周期環と数論幾何学における比較同型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/22 23:46 UTC 版)
「p進ホッジ理論」の記事における「周期環と数論幾何学における比較同型」の解説
フォンテーヌは、BdR(英語版)、Bst(英語版)、Bcris(英語版)、BHT(英語版)といった GK の作用(英語版)とある種の線形代数的構造を持つ周期環と呼ばれる環をつくり、周期環 B と p 進表現 V に対して、いわゆるデュドネ加群 D B ( V ) = ( B ⊗ Q p V ) G K {\displaystyle D_{B}(V)=(B\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}V)^{G_{K}}} を考えるという p 進ホッジ理論の研究手法を考案した。デュドネ加群は GK 作用は持たないが、線型代数的構造を B から受け継いでおり、 特に固定体 E := B G K {\displaystyle E:=B^{G_{K}}} 上のベクトル空間になっている。この記号を使ってフォンテーヌによる B 許容表現(英語版)の理論に当てはめることにより、先の p 進表現の部分圏は定義される。すなわち、* を HT、dR、st、crisのいずれかとすると、圏 Rep∗(K)は周期環 B∗ に対して dim E D B ∗ ( V ) = dim Q p V {\displaystyle \dim _{E}D_{B_{\ast }}(V)=\dim _{\mathbf {Q} _{p}}V} が成り立つ、もしくは、同じことであるが、 比較射(英語版) α V : B ∗ ⊗ E D B ∗ ( V ) ⟶ B ∗ ⊗ Q p V {\displaystyle \alpha _{V}:B_{\ast }\otimes _{E}D_{B_{\ast }}(V)\longrightarrow B_{\ast }\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}V} が同型写像となるような p 進表現 V 全体からなる圏として定義される。 この定式化と周期環という名前は、 数論と複素幾何学における比較同型写像に関連した研究結果と予想に起源を持つ: X を複素数体 C 上の固有かつ滑らかな なスキームとする。X の C 上の代数的ド・ラームコホモロジー(英語版) と X(C) の特異コホモロジー の間には古典的な比較同型写像 H d R ∗ ( X / C ) ≅ H ∗ ( X ( C ) , Q ) ⊗ Q C {\displaystyle H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/\mathbf {C} )\cong H^{\ast }(X(\mathbf {C} ),\mathbf {Q} )\otimes _{\mathbf {Q} }\mathbf {C} } が存在する。この同型写像は、微分形式をサイクルに沿って積分することで定義される代数的ド・ラーム・コホモロジーと特異コホモロジーのペアリング(英語版)を考えることにより定義される。この積分の積分値は周期(英語版)と呼ばれる複素数であるが、一般には有理数にはならない。これが、比較同型写像の定式化で特異コホモロジーに C をテンソルすることが必要な理由である。複素数体 C は代数的 ド・ラームコホモロジーと特異コホモロジーの比較同型に必要な全ての周期を含んでいるので、そのことに鑑みて C をこの古典的な状況での周期環と呼んでもよいだろう。 60年代半ば、テイトは、K 上の固有かつ滑らかなスキーム X に対して、同様の同型写像が代数的ド・ラーム・コホモロジーと p 進エタール・コホモロジーの間に存在するだろうと予想した(ホッジ・テイト予想(英語版)、CHT とも表記される)。予想を述べるためにいくつか記号を導入する。CK を K の代数的閉包の 完備化(英語版)、CK(i) を CK に GK を g·z = χ(g)ig·z で作用させたもの(χ は p 進円分指標(英語版)、i は整数)、そして B H T := ⊕ i ∈ Z C K ( i ) {\displaystyle B_{\mathrm {HT} }:=\oplus _{i\in \mathbf {Z} }\mathbf {C} _{K}(i)} と置く。テイトの予想とは、GK 作用を持つ次数付きベクトル空間としての同型 B H T ⊗ K g r H d R ∗ ( X / K ) ≅ B H T ⊗ Q p H e ´ t ∗ ( X × K K ¯ , Q p ) {\displaystyle B_{\mathrm {HT} }\otimes _{K}\mathrm {gr} H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/K)\cong B_{\mathrm {HT} }\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}H_{\mathrm {{\acute {e}}t} }^{\ast }(X\times _{K}{\overline {K}},\mathbf {Q} _{p})} が存在し、かつこれは関手間の同型射となるであろうというものである( g r H d R ∗ {\displaystyle \mathrm {gr} H_{\mathrm {dR} }^{\ast }} はド・ラーム・コホモロジーのホッジ・フィルトレーション(英語版)に随伴する次数付き環)。テイトをはじめとする多くの数学者の貢献ののち、この予想はゲルト・ファルティングスによって80年代後半に証明された。 p 進体 K 上の良い還元を持つアーベル多様体 X に対して、 アレクサンドル・グロタンディークはテイトの定理を次のように再定式化した。すなわち、X の特殊ファイバーの クリスタリン・コホモロジー H1(X/W(k)) ⊗ Qp (フロベニウス自己準同型の作用と(K をテンソルしたときの)ホッジ・フィルトレーション付き)と、 p 進エタール・コホモロジー H1(X,Qp) (K のガロア群の作用付き)は、同じだけの情報を持つ、と。