印章にまつわる信仰や迷信
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 04:42 UTC 版)
古代より、印章は信仰や迷信と無関係ではなかった。古代メソポタミアから発祥した印章は元々魔除けや宗教的な意味を持つ護符であったと考えられている。古代エジプトでは、神聖な昆虫として宗教上のモチーフとなったスカラベ(フンコロガシ)が、指輪型印章の台座としてあしらわれた。中国の印章も、神秘的な力によって封をしたものを守るという発想から生まれたといわれる。 近世の日本においては、安倍晴明の陰陽道をルーツと称して印影の吉凶を占う印相学が江戸時代初期に隆盛し、『易経』の観点から見て縁起が良いとされるように画数や空穴の数を調整した花押のデザインが、晴明の系譜である土御門家に依頼されるようになる。1732年には土御門家で占いを学んだとされる大聖密院盛典が著した花押に関する『印判秘訣集』という書物が大衆向けに刊行されて大きな反響を呼び、これが後世に印章の文字に応用されて印相学の基礎となったとされる。 一般に印相学に基づくとされる印章は、印材には象牙、水牛の角、柘植などが用いられ、印面の大きさは実印で1.5センチメートル、認め印は1.2センチメートル程度の円形で、書体にはゴミやカスの入りにくい印相体が用いられる。避けるべき凶相として、欠けのある印や、欠けやすい水晶の印材や二重枠、模様、(日本では一般的ではない)指輪型印章などか挙げられる。 こうした「印相の良い」とされる特徴に従った印章は、ごく無難で、大量生産向けの印章に見られるものである。現代日本における開運商法の商材としての印章は、広告を用いて集客を行う通信販売を販路に、都市部から離れた地方での安い労働力を使って生産され、印相がよいとされる印章を売るのがその主流となっており、「開運の印」と称して高額な印章が売買されることがある。こうした開運商法の商材としての印章は、一般的な印章店と異なり印材の材質や寸法、書体などを自由に選ぶことができないことが多く、印章業者から「印相学に基づいた縁起物」として一方的に仕様を押し付けられることが普通である。全日本印章業組合連合会(後の公益社団法人全日本印章業協会)では、人心を惑わせるような占いの商材に印章を用いることに対して否定的な立場を取っていたが、占いが科学的な真実である必要はないため、信心を元に印章を売買することは自由に行われている。また印相学自体にも、欠けにくい印材や目詰まりを起こしにくい書体を用いて円滑な押印を行うための経験則が集約されており、何の根拠もない迷信とは言い切れない一面もある。運気を呼び込むのは印相よりもまず人柄であるという主張や、伝統ある篆書体それ自体が神聖でありそれを崩すことは吉相から遠ざかるとする主張もある一方で、印を押すような人生の局面で失敗をしたくないという大衆心理は根強く、印影に吉相を求める需要は多い。
※この「印章にまつわる信仰や迷信」の解説は、「印章」の解説の一部です。
「印章にまつわる信仰や迷信」を含む「印章」の記事については、「印章」の概要を参照ください。
- 印章にまつわる信仰や迷信のページへのリンク