欠点克服の為の技術的アプローチ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/29 05:18 UTC 版)
「ターンフロー」の記事における「欠点克服の為の技術的アプローチ」の解説
このように欠点の多いターンフローは、日本車や多くのヨーロッパ車、アメリカ車などでは高性能と高出力、或いはエンジンのコンパクト化や熱対策のために比較的早期に見切りが付けられ、一部を除いてほとんどのエンジンがクロスフロー式ヘッドに移行していったが、日本やアメリカと比べてエンジン開発のための資本に乏しかったオーストラリア車やイギリス車においては、従来のターンフロー式ヘッドの性能を最大限引き出すために様々な技術的アプローチが試みられた。 ターンフローの一つめの欠点である吸排気ポートのサイズの問題は、排気ポートの上に吸気ポートを配置するレイアウトとし、シリンダーヘッド自体の厚さを可能な限り分厚くし、吸排気ポートの拡大余地を残す設計とすることである程度解決できた。クロスフローレイアウトの最大の利点は、吸排気ポートを交差配置とすることでシリンダーヘッド自体の厚さを薄くできることであったが、ポート加工を極限まで追求した場合、右画像に示すような縦方向に大きな吸排気ポートと分厚いシリンダーヘッドが必要となってしまうので、元々エンジンルームの大きさにある程度の余裕があったオーストラリア車やイギリス車では、敢えてターンフローのまま改良を行い続けるに値するだけのスケールメリットがあったのである。 このような設計を行った場合、排気ポートについては(極端に薄く作られたクロスフローヘッドと同様の)きつい角度の曲がりが生じるという問題が生じたが、ポート自体の径をより大型化することでいくらかは解決できた。 こうした設計の延長上で誕生したユニークな手法として、ブリティッシュ・レイランド・ミニとオーストラリアのホールデン製6気筒エンジンで用いられたサイアミーズ・ポート(Siamesed Port)と呼ばれる設計が挙げられる。サイアミーズ・ポートとは、2つの隣接したシリンダー間で巨大な吸排気ポートを共有するというもので、吸排気ポート拡大の手法を極限まで推し進めた結果、このような設計が誕生した。 しかし、このような手法は隣接するシリンダー間での混合気の奪い合いが発生し、片方のシリンダーでは混合気が多めに入り、もう片方のシリンダーでは混合気が薄めになるという事態を招くことになった。これは吸排気ポートを共有する2つのシリンダーが同時点火でないことに起因するものである。例えば4気筒エンジンのブリティッシュ・レイランド・ミニの場合は点火時期設定が1-3/4-2の順番であり、ポート自体は1番と2番、3番と4番シリンダー同士で共有される。この場合、先に点火する1番と3番シリンダーがより多くの混合気を吸い込む傾向となり、後で点火する2番と4番シリンダーは混合気が少なめとなる傾向になる。また、このような構成では低回転域のトルクを稼ぐためのヘルムホルツ共鳴や排気洗浄作用を利用したインテークマニホールドやエキゾーストマニホールドの体積効率改善が行いにくく、ターンフローヘッドを高回転を多用するモータースポーツ向けに改造する場合を除いては次第に廃れていくことになった。 ターンフローの第二の問題である熱問題に関しては、エキゾーストマニホールドに耐熱バンテージやセラミックコーティングを施すなどの対策である程度解決が可能であった。日産・フェアレディZ S130型では、ボンネットにNACAダクト (en:NACA duct)を配置して吸排気マニホールドの集中的な冷却を促す手法も採られていた。逆に、一部の車種においてはエキゾーストマニホールドの熱を意図的にインテークマニホールドに伝えて、燃料の気化を強制的に行う手法が採られることもあった。これにより、インテークマニホールドで乱流を起こしやすくするための流体力学的に不利な管路設計を行う必要がなくなるメリットがあったが、現在ではこのようなある種強引とも思えるような解決策を用いてまでターンフローを利用することはほぼなくなっている。
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