この2つのコホモロジーは X の p 可除群(英語版)を同種を除いて決定するだけの情報を持っている。グロタンディークは p 進体上の良い還元を持つ全ての代数多様体に対して p 進エタール・コホモロジーからクリスタリン・コホモロジーを得る直接的な方法と、その逆の方法があるはずだと予想した。グロタンディークが予想したこの関係は神秘関手(ミステリアス関手とも呼ばれる)として知られるようになった。 ホッジ・テイト予想を、ド・ラーム・コホモロジーに随伴する次数つきの対象からド・ラーム・コホモロジーそのものに対する予想に改善するために、フォンテーヌはフィルターつき(英語版) の環 BdR であって、随伴する次数つき代数が BHT となるものを作り出した。そして、K 上の固有かつ滑らかなスキーム X に対して、GK 作用とフィルター付きのベクトル空間としての同型 B d R ⊗ K H d R ∗ ( X / K ) ≅ B d R ⊗ Q p H e ´ t ∗ ( X × K K ¯ , Q p ) {\displaystyle B_{\mathrm {dR} }\otimes _{K}H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/K)\cong B_{\mathrm {dR} }\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}H_{\mathrm {{\acute {e}}t} }^{\ast }(X\times _{K}{\overline {K}},\mathbf {Q} _{p})} が存在するだろうと予想した。この予想はCdR と呼ばれている。複素数体上における特異コホモロジーの比較同型と照らし合わせると、BdR は代数的ド・ラーム・コホモロジーと p 進エタール・コホモロジーの比較に必要とされる全ての(p 進)周期を含んでいる環だと思うことができる。これが BdR が p 進周期の環と呼ばれる所以である。 同様に、グロタンディークの神秘関手を説明する予想を定式化するために、フォンテーヌは GK 作用と"フロベニウス" φ を持ち係数を K0 から K に拡大するとフィルトレーションを持つ環 Bcris を作り出した。そして、 K 上の良い還元をもつ固有かつ滑らかなスキーム X に対して、φ と GK の作用と係数を K に拡大したときのフィルトレーション付きベクトル空間としての同型 B c r i s ⊗ K 0 H d R ∗ ( X / K ) ≅ B c r i s ⊗ Q p H e ´ t ∗ ( X × K K ¯ , Q p ) {\displaystyle B_{\mathrm {cris} }\otimes _{K_{0}}H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/K)\cong B_{\mathrm {cris} }\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}H_{\mathrm {{\acute {e}}t} }^{\ast }(X\times _{K}{\overline {K}},\mathbf {Q} _{p})} が存在するだろうと予想した。ここで、 H d R ∗ ( X / K ) {\displaystyle H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/K)} にはクリスタリン・コホモロジーとの比較を使って φ 作用を持つ K0 ベクトル空間としての構造をいれている。この予想は Ccris と呼ばれる。予想 CdR と 予想 Ccris はファルティングスによって証明された。 X を K 上の(良い還元をもつ)固有かつ滑らかなスキームとし、V をその i 次の p 進エタール・コホモロジー群から得られる p 進ガロア表現とすると、これら2つの予想を前述の B∗ 許容表現の考え方にあてはめることにより、 D B ∗ ( V ) = H d R i ( X / K ) {\displaystyle D_{B_{\ast }}(V)=H_{\mathrm {dR} }^{i}(X/K)} が成り立つことが分かる。このことから、デュドネ加群とは V に関係のある他のコホモロジーだという見方もできる。 80年代後半、フォンテーヌとウーヴェ・ヤンセンは X が準安定還元(英語版)を持つ場合の比較同型について予想を立てた。この予想は Cst と呼ばれている。予想の定式化のために、フォンテーヌは、環 Bst であって、GK と"フロベニウス" φ が作用し、(p 進対数(英語版)の延長を一つ固定し、さらに)係数を K0 から K に拡大するとフィルトレーションを持ち、そして"モノドロミー作用素" N を持つものを作り出した。準安定還元をもつ X のド・ラーム・コホモロジーには、兵藤治により創始されたログ・クリスタリン・コホモロジー(英語版)との比較を使って φ の作用とモノドロミー作用素を定義できる。予想 Cst は、φ 作用、GK 作用、K に係数拡大したときのフィルトレーション、そしてモノドロミー作用素 N を持つベクトル空間としての同型 B s t ⊗ K 0 H d R ∗ ( X / K ) ≅ B s t ⊗ Q p H e ´ t ∗ ( X × K K ¯ , Q p ) {\displaystyle B_{\mathrm {st} }\otimes _{K_{0}}H_{\mathrm {dR} }^{\ast }(X/K)\cong B_{\mathrm {st} }\otimes _{\mathbf {Q} _{p}}H_{\mathrm {{\acute {e}}t} }^{\ast }(X\times _{K}{\overline {K}},\mathbf {Q} _{p})} が成り立つだろうというものである。この予想は90年代後半に辻雄によって証明された。
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