旧民法の親権
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親権は戸主権とはまったく異なる別のものであるが、旧民法はこの点において戸主権(家族制度)と親権(個人制度)とが過渡期的に混在するものとされた。 親権の直接の抛棄は許されない。ただし親権者である母が財産の管理を辞することはできる。また他の行為の間接的な効果として親権を抛棄したのと同じ結果を生じることはある。 親権者は、子と家を同じくする父であり、父が知れないとき、死亡したとき、家を去ったときまたは親権を行うことができないときは家にある母である(旧民法877条)。親権を行うことができないときとは親権喪失の宣告を受けた場合、禁治産者であるとき(この場合は判例で認めるが、疑いもあるとされた)である。おなじひとつの家のなかで、養父母は実父母の先立ち、実父母は継父母、嫡母に先立つ。親権を行う者が無い場合には後見人が置かれる。継父母、嫡母は後見人と同様の制限監督を受ける(878条)。親権に服するのは未成年の子および独立の生計を立てていない成年の子である(877条1項)。独立の生計を立てていない成年の子はただ懲戒権のみに服するだけである。 親権の内容は、 子の身上に関する権利義務未成年の子の監護教育の権利義務 - たとえば、監護教育の方法を実施するために他人に対して子の引き渡しを請求することができる。(これは監護教育の費用の負担の義務とは別のものである。) 居所指定権 - 戸主の居所指定権と親権者の居所指定権が衝突するときは、親権者の居所指定権が優先する。夫婦のいずれもが未成年でありその親権者がある場合は親権者が夫婦の同居関係を害するような居所指定はできない。 未成年の子の兵役出願を許可する権利(旧民法881条) 未成年の子が営業をなすことを許可する権利 - ひとたび許可を与えた後であってもこれを取り消し、制限をすることができる(6条、883条) 必要な範囲で自ら子を懲戒し、または裁判所の許可を得てこれを懲戒場に入れる権利(882条、非訟事件手続法92条) 子の財産に関する権利義務未成年の子の財産を管理し収用する権利 - 親権者は自己のためにするのと同一の注意をもって(889条)管理しなければならない。子が成年に達したときは父または母は遅滞なくその管理の計算をしなければならない(890条)。この場合、その子の教育および財産の管理の費用はその子の財産の収益と相殺したものとみなす(890条)。親権者または財産管理者の財産管理の終了の場合は妻の財産管理の場合と同様に委任終了の規定が準用される(893条)。財産の管理について生じた債権は管理権消滅のときから5年間行なわないとき時効によって消滅する(894条)。 財産の関する法律行為について未成年者を代理する権利 - 財産上の行為であってもその子の行為を目的とする債務を生ずべき場合は本人の同意を要する(884条)。未成年者の財産上の行為は親権者が代わってなし得るのであり、未成年者に意思能力があり自らその行為をする場合は親権者の同意がなければ完全な効力は生じない。親権者が母である場合は親族会の同意を得ることを要する(886条)。親権を行う父または母とその未成年の子とで利益が相反する行為については父または母はその子のために特別代理人を選任することを親族会に請求することを要し、父または母が数人の子に対して親権を行う場合その1人と他の子の利益が相反する行為についてはその一方のため特別代理人の選任を要する(888条)。 戸主権および親権の代行権 - 戸主が未成年であり、または未成年者に子がある場合はその親権者がこれに代わって戸主権または親権を行う(895条) 親権が消滅するのは、親権者または子が死亡したとき、親権者と子とが家を同じくしないようになったとき、成年の子が独立の生計を立てるようになったとき、独立の生計を立てる未成年の子が成年に達したとき、親権者が親権を行うことができないようになったときである。親権の喪失には一部喪失(897条)と全部喪失(896条。人事訴訟手続法31条。旧戸籍法107条)とがある。親権者の親権は親権喪失の宣告によって消滅する。父または母が親権を濫用しまたは著しく不行跡な場合には、裁判所は子の親族または検事の請求によって親権喪失の宣告をおこなうことができる。この宣告によって親権者は親権を喪失する。親権喪失の宣告は、継父母が継子を虐待する、あるいは親権者である母が子の教育監護に不適当と認められるていどに素行が修まらないような場合になされることが多かった。 母が亡父の遺子を教育する必要から他の男性の妾となったことが著しい不行跡として親権喪失の原因となるか否かが問題となったことがある。この問題について大審院は具体的な事実によって判断するほかないと解釈した。
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