皮と革の意味の違いと使い分け
漢字の「皮」と「革」の意味上の違いは、基本的に「なめし加工されているかどうか」という点に尽きます。動物の未加工の皮膚は「皮」であり、その皮を製品として使用するために「なめし」加工を施したものが「革」です。
生物の表皮としての肌膚は「皮」に該当します。体から剥がされた後でも、なめし加工されていない「生もの」は「皮」に該当します。加工は加工でも「なめし」以外の処理が行われている場合は「皮」の字の方が多く用いられます。たとえば「毛皮(けがわ)」は、たいてい「皮」の字で表記されます。「毛革」という表記が不適切というわけではないのですが、めったに用いられません。
ちなみに、「なめし(鞣し)」とは、大ざっぱに言えば、タンニンやクロム酸塩などの「なめし剤」の成分を浸透させる処理のことです。なめし処理によって生物由来の生皮の防腐性、耐久性、柔軟性(加工しやすさ)が向上します。
英語では「皮」はスキン(skin)またはハイド(hide)に対応し、そして「革」はレザー(leather)と対応づけられます。ハイドとはレザーに加工される前の「獣皮」のことです。
日本語の訓読みでは「皮」も「革」も「かわ」と読みます。「革」は「なめしがわ」と読む場合もあります。音読みでは「ヒ(皮)」「カク(革)」と読み分けられます。皮と革を併置した「皮革(ヒカク)」という語彙もあります。皮革は「皮と革の総称」とも解釈できますが、実際のところ「皮革」はもっぱら革製品などを指す言葉です。「皮」の意味で「皮革」の語を用いることは基本的にはありません。
なめし革を模して人工的に製造された(天然由来でない)皮革を「合皮」といいます。これは「合革」とは表記しません。素朴に考えると、合皮の「皮」の字に「皮膚」の意味を見出すことになりそうですが、ここは「合皮」という言葉が「合成皮革」の略であると捉えるべきでしょう。ちなみに、「合皮」の対義語としては「本革(ほんがわ)」が挙げられます。
漢字の「皮」と「革」は、どちらも常用漢字です。そのため、たとえば(新聞や官公庁などが)「革」の字の代用として「皮」と表記する、というような使い方は、特にされません。「皮」と「革」の字は、そこそこ厳密に、意味の違いに応じて使い分けられています。たとえば「面の皮」は「面の革」とは表記されず、もっぱら「面の皮」と表記されます。「革ジャン」を「皮ジャン」と表記したりするような例も、めったにありませんし、もし事例があっても恐らくは不本意な誤字でしょう。
財布やバッグの素材として「動物の種類」と共に述べる場合、つまり「ワニがわ」とか「ヘビがわ」といった表現の場合は、「皮」と「革」のどちらが適切か、一概には言い切れません。たとえば、未加工の素材である生物の皮を念頭に置くとすれば「ワニ皮」の表記もあながち不適切とは言い切れません。実際、国語辞書・三省堂大辞林には「鰐皮」および「蛇皮」の表記は収載されているものの、「鰐革」「蛇革」という表記は見出せません。とはいえ、「牛皮」という表記は「牛革」よりもむしろ「求肥」の異表記として理解されることが多く、「蛇皮」も脱皮殻(へびのぬけがら)と混同されかねない、といった細かい語弊の懸念が残ります。革製品に関する文脈では「皮」より「革」を使った方が無難でしょう。
革製品の素材となる皮革(あるいは獣皮)は、動物の種類によって特徴や希少性に違いがあり、用途や好みに応じて使い分けられます。主立った種類としては、牛、馬、豚、鹿、羊、山羊、水牛、ダチョウ、カンガルー、サメ、エイ、ワニ、ヘビ、などが挙げられます。ゾウやサイやイノシシなども皮革として利用されることがあります。牛や羊などの皮は、幼獣と成獣では皮革の性質に違いが出てくるため、年齢に応じた細かい区分があります。
なお、ミンク、チンチラ、キツネといったモフモフ系の獣皮は「毛皮」の素材として珍重されますが、これを「皮革」として扱う事例は基本的に稀です。毛皮と皮革は別個のカテゴリーと捉える見方が一般的です。
獣皮の呼び名は基本的には「革」の字をつけて「牛革」や「ダチョウ革」「トカゲ革」のように呼べば適切な表現として通用します。しかしながら世間的には「カウレザー」「クロコダイルレザー」「カンガルーレザー」という風に、洋語に基づくカタカナ語が用いられる場合も多々あります。カタカナ語の場合は「レザー(革)」を付ければ万端というわけにもいかず、「ピッグスキン(豚革)」「ゴートスキン(山羊革)」のように「スキン(皮)」の語が付く場合があったり、「オーストリッチ(ダチョウ)」「スティングレイ(エイ)」のように生物名だけで通る場合があったりします。
カタカナ表記で「皮革の種類」を指す語としては、「ヌバック」「ベロア」「ヌメ革」あるいは「エナメル」のような語彙もありますが、これらは「皮革の加工法」を示す語です。「スムースレザー」などは「表面がつるっとした革」の総称であり、生物種や加工法を限定する語ではありません(ある程度は限られますが)。
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