実験への疑義および新事実の判明
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/01 08:15 UTC 版)
「スタンフォード監獄実験」の記事における「実験への疑義および新事実の判明」の解説
殺人未遂により17年間サン・クエンティン州立刑務所へ服役していた経験を買われ、本実験の監修で参加したカルロ・プレスコットという人物が、スタンフォード大学の学生新聞The Stanford Daily2005年4月28日号にOp Ed(特別記事)として寄稿し、本実験の映画化の話があること、実験開始の数か月前にバケツをトイレに使うことなどをジンバルドーらに提案したこと、看守役たちは単にジンバルドーらの指示に従って行動していたこと、現実の刑務所の環境改善につながればと考えて実験に参加したことなどを明かしている。2018年にジンバルドーはこの記事に対して、記事を執筆したのはプレスコット本人ではなく、本実験の映画化権を狙っていたが叶わず、後にジンバルドーを批判するようになったマイケル・ラザルー(英語版)という映画プロデューサーが腹いせに行ったことであると反論している。 2018年、デジタル化された看守役たちの会話録音が議論を巻き起こした。刑務所長役として参加したデイヴィッド・ジャフィーが、看守役の1人に対して実験結果のためにもっと実験に参加しもっと荒々しくふるまうようにと伝えている部分が特に物議を醸した。ジンバルドーはこの議論にも反応し、看守役たちに指示したことについて本実験での看守役は現実と比べてマイルドであり、本物の看守や軍隊はもっと厳しく、職務怠慢は上司から呼び出されたり、降格または解雇の対象となる、と反論している。 2013年、ボストン・カレッジの教授で心理学者のピーター・グレイによって、本実験は要求特性(英語版)であり、心理学の実験に参加した者は往々にして研究者が望むような行動をとりがちであることが指摘され、特にスタンフォード監獄実験は研究者らの持っていたステレオタイプ化された看守像が反映された、という批判が行われた。また、自ら執筆した初学者向けの心理学の教科書に本実験を含めなかったのは、本実験が科学的な厳密さに欠けるからであることを明らかにしている。 ジョン・ウェインというあだ名で呼ばれたデイヴ・エシェルマンという看守役は、自らが1967年公開の映画暴力脱獄に登場する看守をまねたことが他の看守役らの行動がエスカレートした原因であると主張している。ただ、あだ名に反して彼がまねていたのは映画内で暴力的な看守を演じていたストローザー・マーティンである。彼によれば「私の頭に浮かんだのは、これは偶然ではなかったということだ。これは計画されたことだ。私は明確な成案を心にもって、研究者たちが仕事をできるよう行動を強制し、事件が起こるよう強制し事に当たった。結局、ゴルフ場にいる人みたいに動き回っているだけの奴らから何が学べるのだろうか?そこで私は、高校や大学の演劇部が製作する劇のすべてに出演している人というキャラクターをでっち上げた。これには私はとてもなじみがあった。つまり、役を引き受けて舞台に立つようなものだと考えたわけだ。私はある種自分自身の実験をそこで行っていた。古い言い習わしにあるように、どれくらいこれらを極端に誇張できるか、やめろと言うまで人を酷使できるだろうかということである。しかしながら、他の看守役らは私を引き留めようとしなかった。それどころか私と同じことをしたいようだった。彼らは率先して行っていた。何人かの看守役がこんなことをすべきではないと言っていた。」と発言している。ジンバルドーはこの発言にも反論し、エシェルマンの行動はただ与えられた役をこなしているとは言えない程であり、他の看守役たちの行動は実際の刑務所の看守と著しい相似があり、人間の本質について重要なことを我々に教えてくれると反論した。 2002年、クイーンズランド大学の教授で心理学者のアレックス・ハスラム(英語版)、セントアンドルーズ大学の教授で社会心理学者のスティーヴ・ライヒャー(英語版)の2人は、英国放送協会の後援を得て、本実験の再現としてBBC監獄実験を行い、その結果を2006年に公開した。結果はジンバルドーのそれとは異なっており権威主義的パーソナリティや非個人化といった点がみられず、暴政やストレス、リーダーシップを扱った学術雑誌上で論争を呼んだ。BBC監獄実験はイギリス国内では一般教育修了上級レベルの高等教育で行われる心理学で核となる研究として扱われている。ハスラムとライヒャーはまた、ジンバルドーの実験結果に対し更なる疑義を投げかけた。特に、人が盲目的に役にはまってしまうという考えや、悪の力学といったアイデアは決してありふれたものではないと結論付けている。
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