田川建三とは? わかりやすく解説

田川建三

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/10 14:14 UTC 版)

田川 建三
人物情報
生誕 1935年????
日本東京都
出身校 東京大学ストラスブール大学
学問
研究分野 神学
研究機関 国際基督教大学ゲッティンゲン大学ザイール国立大学大阪女子大学
学位 宗教学博士
テンプレートを表示

田川 建三(たがわ けんぞう、1935年 - )は、日本の新約聖書学者・著述家大阪女子大学名誉教授。宗教批判を通じて現代批判を試みた著作でも知られる。「神を信じないクリスチャン」[1]を名乗る。

経歴

1935年東京生まれ。聖学院高校を経て、東京大学宗教学宗教史学科で学んだ。1958年に卒業し、同大学大学院西洋古典学科に進学。博士課程3年目の夏にストラスブール大学に留学。エチエンヌ・トロクメ英語版 教授に師事し、1965年宗教学博士の学位を取得した。

1965年国際基督教大学の助手に採用された。1970年に講師昇格。しかし1970年4月にチャペル礼拝のとき講壇から「神は存在しない」「存在しない神に祈る」と説教したため[1]、「造反教官」として追放された。

1972年から1974年まで、ゲッティンゲン大学神学部専任講師。1974年から1976年までザイール国立大学神学部教授。1977年からはストラスブール大学で客員教授を務めたが、帰国して大阪女子大学教授となった。大学では、西洋思想史、女性学を講じた。1999年、大阪女子大学を退任。その後は執筆活動を行いながら、兵庫県西宮市などで私塾を主催する。

受賞・栄典

研究内容・業績

文献批判に立脚した新約聖書学の伝統の上で、キリスト教批判や宗教批判、そして現代社会批判を展開したことで知られる。代表作に『新約聖書 訳と註』(全7巻8冊)、『書物としての新約聖書』、『イエスという男:逆説的反抗者の生と死』など。吉本隆明の著作を批判的に解き明かした『思想の危険について:吉本隆明のたどった軌跡』などの著作もある。

2018年の時点で新約聖書概論(仮題『事実としての新約聖書』)、『リーメンシュナイダーもしくは自治自由の都市の形成』、『マルコ福音書注解』中巻を執筆する予定としている。『新約聖書 訳と註』を書いたのは新約聖書概論で聖書の引用をする上で可能な限り正確な翻訳が先に存在していなければならず、新約聖書全体の訳とその詳細な註解がなければならないと考えたからである[3]

思想

田川はルドルフ・ブルトマンが4福音書の矛盾を指摘したとして高く評価する。神を信じるとは、神を想像する偶像崇拝であり、「神とは人間がでっちあげた」ものなので、「神を信じないクリスチャン」こそが真のクリスチャンであり、自分は「神を信じないクリスチャン」であるとする。聖書ギリシャ語は教会解釈に逃げているのであり、「私はある意味で聖書を破壊した」という。またイエスという男はほとんど神について語っていないと考えている。聖書学の研究が進んだ19世紀後半から20世紀前半にはルターの伝統に従って正確なイエスという男の姿を追求していたが、後半からは保守反動が来ているとする[1]

著作

訳書
原著:William Tyndale: A Biography, David Daniell, Yale University Press, 1994.
著書
  • Miracles et Evangile, la Pensée personelle de l'évangéliste Marc, Paris, Presses Universitaires de France, 1966.
  • 『原始キリスト教史の一断面:福音書文学の成立』勁草書房 1968[5]
    • 新装版 勁草書房 2006年[6]
  • 『批判的主体の形成 キリスト教批判の現代的課題』三一書房 1971[7]
  • 『思想的行動への接近 イエスと現代』呉指の会 1972
  • マルコ福音書』上巻(『現代新約注解全書』) 新教出版社 1972
    • 増補改訂 新教出版社 1997年[8]
  • 『立ちつくす思想 田川建三評論集』勁草書房 1972[9]
    • 新装版 勁草書房 2006年[10]
  • 『歴史的類比の思想 田川建三評論集』勁草書房 1976[11]
    • 新装版 勁草書房 2006年[12]
    • Keiso c books[13]
  • 『思想的行動への接近 イエスと現代』河田稔共著 1979
  • 『イエスという男 逆説的反抗者の生と死』三一書房 1980[14]
  • 『宗教とは何か』大和書房 1984[16]
    • 増補改訂[17]『宗教批判をめぐる 宗教とは何か』上 洋泉社 2006年[18]
    • 増補改訂[19]『マタイ福音書によせて 宗教とは何か』下 洋泉社 2006年[20]
  • 『思想の危険について 吉本隆明のたどった軌跡』インパクト出版会 1987[21]
    • 新装版 2004年[22]
  • 『書物としての新約聖書』勁草書房 1997[23]
  • 『キリスト教思想への招待』勁草書房 2004[24]
  • 『新約聖書訳と註』(7巻) 作品社
  1. 第1巻『マルコ福音書マタイ福音書』2008[25]
  2. 第2巻上『ルカ福音書』2011[26]
  3. 第2巻下『使徒行伝』2011[27]
  4. 第3巻『パウロ書簡 その1』2007[28]
  5. 第4巻『パウロ書簡 その2/疑似パウロ書簡[29]
  6. 第5巻『ヨハネ福音書』2013[30]
  7. 第6巻『公同書簡 / ヘブライ書』2015[31]
  8. 第7巻『ヨハネの黙示録』2017[32]
編集
  • 『日本の名随筆』別巻100, 作品社 1999[33]
各巻タイトル: 聖書/解説(田川建三): pp.210-236.

