとしたが、名古屋拘置所から「閲読後の雑誌は廃棄するのが原則で、既に廃棄済みである」と告知されたため「人権救済の申し立てを侵害された」と主張し、国などを相手に約30万円の損害賠償支払いを求めた民事訴訟(国賠訴訟)を起こした。上告中の2006年(平成18年)10月27日に名古屋地裁(松並重雄裁判官)は「被告(名古屋拘置所所長ら)は裁量権を逸脱し、原告 (HM) に精神的苦痛を与えた」として過失を一部認め、国に賠償金5,000円の支払いを命じた。 死刑囚HMは死刑確定後(2011年4月 - 2013年1月)、計17回にわたって弁護士・支援者との手紙のやり取りを試みたが、名古屋拘置所から不許可にされたためその措置を「違法である」と訴え、賠償金90万円を求める国賠訴訟を起こした。2016年(平成28年)2月16日に名古屋地裁(倉田慎也裁判長)は「不許可の判断は権限を持つ拘置所長ができるが、これを所長ではなく一般職員がした。また第三者機関から原告(死刑囚HM)への寄付に関する内容で必要性があった」などとして全17回のうち一部(4回)を違法と認定し、国に対し3万円の損害賠償を命じた。2017年3月9日付で控訴審・名古屋高裁(藤山雅行裁判長)は弁護士への年賀状など9件の不許可を新たに違法と認定し、一審判決から10万円増額して13万円の賠償を命じた。 死刑囚HMは2010年 - 2013年の計13回にわたり、死刑執行状況を描写したり、刑場の写真が掲載されたりした新聞・雑誌記事や書籍を読もうとしたが、拘置所はそれらの箇所を隠して閲覧させた。これに対し死刑囚HMは「拘置所長による処分は違法であり、それらによって精神的苦痛を被った」として、国に100万円の損害賠償を求め国賠訴訟[平成25年(ワ)第4608号]を起こした。名古屋地裁(倉田慎也裁判長)は2016年8月30日に「閲覧制限は必要な限度内と法律で定められており、仮に死刑囚が閲覧しても『逃走・自殺に及び、拘置所の規律や秩序が維持できなくなる虞があった』とは認められない」と指摘し、国に慰謝料65,000円の支払いを命じる判決を言い渡した。 また死刑囚HMは同訴訟[平成25年(ワ)第4608号]の証拠として提出するため、計2回(2013年11月14日・2014年4月15日)にわたり死刑の執行方法(絞首刑)が記された書籍計6冊のコピーを名古屋地裁に郵送するよう名古屋拘置所へ願い出たが、所長は「死刑囚HMはかつて所内で自殺未遂・居室内での器物損壊行為に及ぶなど精神的に不安定だった。死刑執行方法を記した内容を閲覧するとさらに精神的に不安定になって自傷行為(自殺など)・器物損壊行為に及ぶ可能性があり、それによって所内の規律・秩序の維持に放置できない程度の障害が生ずる虞がある」として、いずれも不許可処分にした。死刑囚HMが「裁量権の逸脱」を訴えて国に損害賠償20万円を求める国賠訴訟を起こしたところ、名古屋地裁(倉田慎也裁判長)は2016年1月19日に「書籍の閲覧制限が許されるのは、刑事施設内の規律・秩序の維持のため放置できない程度の障害が生ずる蓋然性が必要だが、今回は認められない。所長は裁量の判断を誤った過失がある」と指摘して国に10,000円の支払いを命じる判決を言い渡した。 HMはさらに2011年 - 2014年、弁護士宛てに訴訟の協力(助言・証拠収集など)を依頼する文書を送付しようとしたり、死刑執行の状況を記した書籍のコピーを閲覧しようとした。しかし名古屋拘置所がいずれも認めなかったことを不服として慰謝料70万円の国賠訴訟を起こし、名古屋地裁(朝日貴浩裁判長)は2017年(平成29年)1月14日に「それらの処分は刑事収容施設法に違反する。HMは権利侵害により精神的損害を被った」として国に慰謝料5万円の支払いを命じる判決を言い渡した。また名古屋拘置所は2011年 - 2014年にかけて死刑囚HMへの差し入れ(人権・宗教関連の冊子や衣類など)や、死刑囚HMが弁護士と行おうとしていた年賀状のやりとりを許可しなかったが、HMはその件についても国に80万円の損害賠償を求め国賠訴訟を起こした。名古屋地裁(村野裕二裁判長)は2017年11月16日に「(原告HMの)知る権利や信仰の自由、交友関係を維持する利益を侵害した。不許可処分は拘置所の裁量権の範囲を逸脱したものだ」と認め、国に9万円の賠償を命じた。
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