保護保全活動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/29 07:54 UTC 版)
「平松のウツクシマツ自生地」の記事における「保護保全活動」の解説
ウツクシマツのある湖南市平松地区では、古来よりの名所であるウツクシマツの自生地を守ろうと、地元平松地区住民らが中心となり1963年(昭和38年)に「平松ウツクシマツ自生地保護会」が結成され、その保護に取り組みはじめた。平松地区在住児童通学区域の湖南市立三雲小学校(1874年(明治7年開校)の校歌の歌詞にもウツクシマツは歌われるなど、地域の人々との結び付きが強いものがある。1978年(昭和53年)には日本全国で発生した松くい虫(マツノセンザイチュウ)によるマツ枯れ被害を受け始めたため、翌1979年(昭和54年)に当時の甲西町では「天然記念物平松のウツクシマツ自生地保護対策委員会」を設置し、薬剤の樹幹への注入による虫の除去が行われ、マツ枯れの進行は一時的に沈静化した。 その後も地域住民らによって消毒等の保全活動が継続されたが、松くい虫による被害は終わらず、毎年平均7本のウツクシマツが枯死し続けたが、2010年代に入り、急速に松枯れが進み、1980年(昭和55年)に255本あったウツクシマツは2016年(平成28年)に115本に減り、2018年(平成30年)6月には97本、同年11月には82本と被害が拡大し、このままでは数年のうちに消滅しかねない危機的状況に陥ってしまった。 事態を重く見た湖南市では平成30年度から国の支援を受け、有識者を交えた保存計画策定委員会を設置し会合を重ね、2021年(令和3年)3月末までに新たな保存計画を策定する予定で、計画策定委員長の大阪産業大学の前迫ゆかり教授は「想像以上に危機的な状況で、生態系を見極めた対策を早急に行う必要がある」としている。滋賀県も計画を支援をする構えで、同県知事の三日月大造は「ウツクシマツの自生地はわが国を代表する植生として、その価値が高く評価されており、県としてもその価値を後世に向けて守り伝えていく使命があると」発言している。 滋賀県森林センターでは、前述した実生木から交配を重ね明らかになった劣性遺伝の性質を利用した、松くい虫に抵抗性のあるウツクシマツを作る研究を甲賀市にある圃場で行っている。具体的には、ウツクシマツ型F1およびF2と松くい虫抵抗性を持つアカマツを交配すると抵抗性のある子F3が出来たが、メンデルの法則から予想されたとおり、ウツクシマツ型のF3は1本もなかった。そのため更にF3同士、またはF3とウツクシマツ型F2を交配させて出来るF4苗を作り、このF4苗の苗木に対して人為的に松くい虫を接種したところ、F3同士を交配したF4苗159本中、枯死したのは9本、異常を示したのは37本、健全な状態であったのは114本と、完全ではないものの、松くい虫に対して抵抗性を持つ苗が76.1パーセントに達した。ただし、これら品種改良されたウツクシマツは文化財保護法の観点から、指定地へ移植することはできない。 また、林野庁所管の国立研究開発法人森林研究・整備機構の関西育種場(岡山県勝田郡勝央町)では、平松のウツクシマツの20個体を保存種として1978年(昭和53年)にクローン収集し、定植したうちの16クローン30本が保存されている。なお、近隣を走る名神高速道路の菩提寺パーキングエリア上り線には、1962年(昭和37年)当時の甲西町の指定地外より移植されたウツクシマツが植樹されており、パーキング利用者は自由に見学することができる。 このように保全に向けて、官民でさまざまな取り組みが行われており、2010年(平成22年)には地元の高齢者らによる「平松長寿会」が保全活動をはじめ、自生しているウツクシマツ1本ずつの状態を確認し、採種した種を育成する活動が続いている。同会ではこれまでに約80本を植樹したが、松は成長するのに数十年が必要なため、高齢者が主体の同会では次世代へ活動を受け継いでいくことが重要であるとして、2017年(平成29年)には前述したウツクシマツが校歌にも歌われている三雲小学校の児童と一緒に種まきをし、地域の大切な遺産を若い世代に継いでいく活動が行われている。
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