本法撤廃論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/12 02:33 UTC 版)
消費者金融業界には、本法の撤廃を求める声が強い。小口無担保(かつ繰上返済自由)融資は、制限利息を徴求するだけでは回収コストすらまかなうことができないし、裁判実務上、みなし弁済規定の成立要件が厳格に解されている現状では、一旦得た利息収入を不当利得返還請求によりいつ吐き出させられるかもしれないという不安定さ(ちなみに、みなし弁済規定が成立しない利息も、「収入すべき金額」(所得税法36条1項)として一旦課税されるが、不当利得返還請求によりこれを吐き出した場合、当該吐き出した金額は損金となる。)を免れず(43条問題)、これでは法令の制限内で庶民金融を供給しようとする者はいなくなり、ヤミ金融の被害が拡大する一方であるなどと主張する。また、アメリカ合衆国では利息の制限を州法に委ね、どの州の住民に対する貸付についても貸主が所在する州の利息の制限が適用されているために、貸倒れの危険性に応じた多様な金利市場が成立しており、借主は機動的に融資を受けることができているなどとも主張する。また、昨今流行の市場原理論から、金利規制撤廃を叫ぶ論調もある。 本法が昭和29年に制定された当時の物価水準と現在の物価水準は相当かけ離れた水準であることから、元本金額(100,000円未満と100,000円以上、1,000,000円以上)に応じて制限利率を区分した立法の趣旨は、少なくとも現在の物価水準との合理的連関性はない。(国家公務員大卒の初任給で比較すると、昭和29年の8,700円に対して平成24年は181,200円であり、その較差は実に20倍にもなる。) これに対して、以下のような論拠により、本法の撤廃に反対する声も強い。 貸金業者の中には制限利息の範囲内の貸付で営業を継続しているものもあり、本法は庶民金融の障害とはなっていない。 ドイツやフランスでは日本よりもはるかに厳格な金利規制がなされており、日本より金利規制が緩い先進国は英米のみである。(もっともこの点については、ドイツの金利規制は保険料・審査費・会費・明細書発行費・通信費を別途請求可としており、フランスも保証料を認め、また両国とも規制金利を超える違約金を認めるなどの点で厳格とは言い切れないとの指摘がある。) 現状の実態を見てみると、ヤミ金融に手を出す者のほとんどは、消費者金融での高利の借金返済のためにヤミ金融から借金をしているのであり、本法を撤廃・緩和して消費者金融に今以上の高利を許せば、今以上にヤミ金融の被害が拡大する。(韓国では、利息制限を撤廃したとたんに年利200%の業者が大量に現れ、それによる自殺者が急増して社会不安が増大したため2002年に利息制限を復活させている。) 多くの自己破産者は、ギャンブルなどの継続的な浪費というよりは、生活費をまかなうために複数の消費者金融からの借金を繰り返し、多重債務者になり支払不能に陥っている。従って、本法を強化して消費者金融が一斉に本法を遵守せざるを得ないようにしたならば、このような多重債務者の増加を相当程度抑制することができ、消費者金融業者の収支を圧迫する最大要因である自己破産の件数を減らすことができるのであって、結局業界の利益になるはずである。 消費者金融から借金をする者の多くは、他の消費者金融から借金をしていて、それを返済するために別の消費者金融業者から借り入れを繰り返すことや、消費者金融にしても融資を受ける側の収入をきちんと調べずに、他社からの借り入れ件数があっても返済能力を無視した貸し付けをおこなう、いわゆる過剰融資の問題がある。このような消費者は、消費者金融の提示する金利が高すぎるから借入を控えるという行動を取る余裕がなく、当事者が冷静で合理的な選択を行って取引に入るか否かを決定するという、市場原理が機能する大前提を欠いている。 近年、一部の業者には、政治団体を結成、業者有利となる法制度にすべく政府与党に対して働きかけを行なおうとする動きもあり、消費者団体・弁護士会から非難されている。しかし、一方で、一般の消費者金融利用者からは過度の規制が利用の妨げになるという批判も強い。
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