理論の実証のための改造・製作の実践
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/30 02:59 UTC 版)
「江川三郎」の記事における「理論の実証のための改造・製作の実践」の解説
江川はスピーカーの自作も行ったが、ボーカル帯域(人間の声域)の再現を重視し、低音再生を犠牲にしていた。同じように自作スピーカーで人気を誇る長岡鉄男とは180度違う方向性である。 自作スピーカーは、まず箱(エンクロージャー)を製作し、それにスピーカーユニットを取り付ける。中高音の再生はユニットそのままでも十分可能であり、それを箱に取り付けるのは低音を再生するのが目的である。江川方式は、そういった方法とは異なったアプローチであるとも言える。 ちなみに江川自身は主に背面バッフルの無いダイポール(後面開放)型や平面バッフル型のスピーカーシステムを好んだと言われている。また、市販品では口径の小さいスピーカー(概ね6.5インチ〈16cm〉以下)を薦める傾向にあり、ユニットのフレームに切れ込みを入れたり、コルゲーションダンパーや振動板のセンターキャップを除去または一部をカットしたり、セーム革製エッジへ交換するなどの改造を行った。江川によれば、これらは「磁力による電磁誘導や渦電流歪による影響や材質による固有の付帯音を除去するため」の理由であるとした。 スピーカーだけではなく、CDプレーヤーやアンプもなるべく、消費電力の小さいものを好み推奨していた。小型であれば基盤の内部配線も縮小・最短化され、信号のロスやコモンモードにおける雑音が少なくなるとし、市販のポータブルCDプレーヤーをベースに改造した据え置き型プレーヤーを製作・販売もしていた。また、市販品でも興味を惹かれたアイデアは自身の製作に取り入れた。 レコードプレーヤー(ターンテーブル)ではダイレクトドライブのサーボ制御による音への干渉やコギングなどによる固有の回転ムラを嫌い、一時期は影響を緩和するためターンテーブルを大型化したり、質量の大きなカウンターウェイトを取り付けたプレーヤーを自作していたが、効果は高かったものの質量をどれだけ追加しても音の変化に切りがなかったため、後年では回転制御機構のないアイワの「PX-E800」などの1万円前後の価格帯のベルトドライブ型を使用し推奨していた。アームもオフセット角やカーブのない真っすぐなアームに音質的利点を見出し、「ピュアストレートアーム」と名付けて製作していた。理由の一つとして当時の廉価なプレーヤーのほとんどがストレートアームを使用していたことが挙げられる。 RCA技術者オルソンが提唱していたステレオスピーカーの設置方式である「スピーカーの間隔を広く空け、正面を視聴者に向け内向きに設置する」といういわゆる「オルソン方式」とは逆の「スピーカーの間隔を狭めるか密着させ、スピーカー正面を外向きに設置する」という「逆オルソン方式」を考案し推奨していた。これは左右のスピーカーの音の干渉と、スピーカーの間から音が聞こえなくなる「中抜け」という現象を嫌ったものである。江川はこの方式を元に自宅の壁に穴を開け、柱にユニットを固定して使用していたこともあった。 晩年には「ステレオよりもモノラルの方が音が良い」という結論に達し、モノラル用に特化したスピーカーを製作していた。
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