市町村名に取った旧国名
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/11 16:15 UTC 版)
市町村の中には、属する国の名をそのまま名乗るものがある。明治時代以前の日本には、国の中に国と同じ名を持つ郡はあっても、同じ名を持つ町や村は存在しなかったので、そのほとんどは近代以降に作られた新地名ということになる。 旧国名を名乗る条件は特にないが、当該市町村の中にかつて国府や一宮が存在したことや、国名と同名の郡であることなどが暗黙のうちに条件とされる傾向がある。しかし、これらの条件を何ら満たさない事例も多数あり、特に平成の大合併期には、その名称決定に論争が起きた事例も少なくなかった。その際、命名を正当化する理由としてよく挙げられるのが「妥協案が他にない」というものであり、命名時に特定の市町村を優遇しないための妥協的名称としての側面も持っていると言える。 釧路市、出雲市、北見市、備前市、長門市、美濃市、伊勢市、筑後市、豊前市、日向市、和泉市、根室市、土佐市、加賀市、摂津市、石狩市、播磨町が古い例で、平成年間(20世紀末)からさらに増加し、伊豆市、伊豆の国市、甲斐市、下野市、飛騨市、越前市、伊賀市、志摩市、丹波市、淡路市、美作市、阿波市、若狭町が加わった。なお、摂津市と土佐市はそれぞれ町政施行時の名称が三島町と高岡町であり、既存の市名との重複回避が市制施行時に旧国名を採用した理由となっている。このような場合でも、ただ「出雲」や「長門」などとだけ言えば出雲国や長門国を指すことになる、あるいは何を指すのか判然としないので、その市町村を指すときには常に「市」や「町」を付けるのが通例であるが、地域名として用いられることがほとんどなくなっている場合にはその限りではない(「摂津」など)。また、北海道の根室市・北見市・石狩市・天塩町等については旧国名を使用していた期間が短かったことから、逆に「国」を付けない場合は現存する自治体の方を指すことが多い(但し、釧路市は高知県土佐市と土佐町のケース同様、同名の釧路町と区別するために「市」を付ける)。 文字面を変えて実質的に旧国名を取ったものにはむつ市、いわき市、さぬき市、奥州市、甲州市がある。なお、日立市は常陸国に位置するが「常陸」の国名は「日高見国(東北地方の旧称)への道」を表す「ひたかみのくにへのみち」が「ひたち」へ転訛し、徳川光圀が現在の日立市一帯において朝日が昇る様の見事さを讃えて「日立」の当て字をしたことに由来すると言われている。 国名と一致する郡名をその郡の一部が名乗ったものには、伊予市、土佐町、さつま町(旧薩摩町)などがある。これらはみな広域地名をその一部を占める市町村が取ったものである。 以上と異なり、合併によって旧国の範囲と完全に一致するようになって付けられたのが、佐渡市、対馬市、壱岐市である。いずれも島全体が一つの国であったもので、明治以降に分割され発足した市町村が平成の大合併により再び一島一自治体に集約された結果である。 離れたところにある国と同じ地名の市町村もある。埼玉県の日高市は諸説有るが日和田山と高麗郡の頭文字を取ったもので北海道南部の日高国(或いは、その国名の由来となった日高見国)とは関係せず、高知県の安芸市も土佐国安芸郡が由来であり広島県西部の安芸国とは関係しない。一方、群馬県(上野国)伊勢崎市と神奈川県(相模国)伊勢原市は共に伊勢神宮の分社を当地に建てたことに由来する名称であり、間接的ながらも伊勢国に関連している。 大和市、大和町、大和村はまた異なる事情を持つ。「大和」はとりわけ戦前における町村合併時の新地名として人気があった名で、旧国の大和国ではなく、日本の別称としての「大和」を町村が名乗ったものである。 なお政令指定都市の区としては、安芸区(広島市)、駿河区(静岡市)がある。
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