神智学と〈神智学〉
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 09:16 UTC 版)
神智学は、聖典や啓示の解釈を通じて神や世界の秘密を探ろうとする知的・精神的営為、存在と自然の神秘に関する秘教哲学の体系、あるいはその神秘についての直接的な知を得ることを目指す探求を指す。本来的な意味での神智学は特に「神の本性」を知ることに重きを置くものを指しており、これに対して、「世界や自然」の秘密を知ろうとする傾向の神智学思想は汎智学(独: Pansophie パンゾフィー)とも呼ばれる。神智学は秘教の広範な領域の一部であり、個の照明と救済をもたらす隠された知識や智慧に関連すると考えられている。神智家は宇宙の神秘を、そして宇宙と人間と神との結びつきを理解しようとする。神智学が目指すのは「神と人間と世界の起源」を探ることであり、それらを吟味することによって、神智家は宇宙の目的と起源についての首尾一貫した説明を見出そうとする。広義には新プラトン主義、グノーシス派、カバラ、ヨアキム主義も神智学に含まれる。宗教改革以後では、新プラトン主義の系譜をひく自然神秘主義的な思想を展開し、医療錬金術を探求したパラケルスス、神秘体験から独自の神学を唱えたヤーコプ・ベーメらの著作も神智学の系列に属する。とりわけ17世紀初頭のヤーコプ・ベーメの諸著作は以後のキリスト教神智学の大きな水源となり、神智学が隆盛した18世紀から19世紀初めには、エマヌエル・スヴェーデンボリ、マルティネス・ド・パスカリ(フランス語版)など多くの神智学的思想家が登場した。 〈神智学〉は、19世紀にブラヴァツキー夫人ことヘレナ・P・ブラヴァツキーが唱導した心霊主義、なかでも彼女とヘンリー・スティール・オルコットが創設した神智学協会(Theosophical Society、1875年創設)に端を発する、古代の忘れられた「叡智」の再発見と「普遍宗教」の確立を目指す運動とその教義を指す。現代において神智学と言えば、神智学協会の教義を指すことが多い。ブラヴァツキーはヤーコプ・ベーメにも言及しているが、初期のブラヴァツキー〈神智学〉は古代の新プラトン主義に範を取っており、従来のキリスト教神智学にはあまり目を向けなかった。黄金の夜明け団の研究家R・A・ギルバートは、ヤーコプ・ベーメに代表される神智学と、神智学協会が広めた〈神智学〉は、全く関係ないと明言している。〈神智学〉の基礎となる主要著作のひとつは、1888年に出版されたブラヴァツキーの大作『シークレット・ドクトリン』である。西洋と東洋の智の融合を目指す〈神智学〉は、のちのアメリカのニューエイジ運動、大衆的オカルティズムの起源となった。〈神智学〉は、当時は「世界をおおうバニヤン樹」といえるほどの広範な影響力を有し、現代にも影に陽にその大きな影響は続いている。神智学協会の諸団体は世界の52以上の国でなおも活動している。 英語では一般的な意味での神智学的思想家は theosopher (神智家)といい、神智学協会の追従者を指す Theosophist (神智学徒、神智学者)とは区別される。伝統主義学派(英語版)の旗手ルネ・ゲノンは、『神智主義 - ある似非宗教の歴史』(1921年)を著して神智学協会を批判し、同協会の教義を「神智主義」(仏: théosophisme テオゾフィスム)と呼んで伝統的な神智学と区別した。
※この「神智学と〈神智学〉」の解説は、「神智学」の解説の一部です。
「神智学と〈神智学〉」を含む「神智学」の記事については、「神智学」の概要を参照ください。
- 神智学と〈神智学〉のページへのリンク