混同と誤認
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 04:06 UTC 版)
詳細は「アノマロカリス#発見史」、「ペイトイア#研究史」、「フルディア#発見史」、「スタンレイカリス#分類」、および「カリョシントリプス#MPZ 2009/1241に関する議論」を参照 ラディオドンタ類のほとんどの表皮は柔軟で、硬質化した部位も局部に限られるため、遺骸と脱皮の各部分はばらばらになりやすく、単離した硬組織(前部付属肢、甲皮、歯)の化石標本のみ発見されることが多い。そのため、良好な保存状態をもつ全身化石が残ることは非常にまれであり、散在した部位は、しばしば独立した別生物やその一部と誤解され、もしくは逆に複数の種のラディオドンタ類の特徴を誤って1つの種に由来とされたこともある。 アノマロカリスの前部付属肢の化石はかつてコノハエビ類の胴部と誤解釈された 前部付属肢をも含んだアノマロカリスの全身化石 ペイトイア(=ラガニア)の全身化石 かつてアノマロカリスのものと誤解釈されたペイトイアの歯の化石 代表的な例として、アノマロカリスとペイトイアのそれぞれの模式種(Anomalocaris canadensis と Peytoia nathorsti )は、最初期に命名される同時に最初にラディオドンタ類として復元された種でもあるが、錯綜する研究史をもち、命名当初から比較的正確の全身復元に至るまでおよそ1世紀の時間をかかっていた。この2種のラディオドンタ類の化石は最初では単離した各部位のみ発見され、前者は前部付属肢のみで、「アノマロカリス」(アノマロカリス・カナデンシス Anomalocaris canadensis)というコノハエビ類の胴部として記載されており、この甲殻類の胴部と解釈された化石が、常に頭部を欠いているのが謎とされていた。後者の歯の部分はクラゲと考えられ、「ペイトイア」(ペイトイア・ナトルスティ Peytoia nathorsti)と記載される同時に、胴部はナマコもしくは海綿と見なされ、「ラガニア」(ラガニア・カンブリア Laggania cambria)と名付けられた。19世紀末から20世紀初期にかけて命名されたこれらの化石は、記載から1世紀近くもお互いに無関係の別生物と考えられた。この2種は1980年代でついに各部位が1つの個体に出揃った全身化石が発見され、全身復元がなされていたが、アノマロカリスは胴部が1990年代まで、歯が2010年代までペイトイアのように復元されるなど、お互いの特徴が混同される経緯があった。 上述の種とは異なり、甲皮が先に発見される例としてフルディア(Hurdia victoria と H. triangulata)とパーヴァンティアの種(Pahvantia hastata)が挙げられる。これらの種はいずれも最初では背側の甲皮のみ発見され、何らかの節足動物の背甲として記載された。そして後に発見されるこの2属のラディオドンタ類の左右の甲皮は、長らく別生物のコノハエビ類の背甲と誤解釈され、プロボシカリス(Proboscicaris)と名付けられた。フルディアがラディオドンタ類と判明した2010年代も、ペイトイア(前部付属肢)とパーヴァンティア(左右の甲皮)に由来する部分が同属によるものと誤認される経緯があった。 フルディアの背側の甲皮化石 かつて葉足動物の全身と誤解釈され、Mureropodia apae と名付けられたカリョシントリプスの単離した前部付属肢化石 また、ペイトイアとフルディアなどの前部付属肢のように、単離した部位が、同じ生息地にある別生物由来と考えられた例もある(いずれも記載当初では同じ生息地のシドネイアの付属肢と考えられた)。スタンレイカリスやカリョシントリプスのように、記載当初から既にラディオドンタ類として分類されるが、一部の単離した構造の化石標本が別生物の全身化石と誤解釈され、命名までなされた例もある(いずれも前部付属肢が葉足動物と誤認され、前者はアイシェアイアの1種 Aysheaia prolata、後者は新属新種 Mureropodia apae と名付けられた)。 こうして最初では独立の動物と考えられた部位から後にラディオドンタ類の一部と判明した種類は、学名も元々該当する部位のみを示したものを受け継ぐのが一般的である(例えばアノマロカリスの学名「Anomalocaris」は前部付属肢による)。同属由来の複数の部位がそれぞれ別属と命名された場合では学名の先取権に従い、最も早期に命名したものが正式の学名とされ、残りのものはそのジュニアシノニム(無効の異名)に含まれる(例えばのフルディアの学名「Hurdia」は1912年で命名された背側の甲皮によるもので、側面の甲皮を示す「Probosicaris」はより晩期の1962年で命名されたため不採用である)。なお、同属由来の複数の部位がそれぞれ同一文献に別属と命名されたの場合では動物命名法国際審議会の条約に従い、第一校訂者により有効の学名を決定される(例えば同時に Walcott 1911a に記載されたペイトイア/ラガニアの場合、Conway Morris 1978 は第一校訂者として、特徴が明確な歯を示す「Peytoia」を有効の学名、特徴がやや不明確な胴部を示す「Laggania」をそのジュニアシノニムにした)。
※この「混同と誤認」の解説は、「ラディオドンタ類」の解説の一部です。
「混同と誤認」を含む「ラディオドンタ類」の記事については、「ラディオドンタ類」の概要を参照ください。
- 混同と誤認のページへのリンク