荒井献とは? わかりやすく解説

荒井献

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/24 18:45 UTC 版)

荒井 献
あらい ささぐ
日本学士院より公開された肖像写真
人物情報
生誕 (1930-05-06) 1930年5月6日
日本秋田県大仙市
死没 (2024-08-16) 2024年8月16日(94歳没)
日本東京都
出身校 東京大学
学問
研究分野 聖書学(新約聖書グノーシス主義)
研究機関 東京大学
学位 神学博士
学会 日本学士院
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荒井 献(あらい ささぐ、1930年5月6日 - 2024年8月16日)は、日本新約聖書学者・グノーシス主義研究者。学位は、神学博士ドイツエアランゲン=ニュルンベルク大学[1]東京大学名誉教授、恵泉女学園大学名誉教授。日本学士院会員。

経歴

出生から修学期

1930年昭和5年)、秋田県大曲市(現大仙市)で生まれた。秋田県立秋田高等学校より東京大学へ進み、1954年東京大学教養学部を卒業。東京大学大学院人文科学研究科に進み、西洋古典学を専攻した。1959年に博士課程を単位取得満期退学。その後はドイツフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクに留学し、『ナグ・ハマディ写本』中の『真理の福音』のキリスト論に関する学位論文を提出して神学博士の学位を得た。

研究者として

1958年、青山学院大学文学部助手となった。その後、専任講師、助教授に昇格。しかし、大木金次郎院長兼理事長と対立し、1969年に辞職した[2][3]。ただし、同大学では1972年まで非常勤講師を務めた。

1969年、東京大学教養学部助教授に転じた。1977年に教授昇格。1991年3月に東京大学を定年退官し、4月より茨城キリスト教大学文学部教授となった。1992年から2001年まで恵泉女学園大学学長を務めた。2001年、日本学士院会員となった[4][5]。これは帝国学士院時代の二木謙三を別とすれば、秋田県出身者では初であった。また、「九条科学者の会」呼びかけ人を務めていた[6]

2024年8月16日、老衰のため東京都で死去。94歳没[7][8]

受賞・栄典

研究内容・業績

新約聖書学とグノーシス主義研究において精力的な研究を発表した。代表的著作として、「史的イエス」の問題を取り上げ、人間イエスの原像を時代史のなかに位置づけた『イエスとその時代』や、1945年エジプトで発見された福音書トマスによる福音書)について述べた『トマスによる福音書』などがある。

  • キリスト教における女性観や女性の生き方に関する著作でも知られ、日本を代表する聖書学者の一人である。
指導学生

多くの後進を育て、門下生には下記がいる[9]

著作

単著

  • 『原始キリスト教とグノーシス主義』岩波書店 1971
  • 『初期キリスト教史の諸問題 現代への視角』新教出版社(今日のキリスト教双書) 1973
  • 『イエスとその時代』岩波新書 1974
  • 『人類の知的遺産 イエス・キリスト』講談社 1979
  • 『隠されたイエス トマスによる福音書』講談社(福音書のイエス・キリスト) 1984
  • 『「同伴者」イエス 小論・講演集』新地書房 1985
  • 『新約聖書とグノーシス主義』岩波書店 1986
  • 『新約聖書の女性観』岩波セミナーブックス 1988
  • 『NHKこころをよむ イエス・キリストを語る〈上〉1992年10月~3月』日本放送出版協会 1992
  • 『NHKこころをよむ イエス・キリストを語る〈下〉1993年4月~9月』日本放送出版協会 1993
  • 『問いかけるイエス 福音書をどう読み解くか』日本放送出版協会 1994
  • 『聖書のなかの差別と共生』岩波書店 1999
  • 使徒行伝』(全3巻) 現代新約注解全書 新教出版社 1977
    • 改訂版 2016年
  • 『人が神にならないために 説教集』コイノニア社 2003
    • 再版 新教出版社 2016年
  • 『イエスと出会う』岩波書店 2005
  • 『「強さ」の時代に抗して』岩波書店 2005
  • 『ユダのいる風景』岩波書店(双書時代のカルテ) 2007
  • 『ユダとは誰か 原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ』岩波書店 2007
    • 文庫化 講談社学術文庫 2015年
  • 『イエス・キリストの言葉 福音書のメッセージを読み解く』岩波現代文庫 2009[10]
  • 『初期キリスト教の霊性:宣教・異端・女性観』岩波書店 2009
  • 『キリスト教の再定義のために』新教出版社 2018

著作集

  • 『荒井献著作集』(全10巻+別巻)岩波書店 2001-2002[11]
  1. 第1巻 イエス、その言葉と業
  2. 第2巻 イエス・キリストと現代 
  3. 第3巻 パウロマルコルカ
  4. 第4巻 原始キリスト教
  5. 第5巻 初期キリスト教史
  6. 第6巻 グノーシス主義
  7. 第7巻 トマス福音書
  8. 第8巻 聖書のなかの女性たち
  9. 第9巻 同時代へ 
  10. 第10巻 聖書を生きる 
  11. 別巻 訳註 使徒行伝 ナグ・ハマディ文書

