様式の分析と後世への芸術的遺産
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「システィーナ礼拝堂天井画」の記事における「様式の分析と後世への芸術的遺産」の解説
ミケランジェロは、15世紀のフィレンツェで活動した偉大な画家や彫刻家たちの後継者であった。彼がはじめに修業したのは、卓越したフレスコ画家であったドメニコ・ギルランダイオの下であった。ギルランダイオは、サンタ・トリニータ教会サセッティ礼拝堂及びサンタ・マリア・ノヴェッラ教会トルナブオーニ礼拝堂の一連のフレスコ画で知られ、システィーナ礼拝堂側壁のフレスコ画制作にも参加している。さらにミケランジェロは初期ルネサンス期のフィレンツェが生んだ2人の高名なフレスコ画家・ジョットとマザッチョの作品を研究し、それにならって作画している。マザッチョが描いたエデンの園から追放されるアダムとエヴァの像(サンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂ブランカッチ礼拝堂)は、天井画の裸体像全般、特に裸体像を用いて人間感情を伝えようとする場面に多大な影響を与えている。ヘレン・ガードナーは、ミケランジェロにおいては「人体とは、人の魂、あるいは心理状態や性格の発現にほかならないのだ」と述べている。 ミケランジェロはまた、ルカ・シニョレッリの絵画から影響を受けたこともほぼ間違いない。ルカ・シニョレッリの作品、特にオルヴィエート大聖堂の『罪されし者たち』『肉体の復活』などの画面には数多くの裸体と独創的な群像構成がみられる。ミケランジェロは、ボローニャでは、大聖堂の扉の周囲に施されたヤコポ・デッラ・クエルチャの浮彫彫刻を見ている。ミケランジェロの『エヴァの創造』の描写において、全体の構成、人物の形態、エヴァと創造主との関係についての比較的伝統的な解釈は、ヤコポのデザインをよく受け継いでいる。一方で、天井画の他の場面、なかんずく印象的な図像をもつ『アダムの創造』は、前例のない独創性を示している。 システィーナ礼拝堂天井画は、他の芸術家たちに多大な影響を与えることとなった。天井画完成前でさえ、その影響は大きかったのである。ヴァザーリは彼が執筆したラファエロ伝の中で次のように伝えている。礼拝堂の鍵を持っていたブラマンテは、ミケランジェロの不在中にラファエロを礼拝堂に招き入れ、天井画を観察させた。ミケランジェロ作の預言者像を見たラファエロは、自分が制作していたサンタゴスティーノ教会柱絵の預言者イザヤ像のところに戻った。ヴァザーリの伝えるところによれば、ラファエロはすでにできあがっていたイザヤ像を壁から削り落とし、ミケランジェロ風のより力強い様式で描き直したという。 見せかけの建築形態、筋肉質の人体表現、短縮法、人物のダイナミックな動き、目の覚めるような色彩感覚、一度見たら忘れられないルネッタの人物表現、プットーの豊富な表現など、この天井画のデザイン要素の中で、後の芸術家たちに模倣されなかったものはほとんどない。ガブリエーレ・バルツとエバーハルト・ケーニッヒは、イニューディ(青年裸体像)についてこう述べている。「これらのイニューディほど、永続的な影響を後の世代に及ぼしたイメージはない。これらと似たような人物像は無数の装飾美術 - 絵画、ストゥッコから彫像に至るまで - に登場している」。 天井画の作風は、ミケランジェロ自身の作品の中では、後年のよりマニエリスム風の強い『最後の審判』につながっていく。『最後の審判』の多人数の群像構成の中では、体をねじり、短縮法で描かれた人物が、裁かれた者たちの絶望や歓喜を表現しており、ミケランジェロの創造性が存分に発揮されている。作品にミケランジェロの直接的な影響がうかがえる芸術家としては、ポントルモ、アンドレア・デル・サルト、コレッジョ、ティントレット、アンニーバレ・カラッチ、パオロ・ヴェロネーゼ、エル・グレコらがいる。 2007年1月、バチカン美術館の1日の入場者は約1万人であり、人々にもっとも人気があるのはシスティーナ礼拝堂の天井画であると発表された。バチカン当局は、新たに修復されたフレスコ画が傷むことを恐れ、入場時間の短縮、入場料の値上げ等により訪問者を減らす計画のあることを明らかにした。すでにその500年前、ヴァザーリはこう書いていた。「(足場がはずされて)天井画が公にされると、世界中から人々が殺到した。天井画は一目見るだけで人々を驚嘆させ、言葉を失わせるに十分であった」。
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