時季変更権
・時季変更権とは、事業の正常な運営を妨げる場合において、使用者が従業員の有給取得の時季を変更できる権利である。
・事業の正常な運営を妨げる場合とは、「事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。」(S53.1.31大阪高裁判決)とされている。客観的に判断されるべきものであるとともに、事業の正常な運営を妨げる事由が消滅後できる限り速やかに休暇を与えなければならない。
・例えば、年末年始等業務の繁忙時期、同一期間に多くの従業員が有給休暇の取得を申請し、全員に有給休暇を付与したら事業が正常に回らない場合などが該当する。
・最高裁の判決で、「使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取得することができるように、状況に応じた配慮をすることを要請していると解すべきであって、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、右趣旨に反するものといわなければならない。」とされている。(平成元(オ)399 時事通信社けん責事件)
・時季変更権は、あくまでも従業員が在籍している期間内のみで有効であり、使用者がいかに繁忙であろうとも当該従業員の解雇予定日を超えての時季変更権の行使は認められていない。
・労使協定において、計画的付与が決まった日数に対しては、従業員の有給取得の時期指定権はなくなり、同様に使用者の時季変更権の行使はできない。
時季変更権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 08:10 UTC 版)
使用者は、有給休暇を労働者の請求する時季(法文上「時期」ではなく「時季」)に与えなければならないのが原則である(第39条第5項)。使用者は、労働者の請求する時季に有給休暇を与えると事業の正常な運営を妨げる場合に限り、例外的に他の時季にこれを与えることができる(第39条第5項但書)。これを時季変更権という。事業の正常な運営を保持するために必要あるときは年度を超えての変更や、労働者の意に反する場合においても時季変更権を行使できる(昭和23年7月27日基収2622号)。時間単位での請求に対する変更もできる。ただし、日単位での請求に対して時間単位に変更したり、時間単位での請求に対して日単位に変更することはできない(平成21年5月29日基発0529001号)。 時季変更権の行使要件は「事業の正常な運営を妨げる場合」であり、個別的具体的に客観的に判断される。単に業務多忙という理由では行使はできない。代替勤務者の確保や勤務割を変更するなどの努力せずして時季変更権の行使は許されない(横手統制電話中継所事件、最判昭和62年9月22日)。なお派遣労働者の場合は、「事業の正常な運営」の判断は、派遣元の事業についてなされる(昭和61年6月6日基発333号)。 使用者に与えられている時季変更権は、文字通り有給休暇を与える時季を変更することができる権利であって、労働者からの有給休暇の取得請求そのものを拒否できる権利ではない。争議行為の例外を除き、使用者には一切の拒否権がないので、労働者に対する有給休暇の付与を拒否することはできず、労働者の請求により発生した与えるべき有給休暇を後から取り消す余地も当然にない。なお、使用者が時季変更権を行使せず労働者の請求通りに有給休暇を与えることを一旦決した後に時季変更権を行使する場合、時季変更権の行使要件を満たしたうえでの正当な権利行使でない限りは時季変更権を行使することは当然できない(全日本空輸(大阪空港支店)事件、大阪地判平成10年9月30日)。 時季変更権の行使時、事由消滅後は可能な限り速やかに休暇を与えなければならないとされる(昭和23年7月27日基収2622号)。この時季変更権の行使によって労働者の指定した日付での使用を認めない場合には、代替の日付を同時に指定する必要はなく、具体性のない先送りでも認められるとする高裁判例がある(JR東日本(高崎車両区・年休)事件、東京高判平成12年8月31日)。この判例では、年休取得時季を変更しても、会社は労働者に別の時季を指定する義務を負わないとされている。 時間単位年休の場合、時季変更権の行使のためであっても、あらかじめ労使協定で時間単位年休を取得できない時間帯を定めておくこと、所定労働時間の中途に時間単位年休を取得することを制限すること、一日において取得できる時間数を制限することは認められない(平成21年5月29日基発0529001号)。 もっとも、時季変更権を使用者が行使した場合、その可否を判断するのは民事的な問題であるため、労働基準監督署では判断する権限はなく、一度なされた時季変更権を労働者が否定するには、都道府県労働局によるあっせん等の申し立てや、終局的には裁判所での判断が必要になる。このため、事実上、理由の適否に関わらず、使用者が時季変更権を行使してしまえば、年次有給休暇の取得を強制させるのは困難になる。
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