慢性および再発性髄膜炎
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/12 02:42 UTC 版)
髄膜(軟膜、くも膜、硬膜)の慢性炎症は重篤な神経障害を引き起こすことがあり、治療がうまくいかない場合は死に至ることもある。この疾患は通常、特徴的な神経症候群が4週間以上続き、脳脊髄液にて持続的な炎症反応(特に髄液細胞の増加)が見られる場合に診断される。原因は多様であり、適切な治療は病因の同定にかかっている。慢性髄膜炎のほとんどの症例は以下の5つのカテゴリーに分類されている。それは髄膜の感染症、悪性腫瘍、非感染性の炎症性疾患、化学性髄膜炎、髄膜近傍の感染症である。持続性の頭痛(項部硬直の有無にかかわらず)、水頭症、脳神経障害、認知機能や性格変化が主要な所見となる。これらの所見は単一で見られることもあれば、複数が同時に出現することもある。通常は臨床症状から慢性髄膜炎が疑われ、髄液検査により炎症徴候が確認されることで診断される。 診断学的なアプローチをまとめる。慢性頭痛、水頭症、脳神経障害、神経根障害、認知機能の低下がみられる患者には髄膜の炎症を確認するための腰椎穿刺を考慮する。時に髄膜のコントラスト増強により診断されることもある。髄液検査で慢性髄膜炎の診断をしたら、脳脊髄液のさらなる検査、基礎にある感染性または非感染性の全身性炎症性疾患の診断、髄膜生検標本の病理学的検索により原因を同定していく。慢性髄膜炎には2つの臨床病型がある。そのひとつは症状が持続する慢性の病型であり、もう一つは別々の症状を発現する反復性の病型である。後者の場合はそれぞれの症状発現の間の時期には髄液の異常が消失してることがある。このような病型をとるものに関してはHSV2による感染症、類上皮腫、頭蓋咽頭腫、真珠腫の内容物が脳脊髄液に漏出することによる化学性髄膜炎、Vogt-小柳-原田病、ベーチェット病、Mollaret髄膜炎、全身性エリテマトーデスなどの原発性炎症性疾患、違法薬物の反復投与による薬物過敏症などがあげられる。なおベーチェット病に関しては間欠期でも髄液IL-6が高値であることが判明しており、間欠期も検査異常が今後検出できる可能性はある。病歴や臨床徴候が慢性髄膜炎の確定診断では非常に重要である。結核の既往や海外渡航歴などは稀な慢性髄膜炎診断の手がかりとなる。慢性髄膜炎患者の局所的脳徴候の存在は脳膿瘍や髄膜近傍の感染症の可能性を示唆する。髄膜近傍の感染症の可能性を示唆する。髄膜近傍の感染症では、慢性的に排液している耳、副鼻腔炎、右-左の心臓または肺シャント、慢性の胸膜肺感染症など、感染源となりうる所見を同定することが診断の役にたつ。皮膚病変はベーチェット病、クリプトコッカス症、ブラストミセス症、全身性エリテマトーデス、ライム病、静注麻薬の使用、スポロトリクス症、トリパノソーマ症などを疑う根拠となる。リンパ節腫大はリンパ腫、結核、サルコイドーシス、HIV感染、第2期梅毒、ウィップル病の所見である可能性がある。眼科検査によってブドウ膜炎(Vogt-小柳-原田病、サルコイドーシス、中枢神経系リンパ腫)、乾燥性角結膜炎(シェーグレン症候群)、虹彩毛様体炎(ベーチェット病)、水頭症による視力低下なども評価できる。口腔内アフタ、陰部潰瘍、前房蓄膿はベーチェット病を示唆する。肝脾腫はリンパ腫、サルコイドーシス、結核、ブルセラ症を示唆する。陰部や大腿のヘルペス病変はHSV-2を示唆する。胸部の小結節、皮膚の色素沈着、限局性の骨痛、腹部腫瘤がある場合は癌性髄膜炎の可能性を考慮する。 慢性髄膜炎患者の約3分の1は脳脊髄液の検査や神経外病変の検索を行っても診断をつけることができない。また慢性髄膜炎をおこす病原体のいくつかは培養による同定に数週間を要する。慢性髄膜炎をおこす原因疾患の多くは治療法があり、かつ未治療なまま経過すると中枢神経系や脳神経およびその神経根に進行性の障害を生じうる。広く施行されている経験的治療としては抗結核薬、抗真菌薬、特にリポソームアムホテリシンB、非感染性の炎症性疾患に対するステロイド系抗炎症薬、特にステロイドパルス療法である。Mayo Clinicによる報告で最も有効なことが多いのがステロイド投与とされている。癌性髄膜炎やリンパ腫性髄膜炎では当初は診断をつけることが困難であるかもしれないが、時間の経過とともに診断がつけられる。
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