関連文献

脚注

  1. ^ a b c 『考える人』特集「はじめて読む聖書」 【ロングインタビュー】田川建三「神を信じないクリスチャン」聞き手・湯川豊2010年春号 新潮社
  2. ^ 第71回毎日出版文化賞 受賞作決まる(毎日新聞)
  3. ^ 田川, 建三 (2008). 新約聖書 訳と註 1 マルコ福音書/マタイ福音書. 新約聖書 訳と註. 作品社. ISBN 978-4861821356 
  4. ^ ISBN 4326101326
  5. ^ ISBN 4326100370
  6. ^ ISBN 978-4326101641
  7. ^ ISBN 4380712001
  8. ^ ISBN 4400111520
  9. ^ ISBN 4326980141
  10. ^ ISBN 978-4326153879
  11. ^ ISBN 4326150750
  12. ^ ISBN 978-4326153886
  13. ^ ISBN 4326980095
  14. ^ ISBN 4380802116
  15. ^ ISBN 4878936819
  16. ^ ISBN 4479800182, ISBN 4479730206
  17. ^ 1984年刊『宗教とは何か』を大幅に増補改訂し、上下別タイトルに分冊。
  18. ^ ISBN 4862480292
  19. ^ 1984年刊『宗教とは何か』を大幅に増補改訂し、上下別タイトルに分冊。
  20. ^ ISBN 4862480454
  21. ^ ISBN 4755400074
  22. ^ ISBN 4-7554-0145-3
  23. ^ ISBN 432610113X
  24. ^ ISBN 432615375X
  25. ^ ISBN 978-4861821356
  26. ^ ISBN 978-4861821370
  27. ^ ISBN 978-4-86182-138-7
  28. ^ ISBN 978-4861821349
  29. ^ ISBN 978-4861821363
  30. ^ ISBN 978-4-86182-139-4
  31. ^ ISBN 978-4-86182-155-4
  32. ^ ISBN 978-4-86182-419-7
  33. ^ ISBN 4878936800
  34. ^ ISBN 4380812030

関連項目

外部リンク


田川建三

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/07 00:45 UTC 版)

ナザレのイエス」の記事における「田川建三」の解説

ブルトマン批判的なフランス聖書学界のなかでは最もブルトマンに近いエティエンヌ・トロクメに師事した田川建三は、日本に帰国後牧師にして日本共産党入党宣言をした赤岩栄出会い大学闘争経験し、「造反教員」として国際基督教大学から追放されている。その後、彼は「神を信じないクリスチャン」を自称するようになり、このような特異な経験と彼独自の新約聖書学、およびそのマルクス研究によって、既存キリスト教なかんずくパウロ思想のなかに「現実観念逆転」を指摘しキリスト信仰そのもの止揚うったえた田川は、イエス生きた時代史と神観、律法観、終末観等の各論とのあいだに相互関係をほとんど示さない神学批判してイエス言葉神学的ないし実存論的な解釈では、イエス正しく歴史のなかに位置づけることはできない説きまた、ペトロ中心にエルサレムの地に形成されつつつあった原始キリスト教団の主流対し辺境ガリラヤ生きる民衆立場から批判加え作業として「福音書」を編んだとしてマルコ高く評価しイエス言葉伝承を、奇跡物語伝承仲立ちとしてイエス古代の歴史文脈のなかへ取り戻すことによって、「逆説的反抗者」として生きたイエスという男の「生と死再現」を試みたのである

※この「田川建三」の解説は、「ナザレのイエス」の解説の一部です。
「田川建三」を含む「ナザレのイエス」の記事については、「ナザレのイエス」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「田川建三」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「田川建三」の関連用語

田川建三のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



田川建三のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの田川建三 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのナザレのイエス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS