日本人の競馬への関わり方
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/12 09:23 UTC 版)
「日本の競馬」の記事における「日本人の競馬への関わり方」の解説
「競走馬の生産と所有」を「競馬に関わる」とするならば、法的な制約と経済的な理由のため、現在の日本で競馬に関わるのは非常に困難である。日本よりも古くから競馬を行ってきた西洋諸国では、競馬に関わる人々によって持続的な馬事文化が数世紀にわたって伝統的に維持されてきたが、日本では明治期に競馬がもたらされた後、昭和期に社会制度が大きく変わったのに伴い、競馬に関わる文化は太平洋戦争前後で断絶がある。一方、必ずしも「競走馬の生産と所有」を伴わない方法で「競馬に関わ」ろうとする「競馬ファン」によって他国にはみられない独特の競馬文化が醸成された。 華族制度のあった時期の日本の競馬は、貴族制度のあるイギリスと同様に「貴族の道楽」であった。大地主であるとともに実業家でもあった華族は、自己名義で各地に農場を拓き、そこで生産した競走馬を自己名義で競馬に用いることができた。彼らは資力の許す限り、自己の名誉の追求や趣味に基づいて自由に競走馬の生産を試みることができた。また、宮内省や農林省、陸軍省など国営によるものや三菱財閥などが経営する農場は、競走馬の生産牧場としては世界的にみても大規模であったし、上に述べたような趣味的な性格を持つ生産牧場は、所有者の経済力の範囲内で好きなだけ規模を大きくすることが可能だった。 しかし太平洋戦争後に華族制度が廃止され、貴族階級は存在しなくなった。さらに、財閥解体や独占禁止法によって大規模農場が解散するとともに、農地法によって地主制度が改められ、自ら居着いて農業(畜産業)に従事しなければ農牧場の所有者とは認められなくなった。このため、財力があっても「牧場主」となることは法制度上困難である。一方、それまで「大牧場の現地従業員」から、「家族的経営規模の小牧場主」となる者が現れた。こうした牧場は趣味や名誉のためではなく、生計のために競走馬を生産するのであり、事業の採算性向上のため、牧場の経営を合理化し時には規模を縮小する必要があった。こうした小規模経営が戦後の日本のサラブレッドの血統改良に貢献したと指摘する者もいる。これにより現行の日本の法制度の下では、資力があっても趣味目的で競走馬の生産を行うのは極めて困難である。 一方、競走馬を所有するには一般に高い資力を必要とするが、中央競馬の場合、馬主登録の要件として9000万円以上の資産と1800万円以上の継続した所得を要求しており、この「所得」には競馬の賞金は含めることができない。この数値は日本の平均的な所得との比較上、極めて高い基準となっており、他国と比べて競走馬を所有するための大きなハードルとなっている。 さらにこの要件とは別に、競走馬を所有するためには、競走馬の実際の購入代金や維持費を負担する必要がある。日本では現役競走馬の売買は一般的ではなく、競走馬を購入してから実際に賞金を稼ぐようになるまでには数年を要するので、その間、ほかの目的に用いる必要のない潤沢な剰余資金が求められる。これらの費用が税務上の事業経費として計上可能であるならば、例えば競馬以外の所得が2000万円の者が1800万円の競走馬を購入して賞金が全くなかった場合(ここでは維持費はないものとして考えている)には、その年の所得は200万円ということになり、所得税を大幅に抑えることができる。税務上こうした取り扱いが認められている国では、所得税対策の一つとして競走馬への投資が行われている。しかし日本の税法上、5頭以上の競走馬を所有しない限り競走馬の所有に係わる費用は税務上の経費とすることができないが、日本の馬主の平均所有頭数は約2頭であり、このことは多くの馬主が事業ではなく趣味として競走馬を保有していることを示している。 一方、競走馬所有に係わる負担を軽減するために複数の者が1頭に出資して共同馬主となる方法があるが、この場合も現在の日本では共同馬主を構成する個々の馬主がそれぞれ馬主としての要件を満たす必要がある。しかし1970年代頃から、「クラブ法人」を通じて競走馬に出資する一口馬主と呼ばれる方式が考案され、馬主になるための資産を持たない「競馬ファン」でも擬似的な馬主になることができるようになった。 「競馬ファン」は、明治時代から、娯楽として競馬を観戦したり、馬券の購入を伴うギャンブルとして競馬に関わってきたが、数回の「競馬ブーム」の中で、音楽や文芸、さらにはゲームやマンガなどの形で競馬を楽しむ層が登場した。これらの中には、競走馬の生産や所有に関わらないにもかかわらず、競走馬の血統を熱心に研究し、牧場を訪問し、競馬場では特定の競走馬を応援する横断幕を掲げる者もいる。これら一連の文化は他国にはみられない日本独自のものであり、こうした状況を「日本の誇るべき大衆競馬」とする者もいる。詳しくは下記参照。
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