日本を題材にした小説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 06:19 UTC 版)
「エリック・ファーユ」の記事における「日本を題材にした小説」の解説
2010年発表の小説『長崎』は、ロイター通信に転載された日本の三面記事に着想を得た作品である。50代の独身男性が、ある日、台所の食料のストックが減っているのに気づく。ファーユは、このような日常にも彼が好きなロマネスクがあるという。そこで男は、Webカメラを設置して携帯電話で部屋の様子を監視する。これも彼が好きなオーウェルが描いた監視社会の現代版である。こうして、主人公シムラは自宅の押し入れに見知らぬ女性がすでに一年にわたって住み続けていたことを知る。現代の長崎を舞台として、有明海の風景や市街を走る路面電車、日本人の日常が描かれている。『長崎』は2010年アカデミー・フランセーズ小説大賞を受賞した。アカデミー・フランセーズ会員のエレーヌ・カレール=ダンコースは「審査員は作品の独自性に魅了された」と受賞理由を説明した。ファーユは、「重要な一歩になり、書き続けて行く勇気を与えられた。もっとも、書かずに生きて行くなんて考えられないけれど」と語った。『長崎』は日本語を含む世界13か国語に翻訳された。 2016年に発表され、同年邦訳が刊行された『エクリプス』は、北朝鮮による日本人拉致問題を扱った小説である。この事件をロイター通信の仕事で知り、「20・21世紀の悲劇の主人公は、オレステスでもオイディプスでもなく、歴史と政治によって運命を変えられた普通の人々。拉致問題には現代の悲劇が凝縮されている」と感じ、日本と韓国で4か月にわたって緻密な取材を行った。小説の主人公は、新潟市内で中学からの帰宅途中に拉致された「田辺菜穂子」、佐渡で母親と買い物に出た途中で拉致された「岡田節子」らであり、一部の虚構を除き、事件の経緯から拉致被害者の日常まで事実に基づいている。一方で、小説家の感性や想像力によって描かれる被害者の心境などについては、たとえば、北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会の西岡力会長は「胸が苦しくなって先に進めなくなった」と語り、「もちろん小説だから、専門家の立場から見てあり得ないと思える記述も目立つ。だが、それを超えて被害者の精神世界に迫る文学の力がある」と評している。 ファーユは日本文学(川端康成、安部公房)や日本映画(黒沢清、成瀬巳喜男)に詳しい。日本に惹かれる理由について、「はっきり答えられないが、居心地がよい」、「陰と、光らないものに惹かれるからかもしれない」と日本滞在記『みどりの国』に書いている。
※この「日本を題材にした小説」の解説は、「エリック・ファーユ」の解説の一部です。
「日本を題材にした小説」を含む「エリック・ファーユ」の記事については、「エリック・ファーユ」の概要を参照ください。
- 日本を題材にした小説のページへのリンク