東北地方の東西圧縮と隆起・沈降
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 04:07 UTC 版)
「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の記事における「東北地方の東西圧縮と隆起・沈降」の解説
約300万年前からの東西方向からの圧縮によって隆起して陸地となった東北地方は、現在でも同様の地殻変動が継続しているものと考えられている。例えばリアス式海岸として知られる三陸海岸でも、海岸段丘の分布状態から過去12-13万年の間に約20-30メートル隆起していることが明らかになっている。つまりここ10万年あまり、三陸海岸は一年間に0.3ミリ以下というゆっくりとしたペースではあるものの、隆起が継続している。また、近年のGPSによる観測では東北日本の短縮が観測されており、現在も東西方向からの圧縮力がかかっていることが想定されている。 しかし現在の東北地方の東西圧縮と隆起の継続について否定的なデータもある。1894年(明治27年)に牡鹿半島の鮎川に設置されて以降、東北地方太平洋沿岸各地に験潮所が設けられている。中でも2011年時点で過去30年間のデータが揃っている験潮所は八戸、宮古、釜石、大船渡、鮎川、相馬、小名浜の7か所である。それら7か所の験潮所のうち、小名浜以外の6か所では海水面の上昇が確認されており、これは東北地方の太平洋沿岸のほぼ全域で沈降が起こっていることを示していると考えられる。また験潮所のデータ以外でも、1875年(明治8年)から開始された水準測量や近年のGPSによる観測でも東北地方太平洋沿岸の沈降が確認されている。 また、東西圧縮についても全てのデータが肯定的なものではない。1883年(明治16年)に陸地測量部によって開始された三角測量の計測値と、近年の国土地理院によるGPSを利用した計測値を比較してみると、ここ約100年間では東北地方の地殻はほぼ伸縮が見られないか、むしろ伸長している結果が得られている。つまり約300万年前から現在に至るまで継続していると考えられている、東北地方にかかっている東西方向の圧縮力とそれに伴う隆起について、実測によるデータではむしろ逆の結果が出ているという明らかな矛盾がある。 この東北地方で見られる実測値と地形学的な観察結果における地殻変動の違いは、東北地方太平洋沖地震の発生以前から問題とされていた。まず東西圧縮については近年のGPSによる観測では明らかに圧縮方向の力が働いているとのデータが得られているため、明治時代という古い時代に行なわれた三角測量による測定値の信頼性に疑問があるとの意見が出されている。また明治時代以降、東北地方には多くの地震が発生しており、それらの地震による地殻変動の積算によってたまたまこの100年間はほぼ伸縮がない状態ないしやや伸長した結果になったのであって、東北地方が必ずしも長期的に見て引き伸ばす方向の力が働いていることを示しているものではないとの説もある。 一方、海水面を基準とする験潮所のデータなどによって示された東北地方太平洋沿岸のほぼ全域で確認される沈降については、測定値の信頼性には問題はなく、実際に沈降を続けているものと考えられる。この現象の解釈には主に2通りの考え方がある。まず約300万年前から続いている東北地方の隆起現象は既に終了しているとの考え方である。しかしこの考え方には大きな難点がある。東北地方太平洋沿岸では、10万年あまり前の海岸線が隆起して海岸段丘を形成している。もし過去300万年間続いてきた隆起が終了して沈降が始まっていたとしたら、現在も海岸段丘として10万年あまり前の海岸線が内陸部に確認できることから、隆起から沈降への転換はかなり最近の出来事であると解釈せざるを得なくなる。しかし隆起から沈降への転換を想定させるような地形学的な証拠は全く見当たらない。 約300万年前から隆起が続いていると考えられる東北地方で、この約100年間では太平洋沿岸ほぼ全域で沈降が確認される現象の説明としては、約100年間というスパンでは観測されなかった、東北地方の太平洋沿岸を隆起させる地殻変動が存在することによるという考え方が一般的である。約100年間というスパンでは観測されなかった地殻変動は2種類考えられている。まず東北地方の太平洋沿岸に比較的近い場所で発生する未知の活断層による地震、もう一つは日本海溝沿いに発生するプレート間の未知の大規模すべりである。後者の可能性についていえば、未知のプレート間大規模すべりは必ずしも地震である必要はなく、また広範囲にわたって発生する大規模なすべりであるため、東北地方太平洋沿岸という広い範囲を隆起させる原動力となることが期待された。東北地方の太平洋沖では明治時代以降、1896年(明治29年)の明治三陸地震、1933年(昭和8年)の昭和三陸地震、1968年(昭和43年)の十勝沖地震などといったマグニチュード8クラスの地震が発生しているが、いずれの地震でも東北地方太平洋沿岸の隆起は観測されておらず、未知の大規模なプレート間のすべりが想定されるものの、その正体ははっきりとしていなかった。
※この「東北地方の東西圧縮と隆起・沈降」の解説は、「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の解説の一部です。
「東北地方の東西圧縮と隆起・沈降」を含む「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の記事については、「東北地方太平洋沖地震及び津波のメカニズム」の概要を参照ください。
- 東北地方の東西圧縮と隆起・沈降のページへのリンク