理論の拡張と応用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/17 23:23 UTC 版)
近藤の理論は絶対零度では物理量にlog発散をともなう。また近藤は摂動の2次の効果を計算し、 log T {\displaystyle \log T} の項を導いたが、さらに高次の摂動計算を行うと ( log T ) 2 {\displaystyle (\log T)^{2}} 、 ( log T ) 3 {\displaystyle (\log T)^{3}} を含む項があらわれ、低温ではこれらの項も無視できない。これはある温度以下では摂動論が破綻するということを意味している。この困難は後にフィリップ・アンダーソンのpoor man's scaling (1970年) や、ケネス・ウィルソンの繰り込み群 (1975年)によって解決され、局在スピンの状態からパウリ常磁性の状態に連続的に移り変わることが示された。ウィルソンはこの業績により1982年にノーベル物理学賞を受賞した。その後、Nozieres、山田耕作らによって局所フェルミ液体として近藤効果を捉えられることが示された。また、低温度に近づくにつれ、エネルギーギャップが生じ、フェルミ面がギャップ中に埋もれてしまうことに起因し、電気的特性の温度依存性が半導体(あるいは絶縁体)的に振舞う相領域におけるものを近藤絶縁体という。 近藤効果は物理学において漸近的自由性の最初に知られた例である。近藤効果では、漸近的自由性は磁気不純物の局在モーメントと伝導電子間の相互作用が低温/低エネルギーで摂動では取り扱えないほど強くなることにあたる。漸近的自由性のより複雑な形式としては量子色力学の理論での漸近的自由性があり、クォークにおける強い相互作用が高エネルギーでは弱く、低エネルギーでは強く働くことに相当する。これにより、クォークの閉じ込めがおきているが、近藤効果もこれに類似した現象であるといえる。なお、フランク・ウィルチェック、デイビッド・グロス、H. デビッド・ポリツァーの3人は強い相互作用の理論における漸近的自由性の発見で2004年にノーベル物理学賞を受賞している。 主に「磁性不純物」によって構成されている合金についても理論を拡張し、それらの合金でみられる重いフェルミ粒子は近藤効果が元となって生じていると考えられている。これは特にセリウム、プラセオジム、イッテルビウムのような希土類元素(レアアース)や、ウランのようなアクチノイドを基本とした金属間化合物で起きる。これらの物質では、非摂動的な相互作用が強いため、自由電子の有効質量が1000倍にも増加したようにみえる。言い換えると、自由電子は相互作用により劇的に運動速度が遅くなっている。その結果として、これらの物質の中には超伝導を起こすものがある。 更に最近では、プルトニウムの普通でない金属δ相(面心立方格子構造)を理解するためには、近藤効果の現れが必要であると考えられている。また、量子ドットにおける近藤効果も報告されている。近藤の業績を引用する論文も増えつつあり、ノーベル賞の候補とされていた。
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