同種事件との比較
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/26 07:19 UTC 版)
「司ちゃん誘拐殺人事件」の記事における「同種事件との比較」の解説
『朝日新聞』記者の荒木高伸は、死刑選択基準を明示した「永山裁判」の最高裁判決(1983年7月)について言及した上で、本事件の加害者Kと、1984年(昭和59年)に発生した泰州くん誘拐殺人事件の被告人T(1991年に死刑確定)を比較し、両事件(子供の誘拐殺人事件)の控訴審で量刑判断が分かれた理由について考察。「犯行動機は事業の失敗を発端としたKより、遊興費でサラ金から借金を重ねたことを発端とするTの方が悪質だろう。しかし、量刑判断の上で重視される『計画性の有無』という点では、Kより偶発性の強かったTの方が明らかに有利なはずだ」と指摘した上で、「量刑判断が分かれた理由は、死刑という極めて特殊な刑罰に対する、裁判官の微妙な姿勢の違いからかもしれない」と考察している。 近藤昭二 (2008) は、本事件と1963年(昭和38年)に発生した吉展ちゃん誘拐殺人事件(加害者の小原保は死刑が確定)を比較し、両事件の類似性を指摘した上で、Kが死刑を免れた理由について、計画性が低かったことを挙げている。また、森炎 (2011) は、本事件から約4か月後(1980年12月)に発生した名古屋女子大生誘拐殺人事件(死刑が確定)と本事件を比較し、両者の判断が分かれた理由について考察。死刑が確定した名古屋の事件では、犯人が被害者を誘拐直後(最初の身代金要求の電話を掛ける前)に殺害していた一方、本事件ではKの計画が場当たり的で、犯行着手前にもいったんは誘拐を思い直していたことや、誘拐後も2日間はAの面倒を見ながら過ごし、殺害を躊躇していたことなどが考慮された旨を挙げている。 司法研修所 (2012) は、1970年度(昭和45年度)以降に判決が宣告され、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)の30年間にかけて死刑や無期懲役が確定した死刑求刑事件(全346件/うち193件で死刑が確定)を調査し、殺害された被害者が1人の殺人事件(強盗殺人は含まない)で死刑が確定した事件は全48件中18件(全体の38%)と発表している。本事件のような身代金目的の誘拐殺人(全10件)の場合、5人の死刑が確定した一方、本事件の加害者Kを含む5人の無期懲役が確定しているが、以下のように、死刑になった5事件の大半(泰州くん誘拐殺人事件を除く)は、拐取直後に被害者を殺害することを事前に計画していた事案だった一方、無期懲役が確定した5事件は、いずれも拐取前に殺害を計画していた事案ではなかった。その点を踏まえ、司法研修所 (2012) は、「身代金目的の誘拐殺人は、一般的に、事前に犯行計画が練り上げられ、実行のための準備が整えられることが多いが、事前に被拐取者の殺害が計画されている場合には、被拐取者の生命侵害の危険性が極めて高く、その行為が生命を軽視した度合いが大きいことが考慮されているものと思われる。」と、永田憲史 (2010) は「殺害の計画性がなくとも、誘拐後短時間のうちに殺害した場合には、殺害の計画性があった者に準じて扱われると言ってよい。」とそれぞれ評価している。 身代金目的の誘拐殺人(被害者1人)における量刑死刑確定事件無期懲役確定事件事件事前の殺害の計画性事件事前の殺害の計画性日立女子中学生誘拐殺人事件 拐取直後に被害者を殺害することを事前に計画していた。 本事件 いずれも拐取前から殺害を計画していた事案ではなかった。ただし甲府信金OL誘拐殺人事件の被告人は、犯行着手前から漠然とではあるものの、犯行発覚防止のため、被害者の殺害も考えていたとされる。 名古屋女子大生誘拐殺人事件 山梨県武川村主婦誘拐殺人事件 泰州くん誘拐殺人事件 計画性は低いが、誘拐から1時間半後に被害者を殺害し、身代金を要求した。殺害動機は「足手まといになる」との理由だったが、控訴審では「被害者の誘拐を決意した後の被告人の行動に照らすと、まさに計画的犯行に比すべきものがあると思料される」と評価されている。 甲府信金OL誘拐殺人事件 裕士ちゃん誘拐殺人事件 拐取直後に被害者を殺害することを事前に計画していた。 名古屋中国人女性誘拐殺害事件(2被告人) 熊本大学生誘拐殺人事件 なお戦後、山梨県内における身代金目的誘拐事件は本事件を含め、1963年(甲府市における幼女誘拐事件)から、1993年(平成5年)に発生した甲府信金OL誘拐殺人事件までに計4件発生しているが、1963年の事件を除き、いずれも被害者は殺害されている。被害者が殺害された3件は、いずれも報道協定締結事件で、最終的には3件とも無期懲役が確定している。
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