恒星の物理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/13 10:37 UTC 版)
理想気体の状態方程式が示す通り、ガス体の天体は重力に対抗するために内部が高温・高圧にならなければならない。しかし、その一方で宇宙空間の温度は3Kにすぎず、必ずエネルギーが全方位に流れ出ることになる。これが恒星が輝く理由であり、そのためにエネルギーを供給する源が必要になる。 そのエネルギー源は誕生直後の恒星では自己の重力収縮であるが、やがて水素の原子核融合をエネルギー源とするようになり、一生のほとんどをその状態で過ごす。重い恒星では、一生の終わり近くになると核融合する元素を水素からヘリウムへ変え、順次原子番号の大きな元素を使うようになり、その過程で収縮と膨張を繰り返す。 恒星は水素やヘリウムをおもな成分としたガスの塊である。恒星の中心部では、原子核融合によりエネルギーが生み出されており、中心から表層へかけて密度・温度が次第に減少する構造になっている。これによって恒星の内部には圧力差が発生し、多くの場合は自己の重力による圧縮との釣り合いが保たれている。また、熱エネルギーは高温部から低温部へ移動するため、中心部で発生した熱は放射・対流によって表層へ向けて運ばれ、最終的には光エネルギーとして宇宙空間に放出される。 恒星は惑星と比べて質量が大きく表面温度も高い。人類にとってもっとも身近な恒星である太陽は、地球の33万倍の質量と109倍の半径、5,780K(5,510℃)の表面温度を持つ。太陽系最大の惑星である木星と太陽を比べても、質量は1,000倍、半径は10倍の差がある。 恒星の性質にはさまざまなものがあるが、太陽のように安定した段階にある恒星(主系列星)では、質量が大きいほど半径が大きく高温になるという単純な関係が見られる。たとえば太陽と同じ質量の主系列星はいずれも太陽と似た半径や温度を持つことになり、太陽の7倍の質量を持つスペクトル型B5の主系列星では、半径は太陽の4倍、温度は1万5,500K前後になる。ただし恒星が主系列星から脱して巨星化すると温度の低下と半径の膨張が起き、この法則から逸脱する。 質量が太陽の8%程度より小さい天体は、中心部が軽水素の核融合反応が起きるほど高温にならないため、恒星ではなく褐色矮星に分類される。この値は恒星質量の下限値といえる。また、質量が太陽の100倍を超えるような恒星も強烈な恒星風によって自らを吹き飛ばしてしまうため、形成されうる恒星の質量には上限が課せられる。 褐色矮星と恒星の境界付近の質量を持った恒星では、半径は太陽の10分の1程度になる。主系列星段階を終えた恒星は非常に巨大化し、例えばおおいぬ座VY星という赤色超巨星は太陽の1,000倍を超える半径を持つと考えられている。太陽自体も数十億年後に巨星の段階を迎えると現在の100倍以上にまで膨れ上がると予想されている。 恒星が誕生する際には、質量の小さい恒星ほど形成される可能性が高い。銀河系に存在する恒星の大部分は、太陽より質量の小さいK型やM型の主系列星だと考えられている。しかし低質量の星は暗いために地球に近いものしか観測できない。夜空に見える明るい星の多くは、遠くにある大質量の主系列星や赤色巨星などの数量的には稀だが極端に明るい天体の姿である。 恒星は、質量の10分の1ほどの水素原子がヘリウム原子に変わるまで、主系列星でいる。
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