有意抽出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 23:47 UTC 版)
無作為抽出では母集団を代表する標本が得られないと調査する人が考えた場合、母集団を代表すると思われるサンプルを「作為的に」母集団から抽出することもできる。これを有意抽出(ジャッジメント・サンプリング)と言う。有意抽出では標本が確率的に決まらないため非確率抽出(Nonprobability sampling)とも言う。 ここで言う「作為」は、調査者による「作為」だけでなく、調査対象者(サンプル)自身による「作為」も含まれる。例えば、調査協力者が自分で自分をサンプルだと「作為的に」選出し、調査に応募して自分をサンプリングさせる、そのような調査方法を取る自称「世論調査」が、民間にしばしばある。これは「自己選択バイアス(Self-selection bias)」と呼ばれるバイアスを生じさせ、不正確な結果を導き出す。 有意抽出によって世論調査を行った場合、調査した人の主観的にはより正確な「世論」が得られる可能性が有るが、調査した人以外から見た客観的な正確性には難点がある。無作為抽出のメリットは、正確な「世論」が得られることではなく、標本誤差や信頼水準の大きさが確率的に求められ、その意味で統計学的な正確性が担保できることにあるが、それに対して有意抽出では、たとえ正確な「世論」が得られるとしても、標本誤差がどのくらいあるかが分からず、したがって統計学的な正確性が担保できないのである。調査対象者が少数の場合、無作為抽出ではかえって標本誤差が大きくなると判断される場合などに、見識のある調査者が自らの経験とカンで代表的標本を選んだほうが正しい結果が出る場合もあり、身近な例では週刊少年漫画雑誌の編集長が読者アンケートから「隠れた支持があるので連載続行」などと決める場合などに使われるほか(これは潜在的な読者の対象となる全日本国民の中から、読者アンケートに応募してきた人間のみを抽出する、「応募法」と呼ばれる手法である)、世論調査では大規模調査の前に前もって行われる試験調査などに使われることがあるが、客観性が無く企画した本人たち以外には価値を認められないデータとなる可能性があるため、通常は世論調査には用いられない。 統計調査における有意抽出に関しては、自ら応募してきた人のみを調査対象とする応募法(voluntary response sampling)、世代や年齢別にサンプリング数を割り当てて、その中から割り当てた数だけの協力者を募って調査する割当法(quota sampling)、調査者が主観でサンプリング対象の「典型」を設定して、その典型的な標本のみ(例えば「典型的日本人」としての新橋駅前のサラリーマンなど)を抽出する典型法(typical case sampling)、知人の紹介に頼って標本を集める機縁法(chain sampling、紹介を繋げて行くに従って雪だるま式にサンプルサイズが膨れ上がるので「雪だるま法(Snowball sampling)」ともいう。twitterやFacebookなどのSNS上における「アンケート」が典型である)、街頭などで行きかう人を捕まえて協力をお願いして調査を行うインターセプト法(intercept survey sampling)(偶然出会った人を標本とするので偶然法(accidental sampling)ともいう。日本では新橋駅前などでテレビ局がよく行っており、一般的には「街頭調査」「駅前調査」などと呼ばれる)、などがある。これらの方法は、統計学的に厳密な手法が求められる無作為抽出と比べて手軽に行えるので(その意味で英語では「コンビニエンス・サンプリング(Convenience sampling)」とも呼ばれる)、短時間でそれっぽいデータが欲しい時によく行われるが、いずれも統計学的には不正確なサンプリングとなる可能性が高く、従って世論調査とは言えない。 世論調査の歴史において、かつては「有意抽出法」が世論調査に使われた時代があった。特に「割当法」は、1936年アメリカ合衆国大統領選挙でギャラップ社が初めて導入し、少数のサンプリングで「世論」を導き出せる方法として脚光を浴び、他の多くの調査会社でも導入されたことで有名である。この選挙では、リテラリー・ダイジェスト誌が200万通の読者アンケートによる大規模サンプリングによってランドン候補の当選を予測する中、ギャラップ社は「割当法」によってリ誌の1%に満たない5000人のサンプリングでルーズベルト候補の当選を予測し、そして的中させたことで、大規模サンプリングでも有意抽出の場合は不正確な結果が導き出されることと、サンプリングの精度が高い場合はごく少数のサンプリングでも「世論」を導き出せることが明らかになった。しかし「割当法」でも、サンプルの対象を「作為的に」選ぶという性質上、統計学的な誤差が避けられず、1948年のトルーマン候補の当選を予測できなかった。そのため、世論調査の方法そのものに対する検討委員会が設置され、研究が行われた結果、世論調査の方法としては「割り当て法」をはじめとする「有意抽出法」は否定され、「無作為抽出法」のみが使われるようになった。「世論調査」の正確性においては、このような歴史的な試行錯誤を経て、出来る限り統計学的に正確性を担保できるシステムが整えられてきたことを子供たちが知る必要があると、総務省統計局は考えている。 日経リサーチによると、「標本サイズが大きくても、無作為抽出をしたことにはならない。調査協力を拒否した人を断念して、親切に協力してくれた人だけを選んでは無作為抽出にならない。確率的手順で抽出されたら、別の人に交代してはいけない」とのことだが、拒否している人に無理強いはできないので、現実にはある程度の所で妥協している。誤差の元になるため、内閣府では「世論調査へのご理解とご協力をお願いします」と国民に呼びかけている。
※この「有意抽出」の解説は、「世論調査」の解説の一部です。
「有意抽出」を含む「世論調査」の記事については、「世論調査」の概要を参照ください。
- 有意抽出のページへのリンク