四方木工区本坑工事と1回目の出水事故
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「中山トンネル (上越新幹線)」の記事における「四方木工区本坑工事と1回目の出水事故」の解説
四方木工区では立坑着工以来5年10か月を要して、1977年(昭和52年)12月にようやく本坑掘削工事に着手した。四方木立坑の本坑基面高さ付近には八木沢層が存在して、その湧水が立坑の工事に大変な障害となったが、本坑周辺の地質は地上からのボーリング調査だけでは把握することが困難であった。そのため立坑坑底設備を準備している段階から、周辺に対して水平ボーリングを実施して地質調査を行い、下り列車に対して本線右側(東側)に堅固な閃緑玢岩が存在することが判明した。そこで工期を短縮するため、本坑東側の堅固な岩盤に迂回坑を掘って八木沢層を迂回し、隣接工区と連絡を図るとともに注入作業を行う基地を増やすことを狙った。こうして本坑の掘削と並行する形で、1978年(昭和53年)4月に迂回坑に着手された。 迂回坑は大宮起点106 km759 m40の地点から分岐し、四方木立坑から東へ伸ばしてその先で曲がり、新潟方は100 m、大宮方は140 m本坑から下り列車に対して右側に離れた位置を本坑に平行に伸ばして行った。当初はこのまま伸ばして本坑へ戻るようにする計画であったが、前方をボーリングで探りながら掘削していき、八木沢層があることが判明すると迂回するように曲げたため複雑な経路となった。新潟方の迂回坑は1979年(昭和54年)2月23日、全長822.9 mで本坑大宮起点107 km394 m74の地点に到達して完成した。また迂回坑より本坑に近いところに、本坑に対する注入を行うための注入基地を建設する工事を行った。 こうして迂回坑と本坑を並行して作業を行っていた1979年(昭和54年)3月18日に出水事故が発生した。この時点で新潟方は、迂回坑が本坑へ到達し、その先大宮起点107 km481 mの地点まで掘削が進んでいた。また立坑から直接新潟方への本坑は106 km804 m地点に到達していた。これに対して大宮方は、本坑が106 km661 m地点、迂回坑が410.4 m(本坑の位置にして106 km455 m地点)まで掘削が行われていた。 出水事故を起こしたのは、本坑掘削予定地点に対して側面から薬液注入を実施するために、新潟方迂回坑から分岐して掘削した注入基地であった。1979年(昭和54年)2月21日までに107 km086 m地点まで掘削した時点で、やや風化した岩盤が現れてきたために掘削を中止し、その地点で注入基地を設置する準備を進めていた。この時点では湧水はほとんどなかった。しかし3月16日になり100リットル/分ほどの湧水が発見されたため補強作業が開始された。17日には湧水が2トン/分に増加したこともあり、コンクリート覆工を行うことにし18日にその用意が整った。21時30分に確認した時点ではまだ湧水量は2トン/分程度であったが、22時に確認した時点では80トン/分にも及ぶ濁流が溢れだしていた。ただちに作業員の非常呼集がかけられ、51名の作業員が現場に急行して出水の阻止作業をしようとした。しかし出水現場の注入基地にたどり着くのも困難な状況で、そのうちに照明が消えたことから現場へ行くのを断念し、ポンプ室と変電施設の死守に方針を切り替えた。それでもあまりに水量が多く、水が止水壁を越えてポンプ室に流れ込み始めたため、23時45分に退避指令が出された。ところが、ポンプ室への浸水により電気系統がショートしており、立坑のエレベーターは動かなくなっていた。さらに立坑内の揚水ポンプの機能が停止したため、中継ポンプ室から溢れた水が滝のようにエレベーターに降り注ぎ、エレベーター内は大混乱に陥った。 地上では非常用発電機が立ち上がったが、坑内で電気系統がショートしているためすぐに停止してしまい、電気系統の切り替えが必要とされた。担当している電気主任は渋川市内の自宅におり、緊急連絡を受けて現地へ自動車で駆け付けた。この際に、現場までの山道を全速で走ったためにパトカーの追跡を受け、それを振り切って現地へ駆けつけるほどであった。電気主任の系統切り替え作業により3月19日0時25分にエレベーターが動き始め、かろうじて51名は無事救出された。朝の8時35分の時点で、立坑の底から約250 mのところまで水位が来て安定していることがわかり、四方木工区は完全に水没してしまった。 出水事故の原因は、注入基地建設の際にボーリングで八木沢層までの間隔を確認して掘削を止める位置を決めた際、間隔を4 m程度確保したつもりであったが、ボーリングの間隙に被りが薄くなっている地点があり、そこが水圧に耐えられなくなって崩壊し水が噴出したものと推定された。
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