生死不明
『あしたのジョー』(高森朝雄/ちばてつや) 矢吹丈は、バンタム級世界チャンピオンのホセ・メンドーサと15ラウンドを闘い、ホセに大きなダメージを与えるが、惜しくも判定負けとなる。丈は真っ白に燃え尽き、コーナーの椅子に座って静かに眼を閉じる〔*ちばてつやは、「丈があの場面で死んでしまったかどうかは読者が解釈してくれればよい」と述べている〕。
『暗夜行路』(志賀直哉) 時任謙作は重症の大腸加多児(カタル)にかかり、高熱を発して大山(だいせん)山麓の寺に臥す。京都から駆けつけた妻・直子は「この人はこのまま助からないのではないか」と思う。そして「助かるにしろ、助からぬにしろ、自分は何処までもこの人について行くのだ」と思い続ける→〔山〕1b。
『大菩薩峠』(中里介山)第38巻「農奴の巻」~第41巻「椰子林の巻」 机龍之助とお雪ちゃんは琵琶湖上に舟を浮かべ、心中をはかるが2人とも蘇生する。しかし、その後京都周辺をさまよう龍之助は、田中親兵衛から「君も僕も、いい死にようはできなかった」と言われ、また、捕方の源松に「あなた様は幽霊のように姿があって影がない」と言われる。宇津木兵馬は長浜で、龍之助の卒塔婆を見る。龍之助は大原で、自分の肉を煮て食う老婆(*→〔人肉食〕7)に出会う。龍之助は生身の人間なのか、すでに遊魂となって現世と霊界を往還しているのか判然とせぬまま、物語は途切れる。
★2.重病で死を目前にした主人公が、あるいは持ち直すかもしれない、というところで物語が終わる。
『君の名は』(菊田一夫) 氏家真知子は再会を誓い合った後宮春樹と巡り会うことができず、浜口勝則との結婚を決める。しかし彼女の結婚生活は、幸福なものではなかった。真知子は流産し、春樹との不倫を疑われ、姑にいじめられる。ようやく離婚するものの、心身の疲労から真知子は病に倒れ、危篤に陥る。その時欧州にいた春樹が急を聞いて病床に駆けつけ、真知子が生きる気力を取り戻そうとするところで、物語は終わる。
★3.物語の最後で生死不明だった主人公が、その続編で、健在であることが示される。
『ハレンチ学園』(永井豪)第1部「ああハレンチ学園の巻」~第2部「運命のめぐりあいの巻」 大日本教育センターの大軍がハレンチ学園を攻撃し、学園の先生・生徒たちが次々に戦死する。山岸と十兵衛は死を覚悟して敵陣に突撃する。ヒゲゴジラは重傷を負い、血を流しつつ「死なないわ」とうめいて這う。こうしてハレンチ学園は地上から消滅する〔*しかし山岸も十兵衛もヒゲゴジラも奇跡的に生き残り、3年後に再会する〕。
『氷点』『続氷点』(三浦綾子) 17歳の辻口陽子は、自分がもらい子であることは知っていたが、実は辻口家の娘を殺した犯人の子だ、と聞かされて睡眠薬自殺をはかる。手当てをしても陽子は昏睡から覚めず、父辻口啓造は「今夜が峠か」と思いつつも、「助かるかもしれない」と希望をつなぐ〔*命をとりとめた陽子は、殺人犯の子ではなく、母の不義の子であることを知り、そのことでまた悩む〕。
★4.今の自分が、生きているのか死んでいるのか、判断できない。
『ある会話についての会話』(ボルヘス) 「わたし」は作家のマセドニオ・フェルナンデスと、不死について熱心に議論し、夜になっても灯をつけることを忘れていた。近所から、耳障りな「ラ・クンパルシータ」が聞こえていた。「わたし」はマセドニオに「いっそ自殺でもするか。議論に邪魔が入らなくていい」と持ちかけた。しかし、あの晩、実際に自殺したのかどうか、「わたし」は覚えていないのだ。
『部屋』(星新一『つねならぬ話』) ある小屋の部屋の中で、2人の囚人が語り合う。「ここに入れられて何年になるかな」「かなりになるな。忘れるぐらい古いことさ」「たまに思うんだが、もしかしたら、おれたちの死刑、ずっと前にすんでしまっているんじゃないかな」「そうかもしれない。誰かがのぞいても、おれたちを見ることはないのかも」「あるいは、この小屋そのものもね」。
*死者が、自分の死に気づかない→〔死〕1の『聊斎志異』巻1-31「葉生」。
*生者が、「自分は死んでいるかもしれない」と思う→〔死〕3の『粗忽長屋』(落語)。
★5.殺したはずの男に似た人物が、追いかけて来る。男は生きていたのか、それとも良く似た別人なのか、わからない。
『生きている小平次』(鈴木泉三郎) 太九郎は、自分の女房を寝取った小平次を、船板で打ちすえて、あさかの沼へ沈める。しかし小平次は死ななかった。小平次は傷を負った身体で、江戸の太九郎の家へやって来る。太九郎は、今度は刀で小平次を突き殺し、女房を連れて旅に出る。すると小平次に似た男が、見え隠れについて来る。小平次は生きているのか、良く似た別人なのか、わからない。太九郎夫婦は、恐怖にふるえながら旅を続ける。
「生死不明」の例文・使い方・用例・文例
- 彼は生死不明だ
- 五名は生死不明
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