無罪推定報道の有名無実化の原因
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 01:52 UTC 版)
「無罪推定の原則」の記事における「無罪推定報道の有名無実化の原因」の解説
日本で無罪推定の原則が有名無実化していることについては、いくつかの原因が挙げられる。 罪名や動機にかかわらず、警察が逮捕した被疑者の実名や年齢、職業をほぼ例外なく報道すること(少年や精神異常者などの例外はあるが、実名報道に対する罰則は全くない)。時には、不起訴処分または「無罪が確定」してもなお、犯人視して実名を報じてしまうケースもある。 捜査機関の逮捕・起訴に対する慎重な姿勢があるとされること(いわゆる「精密司法」) 。証拠が不十分な容疑者の逮捕・起訴が行われないこと自体は悪いことではないが、その結果「逮捕・起訴される人物は証拠がある人物」という理解が生じた。 地方裁判所に起訴された刑事事件の99%以上に及ぶ有罪率の高さ(執行猶予付きの有罪判決も含む)。一審で無罪判決が言い渡されたとしても、検察側にも控訴する権利があるため、控訴に持ち込まれると二審以降で「逆転有罪」になる可能性も排除できない。 マスメディアによる犯人視報道 大衆意識のレベルでの、捜査機関と裁判官の役割分担についての認識の不十分さ 犯罪を取り上げた警察ドラマの影響(あらかじめ犯人が設定されていないと物語が成り立たず、また被疑者を逮捕した時点でテレビドラマが終結してしまう) 被疑者や被告が有罪であると決めつける、または立証するのは容易だが、逆に無罪を立証するのは極めて困難であること(客観的な物的証拠が存在し、また、本人が犯行を自白した場合を除く)。 逮捕や起訴されただけで、(有罪が確定する前であっても)懲戒解雇などの懲戒処分がしばしば行われ、逮捕・起訴された者の社会的地位が不可逆的に奪われる。仮に「無罪が確定」しても、再就職が容易に進まない(これには、「無罪の推定に対する認識の不十分な国民が、逮捕・起訴された社員を解雇しない組織を非難するからという堂々巡り的要素もある」) インターネットによる私刑の大衆化。 などがある。 日本の刑事司法手続では、警察が逮捕するまでに捜査を綿密に行い、十分な嫌疑があるまでは逮捕しないことが多いとされてきた。その結果、犯罪の嫌疑がないとして不起訴処分がなされる率は諸外国に比して少ない。また、検察官に送検されても、検察は有罪判決をほぼ確実に得られる程度の証拠が揃わない限り起訴を控えるとされる(起訴便宜主義)。 さらに、裁判官は検察・警察に有利な心証を抱いており、「疑わしきは罰せず」を適用すれば無罪になるケースでも、有罪判決が出やすい。つまり、一度起訴されれば、検察側によほど大きな矛盾があるか、真犯人が別に発見されない限り検察・警察を信用する。その結果、起訴された場合には、99%以上(ほぼ全て)の被告人が有罪判決を受ける傾向がある。 これらを事態推移的に見ると、「○○△△容疑者を逮捕」の報道がなされた被疑者には、ほぼ確実に「○○△△を有罪にする」のと同様な報道がなされることになる。すると、警察や国民はすぐさま「逮捕=犯罪者」と思い込むことになる。 また、マスコミはこのような事情を考慮せず、むしろ捜査機関の発表に迎合して報道を行う(特に成人の被疑者のほぼ全員を実名で報道している)。「メディア・パニッシュメント」と揶揄される警察・マスメディアの犯人視報道であり、無罪判決が確定してから匿名に切り替えたとしても、名誉回復が困難となるのが現状である。また日本では、無罪判決が出た際に、「過去の犯人視報道は間違っていた」とマスコミが公式に謝罪や表明することもない。 山本七平は「『派閥』の研究」(文春文庫、1985年初出)において、「日本は法治国家ではなく納得治国家で、違法であっても罰しなくとも国民が納得する場合は大目に見て何もしないが、罰しないと国民が納得しない場合は罰する為の法律探しが始まり別件逮捕同然のことをしてでも処罰する」と述べ、「無罪の推定など日本では空念仏同然で罰するという前提の上に法探しが始まる」としている。
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