振子装置
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 15:25 UTC 版)
先述のように本系列では振子装置を装備しており半径 400 m の曲線における通過速度は本則+20 km/h(高速貨物列車の制限速度より 20 km/h 高い速度)の 90 km/h を実現した。また走行時における乗客にかかる遠心力を軽減することができ、乗り心地を一般の車両よりも向上させた。半径400mの曲線は中央本線や紀勢本線(きのくに線)和歌山 - 紀伊田辺間の標準的な連続曲線半径の数値であり、これらの曲線を走行するとき 90 km/h で連続走行することができる本系列の投入により同区間を走行する特急列車の「しなの」・「くろしお」の所要時間は、曲線を走行するときに減速を強いられる従来車両での所要時間より大幅に短縮することができた。 本系列で採用された振子装置はコロ軸支持式の自然振子装置であり、これはカーブで車体にかかる遠心力によりコロで支持された車体を傾けるものである。591系と異なり心皿移動方式は採用していない。591系での性能試験の結果から、振り子中心高さを上げた方が振り子作用がしやすく乗り心地も良くなることが判明したが、無闇に上げる事は転覆限界の風速値が下がることや、振り子作用による車両限界の接触から来る車内環境の低下を避ける観点から、振り子中心高さは 2,300 mm 、車体最大傾斜角は5度とした。速度が50 km/h以下の時は、機械的に振り子をロックし、動作しないようになっている。 自然振子式では緩和曲線上で徐々に加わる遠心力が振り子装置の静止摩擦力を打ち破った途端、一気に最大限度まで車体が振れるため不自然な揺れを生じることに加え、カーブを走行中に一般の乗客には不慣れな縦方向の荷重が加わるという振子式車両の特性もあり、前述のエチケット袋のほか車掌が酔客のために酔い止め薬を常備していた逸話が残っている。なお、この機構の開発には当時名古屋鉄道管理局に在籍していた山之内秀一郎(後の東日本旅客鉄道副社長・会長)も関わっており、開発に相当苦労した経験から振り子機構の導入には消極的になった、と自著で語っている。 本系列の車両は屋根上にパンタグラフを直接載せているため、振り子装置を動作させるとカーブではパンタグラフの舟体が傾いてしまい架線への当たり方が通常とは変わってしまう。このため振り子装置を作動させて走行する区間の架線は一般の電化路線と架線の張り方を変える必要があり、本形式が導入された路線は電化工事も同時に実施した線区が大半を占める。したがって実際に振子装置を使用する区間は、新規に電化された中央西線・篠ノ井線・紀勢本線・伯備線と山陰本線の一部と、阪和線鳳 - 和歌山間に限られている。それ以外の区間(東海道本線・山陽本線・大阪環状線など)では、架線やATSなど地上の設備が補強されていないので、振子機能を生かした速度向上はなされていない。 「くろしお」用の車両では振子制御の実験が行われた。また1985年には湖西線で高速試験が行われており、同年11月26日には179.5 km/h を達成し、クモヤ93000形が保有していた日本の狭軌鉄道最高速度記録を25年ぶりに更新した。これは現在に至るまで、日本における在来線の最高速度記録である。 JR移行後は在来線の曲線の多い線区に対しては、自然振子式に比べて乗心地が良い制御付き自然振子式や空気ばねによる車体傾斜方式を使用する車両の導入が進められ、自然振子式の営業用鉄道車両は本系列のみとなった。
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