慢性ヒ素中毒の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 04:16 UTC 版)
以前より知られていることだが、第三世界諸国ではヒ素中毒がさまざまな問題を起こしている。硫砒鉄鉱を含む、地学的に新しい河成堆積物からヒ素が溶け出し、地下水を汚染していることがある。この問題は特にバングラデシュで深刻である。バングラデシュの国民の大多数は土地を所有せず、あるいは洪水の危険が高い低湿地にすんでおり、衛生状態はきわめて悪い。このため、水を媒介として、コレラや赤痢などの流行がたびたび発生している。こうした状況を改善するため、国際機関が活動を行っている。特に飲用水の衛生状態の改善のため、井戸の整備を独立後に進めてきたが、多くの井戸が元来地層中に存在したヒ素に高濃度に汚染され、新たな問題となっている。全土の44%、5300万人が発癌を含むヒ素中毒の危険にさらされていると考えられている。この原因は1970年代以降に作られた掘り抜き井戸が河成堆積物層から水を得ていることによる。WHOの基準値は10 ppb以下なのに対し、この井戸水の濃度はその1000万倍にも達する場合がある。ドイツ、フランス、イタリアでは、ぶどう栽培に砒素を含む殺虫剤により、ぶどう酒を大量に飲む人々の間で発生したことは有名である。 日本では、島根県笹ヶ谷鉱山の公害や宮崎県の土呂久鉱山周辺における土呂久砒素公害などで鉱業従事者や付近住民への健康被害が公害として問題となった。飲用水の汚染による場合が多いが耳鼻科的症状もあり、工場活動時の煙害も考えられている。ヒ素混入による公害としては森永ヒ素ミルク中毒事件が有名である。最初は急性ヒ素中毒であったが、現在では慢性ヒ素中毒の症状を呈している。ヒ素を含む井戸水を使用する所にも単発性に発生した報告は多い。急性の時期が経過し、慢性ヒ素中毒の症状も報告されている。特殊な場合、毒ガスを製造する場所や、兵器としての毒物を捨てた所に発生することもある。昔は梅毒にサルバルサンなどヒ素が使われていたが、医薬品としてのヒ素からは比較的報告は少ない。ダートマス大学の薬理学・毒物学名誉教授のロジャー・スミス(Roger Smith)は 、人為的では無いものの、ニューハンプシャーでも井戸水のヒ素汚染が起こっていることを確認した。低濃度であっても慢性的にヒ素を摂取しつづけるとバングラデシュの場合と同様に腫瘍を生じる恐れがある。
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