夢語り
★1.良い夢を見たら、それが実現するまでは人に語ってはならない。
『源氏物語』「若菜」上 明石の入道は、娘・明石の君が生まれる少し前に吉夢(*→〔太陽と月〕8)を見た。入道はその夢を心に秘めて、明石の君を育てる。30数年が過ぎ、明石の入道の曾孫として、将来の帝となるべき皇子が誕生した。これは、かつて見た夢の実現だった。明石の入道は、夢の内容を打ち明ける手紙を明石の君に送り、「光いでむ暁(=皇子の即位の日)近くなりにけり今ぞ見し世の夢語りする」の歌を書き添えた。
『夢見小僧』(昔話) 節分の夜に良い夢を見た小僧が、その内容を言わなかったために家を追われる。小僧はさまざまな冒険の後に2人の長者の娘の命を救い、両家の婿となる。小僧は半月ごとに2人の妻に送り迎えされる身の上となり、両家の間にかけた金のそり橋の渡りぞめをして、「このありさまを夢に見たのだ」と、はじめて語る(福井県遠敷郡名田庄村西谷)。
*良い夢も悪い夢も、一定期間、人に語ってはならない→〔夢の売買〕1の『曽我物語』巻2。
*皆から「どんな夢を見たか?」と聞かれて、「夢など見ない」と否定し続ける男→〔円環構造〕5の『天狗裁き』(落語)。
*夢の内容を盗み聞きされてしまう→〔夢の売買〕2の『宇治拾遺物語』巻13-5。
★2.良い夢を語って、悪く夢合わせされると、夢が実現しない。
『大鏡』「師輔伝」 九条殿師輔公は若い頃に吉夢を見たが、お付きの女房に悪く夢合わせされたために、夢は実現しなかった(*→〔のりなおし〕3)。子孫にも不幸なことが起こり、曾孫の伊周(これちか)が筑紫へ配流されたのも、この女房の夢合わせが悪かったゆえであろう。「すばらしく縁起の良い夢も、悪く合わせるとはずれる」と、昔から言い伝えている。ものの道理のわからない人の前で、軽率に夢の話などをしてはいけない。
★3.悪い夢を見た時、その日のうちに人に語れば、夢は実現せずにすむ。
『二老人』(武者小路実篤) セムシの老画家・野中英次は、ある日の暁方に、「首に縄をまきつけられた妻の死骸が椅子にかけている」という悪夢を見た。彼は、「夢をその日のうちに人に話せば夢の魔力はなくなる」と母から聞いていたが、まさか妻に話すわけにはいかない。そこへ折りよく山谷五兵衛が訪れたので、野中は山谷に夢を語った〔*「良い夢は3日黙っていないと効き目がなくなる」とも野中は言う〕。
*野中英次は若い頃、最初の妻・千代子を殺した→〔兄弟〕6bの『愛慾』。
『現代民話考』(松谷みよ子)4「夢の知らせほか」第1章の1 昭和57年(1982)のこと。「自分」は次のような夢を見た。「妹が遊びに出たまま帰らず、夜中にようやく帰宅した。玄関に立った妹は全身血だらけで、顔は無残にグシャグシャだった。妹は『さよなら』と言って、すうっと消えた」。朝、目覚めてから、「自分」は誰にも夢の内容を話さなかった。それがいけなかったのかもしれない。その日、妹は交通事故に遭い、顔を傷つけてしまった(岩手県盛岡市)。
★5.夢で見た虫の話をしていたちょうどその時、現実にその虫が現れた。
『自然現象と心の構造』(ユング/パウリ)第1章 「私(ユング)」が治療していたある婦人は、治療過程の決定的な時期に、黄金の神聖甲虫を与えられる夢を見た。彼女がその夢を「私」に話していた時、背後でトントンと音が聞こえた。振り返ると、1匹の虫が外から窓ガラスをノックしている。「私」は窓を開け、入って来る虫をつかまえた。それは神聖甲虫に良く似た黄金虫であり、通常の習性に反して、明るい屋外から暗い部屋へ入りたがっていたのだ→〔偶然〕7。
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