現代医療における瀉血療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/06 15:15 UTC 版)
現代医療では、いくつかの症例において治療法の一つとして、この瀉血療法が行われる場合があり、これらは医学的にも根拠のある治療手段である。以下に例をあげる。 多血症 血液細胞が必要以上に作られてしまう病気である真性多血症では瀉血は基本的な治療である。ヘマトクリット(Ht)>55%が治療開始の目安であり、1回の瀉血は400-600ml程度である。瀉血した後は1か月程度でHtは元に戻るのでHtを見ながら繰り返し瀉血し、理想的にはHtを男性で45%以下女性で42%以下血小板数を40万/μl以下にコントロールすること、あるいは少なくともHt45%以下を目標とする。ただし瀉血は真性多血症の原因を解消する手段ではなく、あくまでHtのコントロールが目的である。瀉血を繰り返すうちに貯蔵鉄がなくなるとヘモグロビンの材料が乏しくなるため、赤血球は小型の物になり、Htの増加は抑え易くなる。そのため赤血球が小さくなっても鉄剤の投与は厳禁である。 ただし、研究者によっては鉄欠乏は皮膚掻痒の増大や倦怠感を招きQOLを下げるとして鉄剤の投与に肯定的な意見もある。真性多血症以外の多血症では、赤血球増加の原因を探りその原因を解消することを基本とし、瀉血は第一選択にはならないが、多血症の原因の解消が困難であったり、合併症が見込まれるときやHtが極端に高いときには瀉血などの治療を適宜行う。 C型肝炎 ウイルス性肝炎の一種であるC型肝炎では、体内に異常蓄積された鉄分を減らすため、食事療法と並行して瀉血療法が行われることがある。C型肝炎では、肝臓に蓄積された鉄分により活性酸素が発生し、肝炎症状の悪化を招く。通常は鉄制限食により肝臓に蓄積された鉄分を減らしていくが、既に鉄分が過剰に蓄積されてしまっている場合には、通常の新陳代謝ではなかなか状態が改善しないことがある。このため、瀉血によりヘモグロビンの形で鉄を体外に排出して、体内の鉄の総量を減少させる。これは、あくまで肝炎の進行を抑え肝硬変および肝がん(肝細胞癌)への移行を防ぐための対症療法であり、肝炎自体の治癒を目的とするものではない。 ヘモクロマトーシス 体内に鉄が沈着するヘモクロマトーシスでは、体内に沈着した鉄を除去するために瀉血を行う。遺伝性ヘモクロマトーシスでは瀉血が第一選択であり、定期的に行う必要がある。二次性ヘモクロマトーシスでも輸血が原因であったり貧血を伴ったりするものを除いて瀉血を行う。 接合手術後の処置 切断された四肢の端部の接合手術後、接合された部分に血液が循環せずに鬱血する場合がある。こうした場合に、接合部分の傷口に大型の無菌化したヒルを当て血液を吸わせることで接合した部分の血液循環を促進させ、循環不良による壊死を防ぐという治療法がある。ヒルの唾液には抗凝固作用があり、ヒルを用いた瀉血は緩やかな出血が長時間続くため、周囲組織の循環が急変したり、多量の出血で輸血が必要になるようなことはない。また、ヒルの噛み傷は組織障害が少ないことも利点であり、アメリカでは2004年に医療用ヒルがアメリカ食品医薬品局の認可を受けている。
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