監修

  • 『ギリシア語新約聖書 釈義事典』(全3巻) H.J.マルクス共監修、教文館 1993-1994
    • 新版 2015年
  • 『女性の視点によるキリスト教神学事典』エリザベート・ゴスマン,ヘルリンデ・ピサレク=フーデリスト, ルイーゼ・ショットロフ, エリーザベト・モルトマン‐ヴェンデル, イーナ・プレトリウス,ヘレン・シュンゲルン‐シュトラウマン編、岡野治子共監修、日本基督教団出版局 1998
  • 『聖書百科全書』ジョン・ボウカー編著、池田裕・井谷嘉男共監訳、三省堂 2000
  • 『原始・古代四福音書対観表 ギリシア語-日本語版』クルト・アーラントギリシア語版監修、川島貞雄と日本語版監修、日本基督教団出版局 2000
  • 『総説キリスト教史』(全3巻) 出村彰と共監修、出村みや子・出村彰共著、日本キリスト教団出版局 2006∸2007
  1. 1巻『原始・古代・中世篇』
  2. 2巻『宗教改革篇』
  3. 3巻『近・現代篇』

共著

翻訳

  • 『原始教会の伝承 釈義的・歴史的・神学的問題』オスカー・クルマン著、新教出版社(聖書学叢書) 1958
  • 『危機に生きる信仰』カール・マイケルソン著、野呂芳男共訳、新教出版社 1959
  • 『永遠の平和』(カール・ヒルティ著作集 11) カール・ヒルティ著、秀村欣二共訳、白水社 1959
    • 新版 1979年
  • 『ペテロ 弟子・使徒・殉教者オスカー・クルマン著、新教出版社 1965
  • 『教会史概説』カール・ホイシドイツ語版著、加賀美久夫共訳m新教出版社 1966
  • 『旧約外典偽典概説 付・クムラン写本概説』レオンハルト・ロストドイツ語版著、土岐健治共訳、教文館 1972
  • 『聖書の世界 別巻 新約聖書外典』八木誠一・田川建三・大貫隆小河陽青野太潮・藤村和義・佐竹明共訳、講談社 1974
  • ヘルメス文書』柴田有共訳、朝日出版社 1980
  • 『イエス運動の社会学 原始キリスト教成立史によせて』ゲルト・タイセンドイツ語版著、渡辺康麿共訳、ヨルダン社 1981
  • 『ナグ・ハマディ写本:初期キリスト教の正統と異端』エレーヌ・ペイゲルス英語版著、湯本和子共訳 白水社 1982
  • 『批判的信仰の論拠 宗教批判に耐え得るものは何か』ゲルト・タイセン著、渡辺康麿共訳 岩波書店(岩波現代選書) 1983
  • 『新約聖書 2 ルカ文書 ルカによる福音書・使徒行伝』佐藤研共訳、岩波書店 1995
  • ナグ・ハマディ文書』(全4巻) 大貫隆・小林稔・筒井賢治共訳、岩波書店 1997
    • 改題文庫化『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』岩波文庫 2022
  • 使徒教父文書』八木誠一・田川建三・小河陽・佐竹明共訳、講談社文芸文庫 1998
  • 『グノーシスの変容 ナグ・ハマディ文書・チャコス文書』大貫隆共編訳 岩波書店 2010

脚注

  1. ^ https://edurank.org/uni/university-of-erlangen-nuremberg/alumni/ 100 Notable alumni of University of Erlangen Nuremberg Updated, February 29,2024 EduRank
  2. ^ 青学神学科同窓会基督教学会閉会へ 2年後の論集60号の発行をもって 2015年6月13日 - キリスト新聞社ホームページ 2023年8月8日閲覧。
  3. ^ 青学神学科訴訟を支援する会編『青学神学科訴訟 建学の精神とキリスト教』新教出版社、1979年、106頁。
  4. ^ a b c 会員情報 - 荒井献”. www.japan-acad.go.jp. 日本学士院. 2023年9月19日閲覧。
  5. ^ 日本学士院(物故会員)
  6. ^ 「九条科学者の会」呼びかけ人メッセージ (2005.3.13)
  7. ^ 荒井献さん死去 94歳、聖書研究の権威:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年8月21日). 2024年8月21日閲覧。
  8. ^ 林巌雄 (2024年8月16日). “荒井献先生が、本日午前0時過ぎに、天に召されました。……”. www.facebook.com. 2024年8月18日閲覧。
  9. ^ 日本クリスチャン・アカデミー関東活動センター編『次世代への提言! 神学生交流プログラム講演記録集 神学生交流プログラム講演記録集』新教出版社 2020, 24頁
  10. ^ 前出の『問いかけるイエス』(NHK出版)を収録した『荒井献著作集』第2巻第2部の一部を削除し注を加えて文庫化したもの。
  11. ^ 叡智の光 SPECIAL NEWS

外部リンク

関連項目


荒井献

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/07 00:45 UTC 版)

ナザレのイエス」の記事における「荒井献」の解説

シュタウファーに師事した日本における新グノーシス主義研究者である荒井献は、イエス自身決して「最下層庶民」に属していないと主張しながら、彼の思想と行動は、徹頭徹尾この「庶民」との連帯をめざすものであったとし、イエス革命家把握しようとする歴史家たち、および、それに対してイエスもっぱら精神変革者と把握する聖書学者たちは、いずれも政治宗教とを互いに異なった領域として分離する近代的思考枠組みから自由ではないと批判して、「庶民」に視座設定することによって「史的イエス」実像接近しようとした、としている。すなわち荒井は(彼自身歴史学者ではないが)、史料批判によってイエス伝承の古層にせまり、その伝承の担い手であったことが確実な庶民層視点を置くことで、イエス振る舞い西洋古代史歴史的文脈のなかでとらえ、位置づけようと試みた、と主張するその結果イエス受難伝承最古においては、のちに、イエスを「神の子」としてとらえる機縁となった復活信仰」は未だ明瞭なかたちでは立ち現れていなかったと論述した

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